引退の理由を語ってくれた浅倉カンナ。(C)RIZIN FF考え込んでから明かした「胸の内」 7月28日、会場となったさいたまスーパーアリーナの熱気が冷めやらぬリングの上に浅倉カンナ(BLACKBELT JAPAN)は立った。そしてマ…

引退の理由を語ってくれた浅倉カンナ。(C)RIZIN FF

考え込んでから明かした「胸の内」

 7月28日、会場となったさいたまスーパーアリーナの熱気が冷めやらぬリングの上に浅倉カンナ(BLACKBELT JAPAN)は立った。そしてマイクを握った彼女は、自らの引退を宣言した。

「次の試合で自分の最後の試合になります。自分は高校生のころからRIZINに出させてもらって成長させてもらいました。皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。最後に王者と対戦できることをうれしく思います」

【写真】引退マッチへ!浅倉カンナの特集ギャラリー!

 大入りの会場もどよめいた。17歳でMMAに本格挑戦して以来、格闘技一筋で歩んできたカンナが引退をするという事実に、誰もが驚きを隠しきれなかったのかもしれない。かくいう筆者も決断を初めて耳にした時には「まだやれるだろう」という想いがこみ上げたのが、正直なところだった。

 なぜなら、ちょうど1年前に本人から「次も勝ちたいなって思いました」という言葉を聞いていたからだ。昨年7月の「超RIZIN2」に来場していたカンナは怪我から回復。本格的な実戦復帰に向け、本格的に始動しているタイミングでもあった。この時の言動から「引退」の二文字など全くと言っていいほどよぎらなかった。

「そうでしたか。無理していたのかもしれませんね(笑)」

 当時を本人に振り返ってもらうと、落ち着きを払った笑みを浮かべながら、そう回顧する。カンナ曰く、あの時にはすでに引退を決意していたという。

「引退を決めたのは去年の11月ぐらいだったと思います。正直、これっていう決定的な何かがあったわけじゃないんです。でも、この2~3年、なんかモヤモヤしていて。そんな中で、前回のV.V Mei(フリー)さんとの試合(23年4月/『RIZIN LANDMARK 5』)を『勝ったら気持ちが変わるかもしれない』と思って戦ったんですけど、結局、勝っても気持ちが盛り上がることがなくて。そこから考えて決めました」

 引退はアスリートにとって一大決心。しかし、カンナの表情は穏やかだった。キャリアを振り返る目に曇りはなく、どこかスッキリしているようにも見えた。そこで「燃え尽き症候群みたいなものがあったのか」と単刀直入に訊いた。

 すると、彼女は数秒考え込む。そして、胸の内に秘めた想いを明かしてくれた。

「それで言うと、SARAMI(パンクラスイズム横浜)戦(22年4月/『RIZIN 35』)の後に、燃え尽きみたいな状態になったんですよね。でも、すぐ後にトーナメント(22年7月/『RIZIN女子スーパーアトム級ワールドグランプリ1回戦』でパク・シウ(KRAZY BEE)選手との試合があって、そこで負けて……今思えば、その辺から(引退を)考え始めていたのかなと思います。

 今までは試合が終わったら早く次の試合がしたいと常に思っていたし、RIZINの会場に行って人の試合を見たら自分も熱くなって『試合がしたいな』っていう気持ちがあったんです。でも、その頃からそれがなくなってきていたんです。本当に試合をするのも『しんどいな』っていう感じになってましたね」

“仲間”の涙にも鈍らなかった決意

 生半可ではない格闘技人生を歩んできた。

 父親の影響もあって幼稚園の年長時からレスリングに打ち込み、高校1年時に総合格闘家に転身。当時、「ツヨカワクイーン」としてシュートボクシングで異彩を放っていたRENA(シーザージム)に憧れ、2014年には17歳でプロデビューを飾った。

 プロデビュー以降は怒涛の日々だった。修斗、PANCRASE、DEEP JEWELS、そしてRIZNと複数団体を舞台に戦った。十代の少女には相当なハードワークだったが、幼少期から格闘技に打ち込み、心身を鍛えてきた影響も手伝い、ちょっとやそっとの出来事で辞めたいとは思わなかった。

「本当に最初は自分がただ強くなりたいという想いで格闘技をやっていたんです。でも、だんだんと応援してくれる人も増えてきて、そういう人たちの後押しがパワーになってましたね」

 だからこそ周囲は引退に少なからず驚いた。決意したカンナから報告を受けた家族、マネージャー、ジムの会長、トレーナーは「思っていたよりも早かった」と涙した。この時、苦楽を共にしてきた仲間たちの熱い想いに本人も胸が熱くなったのは想像に難くない。

 それでも決意は鈍らなかった。「(引退を決めて)楽になりましたね」と話す26歳は、こう続けた。

「自分で決めるまでは、結構、モヤモヤと悩んだりもした。でも、決めてからは、気持ちが楽になりました。今まで先が見えなかったのが、やっと終わりが見えたっていう感じですね」

 もちろん、リングから離れた後の人生も見据えている。「自分的には暗い感じの引退じゃない」と言うカンナは「格闘技のない女子を楽しみたいですね」と笑う。

「とりあえず女の子としての人生を楽しみたい。今までずっと誰かと競って生きてきたので、誰とも競わず、何にも追われない人生ってどんなだろうっていう楽しみもあります。当然、引退したら格闘家じゃなくなるので、そうなった時の自分も楽しみですね。怪我とかで引退しなきゃいけない選手もいる中で、こうして決められるのはすごくありがたいことだなと思います」

 そんな格闘技人生の集大成となる一戦の相手は、女子スーパーアトム級王者の伊澤星花(JAPAN TOP TEAM)。本人曰く伊澤は「とにかく強い」という強敵だが、「今までの試合は負けたらやばいというか、『カンナが勝つだろう』みたいな相手が多かったので、メンタル的にもしんどかった。ですけど、今回はフレッシュな状態で、気持ちよく戦えると思います」と精神的なコンディションは万全だ。

「純情可憐タックル女子」の異名を授かり、日本の女子格闘技を彩ってきた一人でもあるカンナは、キャリアの集大成をいかに飾るのか。心身ともに万全だという彼女の最後の舞台には期待しかない。

[取材・文:羽澄凜太郎]

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