7月31日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール予選で日本はアルゼンチンと対戦し、3-1と勝利を収めている。決勝トーナメント進出に向け、一歩前進した。 接戦で敗れたドイツ戦に続いて、簡単な試合ではなかった。1、2セットを連取し…

 7月31日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール予選で日本はアルゼンチンと対戦し、3-1と勝利を収めている。決勝トーナメント進出に向け、一歩前進した。

 接戦で敗れたドイツ戦に続いて、簡単な試合ではなかった。1、2セットを連取したが、第3セットを奪われ、4セット目も25-23と、どう転んでもおかしくない展開だったと言える。

「五輪の難しさ」

 多くの選手がそう振り返ったように、厳しい五輪予選を勝ち抜き、国の威信をかけて挑んでくる相手は、どこも牙や爪を持つ。突き放した、と思っても食らいついてくるし、追いついた、と思うと離される。

「まずは1勝して、ホッとしているってところはあります。でも、次にアメリカ戦があって、予選通過が関わってくるので、気は抜けないです。あらためて、オリンピックは勝つのは難しいと、実感した試合でした」

 アルゼンチン戦後、取材エリアに現れた石川祐希は向けられたレコーダーにそう語っている。自らがエースとして、試合を決めるようなプレーをしなければならない。同時に、キャプテンとしてチームをまとめる使命もある。それは相当な重圧だろう。

 ドイツ戦では、初めて足を攣(つ)ったという。オリンピック村で「いつもより歩く量が増えた」とも言うが、それだけ五輪は心身の消耗が激しい。本人が受け止めている以上の重圧だ。

 エースでありキャプテンでもある石川は、パリ五輪とどう対峙しているのか?



アルゼンチンを破り、ホッとした表情を浮かべる石川祐希 photo by Nakamura Hiroyuki

 アルゼンチン戦で石川は、1セット目を落としたドイツ戦の教訓から「入り方に気をつけよう」と意識を統一させていた。そのおかげで、サイドアウトを取れたし、西田有志のサーブも冴えた。万全な立ち上がりだった。

 分岐点となったのは第2セットかもしれない。しぶとく守るアルゼンチンを相手に、日本は終始リードを許す展開だった。

 終盤に入りかけたところ、粘り強いラリーのあとだ。石川がバックアタックを撃ち抜き、16-17と1点差に迫る。エースの豪快な得点によって勢いを得たのか、その後、石川がバックアタックの跳躍に入ると、観客も含めて"騙される"。一転、「フェイクセット」で西田へのトスを選択し、どよめきのなかでスパイクが決まった。それは練習から得意とするプレーのひとつだが、大舞台でやってのける度胸とセンスは瞠目に値した。

【「1セット目はよかった」】

 こうした規格外のプレーの連続は観客を沸かせ、味方を勇気づけ、敵を動揺させる。気運を呼び寄せるのだ。

 そして19-20と拮抗した場面で、日本のブロックのタッチをめぐって、ビデオ判定になる。ノータッチの判定で同点になったが、アルゼンチン側は「ビデオでも触っている」とキャプテンが猛抗議。イエローカードが出され、さらにその直後にはベンチにレッドカードが出た。これで1点を追加した日本は21-20とリードしたのだ。

 アルゼンチンの自滅かもしれないが、逆転を誘発したのは石川が与えた脅威だった。破格のプレーはエースにふさわしい。

 ただ、石川自身は自分のプレーについてよりも、チームマネジメントの志向が強い証言をしていた。

「ドイツ戦後にも話したと思うんですが、ブレイクチャンスで取りきれていなかったので、そこを課題に挑みました。今日の1セット目はよかったですね。ブレイクも、ドイツ戦以上にものにできていたのかなと思います。ただ、ブレイクチャンスやアタッカーのミスも目立った試合だったと思うので、僕も含めて、そのパフォーマンスを修正していかないと」

 さらに、石川は戦略的な話もしている。

「オリンピックは、サーブも大事な要素になると思います。今日の1セット目は、西田選手のサーブが走っていたので、サーブって大事だな、って思いましたね。どれだけサーブを決めていけるか。僕たちの前に試合をしていたブラジルとポーランドも、最後は(ポーランドのウィルフレド・)レオン選手が2本サーブを決めて締めていたんで」

 キャプテンというポジションが与えるものなのか、顔つきまでリーダーの責任感を感じさせた。

「自分たちは、この大会を勝ちにきたので、そのために戦うつもりです。いろいろと考えても仕方ない。限られた試合でどれだけベストを尽くせるか、自分たちのバレーができるか。結果以上にそこが大事ですね。それがなければ、結果もついてこないので」

 パリ五輪が開幕する2日前、石川はそう話していたが、勝利の方程式は出来上がっている。

 粘り強くラリーを続け、戦いをモノにする「自分たちのバレー」は世界トップレベルだろう。丁寧にブロックフォローし、チーム全体でひとつもサボらず、高さやパワーに対抗。石川、西田、髙橋藍がコンビネーションの仕上げで相手を撃ち抜く。時間をかけて作ってきた形は、彼らにコートで自信を与える。アルゼンチン戦のように、それがハマった時は流れをものにできるはずだ。

「勝つのが難しいのは、やっている選手が一番に感じています。これがオリンピックで、(試合後の円陣では)『すぐにアメリカ戦があるので、持っているものはすべて出そう!』と伝えました」

 石川の視線はすでに次を向いていた。エースとしても、キャプテンとしても、戦い抜く覚悟だ。

 8月2日、日本はアメリカとの戦いに挑む。