山本麻衣は、5本の3ポイントを含む17得点をマーク photo by FIBA パリオリンピックの女子バスケットボールで…

山本麻衣は、5本の3ポイントを含む17得点をマーク
photo by FIBA
パリオリンピックの女子バスケットボールで金メダル獲得を目標に掲げる日本は、7月29日の予選リーグ初戦を五輪7連覇中のアメリカと対戦。後半の立ち上がりからの攻勢で差を広げられ76―102と敗退したが、前半は攻守ともに持ち味を発揮するなど、試合を通していいバスケットボールを展開した。
今回のパリ五輪女子代表戦について、1996年アトランタ五輪代表、日本人初のWNBA選手で現在はWリーグ・東京羽田ヴィッキーズHCを務める萩原美樹子氏に振り返ってもらった。アメリカ戦の振り返りと次戦・ドイツ戦へのポイントとは?
萩原美樹子の視点で見るパリ五輪女子バスケ日本代表01
【髙田を乗せた宮崎と得点力を発揮した山本】
日本はよかった。
ところが、アメリカは日本のさらに上をいった印象です。
スコアは76―102と最終的には広がりましたが、前半は39―50で折り返し。恩塚亨ヘッドコーチ(HC)が目指す、人とボールがよく動き3ポイントシュートを打つ機会を増やすというゲームプランを、選手たちはしっかりと遂行していたと思います。この日、3ポイントシュートは39本中15本成功、38.5%の成功確率は十分に合格点が与えられます。
特にガードの山本麻衣選手は、5本の3ポイントシュートを決めるなど17得点。集中力の高さがうかがえました。
そして速さが持ち味のポイントガード、宮崎早織選手のゲームメイクも光りました。テンポを上げるだけでなく、アシストで周りの選手を生かす。特に前半、宮崎選手からのパスを受けた髙田真希選手が3ポイントシュートを決め、これで髙田選手は波に乗りました。
実は、フランス、ベルギーとの大会前の強化試合では髙田選手が本来の力を発揮できていない印象でしたが、この一本を決めたことで頼りになる髙田選手が戻ってきました。シュートを決めたあとのスロー映像でも、いい表情をしていましたね。
最終的には、アメリカ相手に2ポイントシュートは8本打ってすべて成功し、チームハイの24得点。特に後半は彼女の踏ん張りが印象的でした。この活躍は、準々決勝進出に向けた得失点差、総得点などに大きな意味を持ってくるかもしれません。
【死角のなかったアメリカの強さ】

アメリカ戦で本来の持ち味を取り戻した髙田真希
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では、なぜ、これだけの差がついてしまったのか?
日本は東京オリンピックが終わってからトム・ホーバスHCから恩塚HCに交代。2年前に開催されたワールドカップでは1勝4敗でグループステージ敗退となってしまいましたが、今年2月のオリンピック世界最終予選を勝ち抜き、チーム力は向上しました。だからこそ、恩塚HCも「アメリカを破って金メダル」という目標を掲げたはずです。
ところが、アメリカは本当に強かった。
193センチのエイジャ・ウィルソン(WNBA_ラスベガス・エーシズ)が24得点、191センチのブリアナ・スチュアート(WNBA_ニューヨーク・リバティ)が22得点と、日本はこのふたりを止めることができませんでした。それも決して高さだけではなく、彼女たちは走力もあり、先陣を切ってフロアを走る姿にアメリカの強さを見ました。
日本もディフェンス面で、決して対策をしていなかったわけではありません。東京オリンピックの決勝で悔しい思いをしたこともあり、恩塚HCは相手オフェンスの起点となる「パスの出所を抑える」ということを強調してきました。高さのあるインサイドにボールを入れられてしまったら、得点される確率が上がってしまうので、その前段階、パスを出す選手を抑えるという意図です。しかし、この試合ではそのプランがうまくいかず、ポイントガードのチェルシー・グレー(エーシズ)に13アシストを許してしまいました。起点を抑えることに関しては、次戦以降に大きな課題を残しました。
アメリカは3年前に東京オリンピックで金メダルを獲得した時よりも強くなっていますね。まさに、死角がない。いったい、このアメリカを倒せる国があるのだろうか? そう考えてしまうほどの強さです。
