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このオフにさいたまブロンコスへ移籍した松井啓十郎。“KJ”のニックネームでも知られる元日本代表が以前からの知り合いであるアメリカ代表ヘッドコーチ、スティーブ・カーに直談判して実現したのがアメリカ代表合宿の取材だった。
7月、合宿地のラスベガスに降り立ったKJは、早速カーとの再会を果たす。加えてKJが通っていたモントロスクリスチャン高校の後輩にあたるケビン・デュラント(フェニックス・サンズ)とも旧知を温めた。
KJはカーHCが用意してくれた席で4日間、間近で練習を見学することになる。一般のメディアは2階席からの取材となるが、KJはプレーヤーの汗が飛んできてもおかしくない1階の“特等席”でスーパースターたちの動向をチェックした。
ここでは、最終ロスターに残った12名、その一人ずつの感想をKJに語ってもらっている。昨年のワールドカップで優勝を逃したアメリカ代表だが、大会が終わった直後からレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)が参加を呼びかけ結成されたアメリカ代表は“アベンジャーズ”とも表現されるほどの豪華メンバーがそろったことでも注目を集めている。
■ステフィン・カリー「初めて五輪の舞台に立つ世界一のシューター」
ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)は世界一のシューターです。ですから、カリーと一緒にプレーできることを喜んでいるプレーヤーも多いと聞いています。それに彼がシュートを決めるとチームが盛り上がっていました。ポジションはポイントガードですが、レブロンはカリーをうまく使おうという意図が見えましたし、オフボールの動きからのキャッチ&シュートの練習に時間を割いていました。
オリンピックではNBAで普段使っているボールと違うものが採用されています。これまでのオリンピックや国際大会でボールになじめずに苦労しているプレーヤーが多かったのですが、カリーは縫い目に合わせてシュートしたり、逆にあえて外して打ったりとか、結構細かいところの調整をしていました。カリーにとって初めてのオリンピックですので、準備にぬかりはないようです。
■アンソニー・エドワーズ「これからのアメリカ代表を支える存在になれるか」
過去にはマイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズほか)、コービー・ブライアント(元レイカーズ)、ドウェイン・ウェイド(元マイアミ・ヒートほか)というレジェンドがいましたが、シューティングガードのポジションはこのチームの中で唯一の弱点と言えます。それだけにカーHCはチーム内で競争させているようです。
アンソニー・エドワーズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)は五輪期間中に23歳になる若手ですが、将来を嘱望されている存在。競争心もありますし、ハンドラーとしても起用があるでしょう。また、ディフェンスがアグレッシブなことも期待される部分ですが、FIBAの笛に慣れていないこともあり、ファウルトラブルに要注意です。
■レブロン・ジェームズ「体調は万全、チームの雰囲気作りにも気配り」
昨年のワールドカップでアメリカ代表は4位という結果に終わりました。大会直後、レブロンがパリ五輪への参加を表明、それに呼応するようにカリーやデュラントらNBAのスーパースターたちも追随し、21世紀最強とも言えるメンバーがそろいました。
年齢的にも今大会が五輪の最後だと思っているようですし、それだけに気合の入れ方がすごいと言えます。合宿の初日のレブロンの動きを見たら、十分準備してきたことがわかりますし、万全なコンディションで大会に入れると思います。
練習中もディフェンスのローテーションやオフェンスのセットについても細かいところを確認していました。ただ、それでシリアスになりすぎないところがレブロンのすごいところ。練習中にジョークを言ったりして、雰囲気作りにも気を配っていたのが印象的です。
■ケビン・デュラント「国際大会にめっぽう強いKDだけに目が離せない」
KDこと、ケビン・デュラントは国際大会でも得点力の高さを遺憾なく発揮して、パリオリンピックでは4大会連続で金メダル獲得を目指します。レブロン、カリーと並んでチームを引っ張る存在でもあります。
KDのシュートは対戦相手の脅威になることに疑う余地はないと思います。ステップバックの長さが他のNBAプレーヤーと比べても長いので、フェイダウェイで打たれてしまったら止めようがないと言えます。フランスの(ビクター)ウェンバンヤマ(サンアントニオ・スパーズ)でも止めることは難しいでしょう。
ただ、6月に負った右ふくらはぎの肉離れのため合宿では別メニューで調整、大会前の強化試合4試合をすべて欠場しました。それでもカーHCの信頼は厚く、彼の本領が発揮されるのは大会序盤ではなく、決勝トーナメントに入ってからかもしれません。
■デリック・ホワイト「地味な仕事を引き受けるチームのスパイス」
合宿開始時にはカワイ・レナード(ロサンゼルス・クリッパーズ)が登録されていましたが、「NBAシーズンへの準備に重きを置きたい」とコンディション調整のため離脱。そこに今年のNBAファイナルで活躍したデリック・ホワイト(ボストン・セルティックス)が追加招集されました。
華やかなロスターにあって、SGのホワイトの役割は相手のエースを抑えるというあまり目立たないポジション。でもホワイトはボール運びもできますし、シュート力もあるだけにチームのスパイス的な存在になると思います。
遅れてチームに参加した分、コミュニケーションやコンビネーションが心配とも言えます。ただし代表にはセルティックスのチームメートとなる(ジェイソン)テイタムや(ドリュー)ホリデーがいるので、問題ないでしょう。
■タイリース・ハリバートン「4年後を見据えてNBAアシスト王をロスター入り」
