7月27日、サウス・パリ・アリーナ。試合後のミックスゾーンでは、ドイツの選手とドイツ人関係者が大柄な体でがっしりと抱き合い、喜びの咆哮を上げていた。パリ五輪でも有力な金メダル候補の日本をフルセットの末に倒し、感無量の様子だった。乾坤一擲の…

 7月27日、サウス・パリ・アリーナ。試合後のミックスゾーンでは、ドイツの選手とドイツ人関係者が大柄な体でがっしりと抱き合い、喜びの咆哮を上げていた。パリ五輪でも有力な金メダル候補の日本をフルセットの末に倒し、感無量の様子だった。乾坤一擲の勝負だったのだ。

「どこかに余裕を持ちすぎていたかもしれません」

 日本のキャプテンである石川祐希がそう語ったように、"追われる立場"の強者に出た一瞬の隙か。背水の覚悟に砕けた格好だ。

 パリ五輪バレーボール男子、日本は開幕戦でドイツに敗れている。試合をとおして見れば、決して悪かったわけではない。1セット目を失ったが、2、3セットを取り返し、王手をかけたが、最後は勝利を逃した。

「負けず嫌い」

 そこに自らのアイデンティティを感じる髙橋藍が、この敗北をどう受け止め、勝ち筋を見つけようとしているのか、聞いてみたくなった。

「試合入りのところで、自分自身、サーブで崩されてしまって。そこからスパイクが向こうのディフェンスに上げられ、1セット目は調子を上げられず、リズムを作れませんでした」

 髙橋はそう言って、17-25と空回りしたまま落とした第1セットについて振り返っている。

「入りのところで力みはあったし、ドイツの(ギョルギ・)グロゼル選手のサーブはよかったし、オリンピックの独特な雰囲気もあったんですが......相手は死に物狂いで戦ってきているなって思いました。そこで気持ちをぶつけられた感じですね。1セット目の出だし、どっちが勢いを持てるか、という戦いだったと思うんですが、その流れに乗れませんでした」



初戦でドイツに敗れたものの、試合後は切り替えて次戦を見据えていた髙橋藍 photo by Nakamura Hiroyuki

 髙橋本人が明かしたように、彼個人も本来のプレーではなかった。サーブレシーブに乱れが出て、スパイクもブロックに捕まっていた。1セット目の途中で、珍しくベンチに下がったほどだ。

「サーブで崩されたし、スパイクも決まらないことが続いていたので、(フィリップ・)ブラン監督からも、一回外へ出て、『気持ちをリフレッシュするように』というところでした。ああいうシチュエーションになると周りが見えなくなるところもあるので、戻るための準備が必要かなって。リズムを作れない悔しさもありましたが、チーム全員で戦っていますし、誰が出ても強い日本なので......」

【勝利に届かなかった理由は?】

 髙橋はおくびにも出さなかったが、ケガをした足首は万全だったわけではない。パリに入ってからの会場練習でも痛みは出たという。

「100%ではないですけど、100%にもっていくしかない、と思っています。モチベーションで持っていく。最後は痛みがあっても、オリンピックにかけている気持ちで戦いたいです」

 前々日の練習後の取材、髙橋がそう洩らしていたが、ドイツ戦でも影響はあっただろう。ただ、ほとんど生来的な負けず嫌いは、事実を正面から受け止めていた。勝者はすべてを乗り越えるべきものなのだ。

 第2セット、第3セットと取り返し、実は日本は流れを引き寄せていた。入りは悪かったが、巻き返しに成功していたのである。そして迎えた4セット目、接戦を28-30で落とした場面にこそ、試合の分岐点はあったかもしれない。

――2、3セットと巻き返しながら、最後は勝利に届かなかった理由とは?

 筆者がそう訊ねると、髙橋は目を合わせて答えている。

「一番キーになったのは、やっぱり4セット目かなと思います。終盤、あそこを取るか取らないか、勝敗を決めたかなと。相手がミスを出した時、自分たちもミスを出してしまった。ネットタッチであったり、自分自身もアンテナタッチしてしまって。力が入り、点を取りに急いでいたと思います。気持ちを上げていくのも大事ですけど、冷静になれるかも大事だなと、今日は戦って思いました」

 微かな重みで傾く天秤の上にこそ、王者の勝ち筋はあるはずだった。今の日本には、戦いのなかで相手や状況を乗り越えられる適応力がある。ジャイアントキリングを狙い、全力を投じてきたドイツを相手に、1セット目こそ落としたものの、勝ちきれるだけの挽回を見せていた。しかし常勝チームらしくもない、勝ち急ぎがあって流れを逃したのだ。

「力が入って、無理にブロックを抜きにいっているシーンが多かったです。それで相手のブロックを食らっていました。リバウンド、ブロックアウトで、ミスにしないのも重要で......。日本はディフェンス力が高いだけに、たとえ1本が決まらなくても、もう一度ディフェンスをして切り返していくことを意識すべきでした」

 髙橋は次のアルゼンチン戦以降に向けて、冷静に勝ち筋を見つけていた。

「今日は、ふだんやるべきブロックフォローやフリーボールの処理が少し雑になっていました。リバウンドしたボールを攻撃につなげていくとか、いつもやっているところが疎かになっていたと思います。アルゼンチン戦からは、得点を取るために基本のところから見直さないと。それをやることでクオリティの高い日本のバレーを出せると思うので」

 そう説明した髙橋の表情に暗さはなかった。やるべきことはわかっている。悔しさはあっても、悪い流れに引きずられないメンタリティを、世界最高峰イタリアのセリエAで身につけた。

「今の日本は海外でも注目され、認められているので、それは嬉しいです。力をつけてきたことは、自信につながっています。強くなったところをオリンピックでも見せられたら」

 常勝精神で相手をねじ伏せられるようになったら、無敵のチームだ。7月31日、現地時間13時(日本時間20時)。日本はアルゼンチンと戦う。