アメリカがチーム力の底上げが実現できたのは国内プロリーグ、WNBAの充実があるからだと思います。
数年前、関係者からは「アメリカの女子バスケ人気がすごい」と聞いてはいたのですが、今年の5月、ニューヨークにコーチ研修で訪れた時も、熱気だけでなく、選手たちのスキル、そしてバスケットボールの質が向上している印象を受けました。実際、今年は大学ナンバーワンを決めるNCAAトーナメント決勝では、テレビの視聴者数では、女子が男子を史上初めて上回るほどの人気を博しています。それだけ、試合内容も面白くなっています。
アメリカの進化を見るにつけ、日本がオリンピックで金メダルを目指すとしたら、国内のWリーグの質を充実させていかなければならない−−と改めて実感しました。
【ドイツ戦勝利のためのふたつのカギ】
さて、日本はアメリカに敗れたため、準々決勝進出のためには8月1日に行なわれるドイツ戦、8月4日のベルギー戦は落とせない戦いになります。ちなみにドイツ対ベルギーは、ドイツが勝っています。
ドイツも大型チームで、シューティングガードのレオニー・フィービッチ(WNBA_ニューヨーク・リバティ)が192センチ、ベルギー戦では3ポイントシュートを4本打って3本成功、チーム全体でも50%の高確率をマークしました。
また、187センチのフォワード、ニャラ・サバリー(リバティ)がインサイドでは"無双"状態だったのですが、顔のケガで第3クォーターで退場。日本戦で彼女がプレーできるかどうかは、まだ不明です。日本は、アメリカ戦で髙田以外の選手たちがインサイドのオフェンスで苦戦を強いられたこともあり、サバリーが出場するかどうかで、得点力に大きな影響がありそうです。
では、勝つために必要なことを考えていくと、ふたつのことが思い浮かびます。
まずは、ターンオーバーを減らすこと。
初戦は、日本国内では通るパスが、腕の長いアメリカの選手には引っかかってしまい、ターンオーバーされるシーンが目立ちました。私がアンダーカテゴリーの日本代表のヘッドコーチを務めていた時も、世界大会が始まって最初の段階で頻発するシーンでした。日本国内の感覚が抜けきらないのが要因ですが、試合を重ねるにつれ、対処できるようになります。
アメリカは最もリーチが長く、しかもスピードのあるチームですから、むしろ、最初にアメリカの腕の長さを経験したことがプラスに働くかもしれません。
そしてもうひとつ、ドイツに勝つためには、アメリカ戦の前半戦で見せたような強度の高いディフェンスを40分間やり続けることが必要です。
オフェンスとディフェンスは表裏一体。オフェンスがうまくいけば、気持ちも乗ってくるので、ディフェンスもよくなります。反対にシュートが落ちだすと、一瞬、気持ちが落ち込み、ディフェンスへの気持ちの切り替えが遅くなってしまいます。アメリカは後半、その隙を突いてきたので、ドイツ戦では、オフェンスでリズムに乗り、それをディフェンスへとつなぎたいところです。
ここからが本当の戦いで、グループCを2位で通過できれば、決勝でもう一度アメリカと対戦できる可能性が高まります。3位通過だと、準々決勝での再戦もあり得ます。
頂点を目指すためにもドイツ戦が重要で、選手、スタッフにはアメリカ戦がいいレッスンになった――という試合を期待したいと思います。
【Profile】萩原美樹子(はぎわら・みきこ)/1970年4月17日生まれ、福島県出身。福島女子高→共同石油・ジャパンエナジー(現・ENEOS)→WNBAサクラメント・モナークス→WNBAフェニックス・マーキュリー→ジャパンエナジー。現役時代は、アウトサイドのシュート力に定評のあるフォワードとして活躍。日本代表でも多くの国際大会に出場し、1996年アトランタ五輪では1試合平均17.8得点、3Pシュート成功率44.2%をマーク。準々決勝のアメリカ戦でも22得点をマークするなどその活躍が目に留まり、翌年、ドラフでWNBA入りし、2年間プレーした。現役引退後、早稲田大学を卒業。指導者として同大女子バスケボール部、2004年アテネ五輪女子代表のアシスタントコーチを務めるなど経験を積み、現在はWリーグ・東京羽田ヴィッキーズで指揮をとる。