NBA2023−24シーズン、10.9本のアシストを記録してタイトルリーダーとなった対リール・ハリバートン(インディアナ・ペイサーズ)は、4年ぶりのプレーオフ、さらにはカンファレンスファイナルに導いた功労者と言えるでしょう。持ち味はスピード。早くボールを運んでパスを散らすことで、相手のディフェンスは的が絞れなくなります。
一方で、あまり自分でプレーメイクする感じではなく、他のプレーヤーに預ける感じもします。ただ、オープンになれば自分でも3ポイントを打てますから、当然ノーマークにするわけにはならないと思います。
ハリバートンは現在24歳。4年後のロサンゼルスオリンピックではアメリカ代表の主力となっているはず。そのようなプレーヤーをロスターに入れておくにも、アメリカが強い理由かもしれません。
■ジェイソン・テイタム「テイタムをベンチに置けるのはやっぱり贅沢」
KDが万全ではないという状況の中、ジェイソン・テイタム(セルティックス)の存在はアメリカ代表にとっても貴重なはず。ポジション的には2番から4番までプレーでき、しかもディフェンスがいい。それだけにKDやレブロンがファウルトラブルに陥ったときに使える貴重なピースです。
ボールに慣れていないからか強化試合でターンオーバーが目立つような気もしますが、それはそれほど問題ないでしょう。スーパースター軍団だけに誰がコートに立っても戦力が低下することはないと思いますが、テイタムのようなプレーヤーがベンチにいることでコーチ人は心強いはず。ユーティリティプレーヤーとしてアメリカの金メダル獲得に十分貢献できるはずです。その役割がテイタムであるというのは、やっぱり贅沢な布陣であると言わざるを得ません。
■ジョエル・エンビード「唯一のセンターとして重要な仕事が待っている」
第一印象は「とにかくでかい!」。サイズがあり、フィジカルも強く、唯一のセンターと言える存在です。さらに3ポイントを軽々打てるシュートレンジの広さも持っており、チームには欠かせないプレーヤー。カーHCはカリー、レブロン、そしてエンビードの3人はスターターに固定したいと考えており、金メダル獲得のカギを握る存在です。
ライバルとなると言われているフランスにはルディ・ゴベア(ユタ・ジャズ)、セルビアにはニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ)といったNBAを代表するセンターがロスター入りしています。彼らを自由にプレーさせないためにもエンビードの役割は大きいでしょう。 また、シュートが入らなくなったり、オフェンスのリズムが悪くなったら、ローポストのエンビードに一度ボールを入れて、チームのリズムを整える事も考えられます。
■ドリュー・ホリデー「セルフィッシュなところがないチームの潤滑油」
「うまいな−」と思わず口に出してしまうのがホリデーです。やっぱり目についたのがディフェンスでマークマンにきっちりついていきますし、またヘルプディフェンスのうまさも見せてくれました。試合の大事なところで絡んでくるキーパーソンになるかもしれません。
ホリデーは東京オリンピックの金メダルメンバーではありますが、代表経験が抱負というわけではありません。しかし、チームメートからのリスペクトを得ていますし、なぜ最優秀守備選手賞を取ったことがないことにみんな驚いていますし、彼がオフェンスにやられてしまっても仕方がないと思われるのではないでしょうか。
どんなに豪華な布陣であってもゲームではボールを1個しか使いません。セルフィッシュな部分を見せず、ボールを共有させる潤滑油的な役割も期待されていると思います。
■バム・アデバヨ「豪華なチームに1人は欲しいロールプレーヤー」
強化試合ではAD(アンソニー・デイビス)がセンター、バム・アデバヨ(マイアミ・ヒート)がパワーフォワードというセットで出ていました。インサイドのビッグはこの2人にエンビードだけなので、機動力があり、ミドルレンジのシュートもうまいアデバヨは貴重な戦力になると思います。
大きな武器であるリバウンドについては、彼がゴール下にいるだけでウイングは相手がシュートを打ったタイミングで走れるはず。ADのような派手さはありませんが、チームのリズムを整えたりADのサポート役をしたりと、華やかなチームにあってロールモデルのような存在。アメリカ代表で同じ役割を担うホリデーやホワイトのインサイド版と言えます。
■アンソニー・デイビス「プレーヤーとして一皮むける大会に」
ADは元気です。練習にもすべて参加していましたし、特に5対5へ積極的に参加していました。ADはピック&ロールでズレを作るのがうまいので、ボールハンドラーは彼を使ってオフェンスを組み立てているように感じました。
もちろんポストアップして確実に点を取れます。加えて、オフェンスリバウンドをねじ込んだり、アリーウープを叩き込んだりすることも得意で、だからこそダブルダブルのスタッツを残せるのでしょう。
31歳になりベテランの域に踏み入れたAD。個人的なプライドもあると思いますが、レブロンのようにアメリカのために金メダルを獲得するようフォア・ザ・チームの精神を見せてくれれば、プレーヤーとしてさらに一皮むけるのではないでしょうか。
■デビン・ブッカー「金メダル獲得に欠かせない切り札」
アメリカ対策としてゾーンディフェンスを敷くチームがきっと出てくると想像できます。やっぱりこれだけのメンバーをマンツーマンディフェンスだけで抑えるのはかなり厳しいからです。そのときがデビン・ブッカー(サンズ)の出番と言えるでしょう。ブッカーは1本決まればどんどん決めていくプレーヤーでありながら、調子の波が少ないことも特徴です。リング下を固めてくる相手のディフェンスを外に広げて、チームとして攻めるスペースを作り出すためにも貴重な戦力なわけです。
確かにそれだけに特化してブッカーを起用するのはもったいない気がしますが、金メダルを獲得することにフォーカスすればやはり欠かせない切り札です。尊敬するコービー・ブライアント(元レイカーズ)を彷彿させる滑らかなドリブルやシュートをパリでも見せてほしいと思います。