伝統のスパ・フランコルシャンは、ドライバーたちを震わせるサーキットだ。 壁のようにそびえるオールージュからラディオンへの上り坂に、102.1メートルを45秒ほどで駆け下りるセクター2の高速セクション。 角田裕毅も、今週末のベルギーGPを楽…

 伝統のスパ・フランコルシャンは、ドライバーたちを震わせるサーキットだ。

 壁のようにそびえるオールージュからラディオンへの上り坂に、102.1メートルを45秒ほどで駆け下りるセクター2の高速セクション。

 角田裕毅も、今週末のベルギーGPを楽しみにしている。


角田裕毅がオールージュをどう攻略するのか楽しみ

 photo by BOOZY

「オールージュも特別ですし、バンクのついたコーナーも特別ですし、ファンの雰囲気も特別です。特に予選アタックは本当に難しくて、すべてをコントロールしきって完璧なアタックを決められたことはまだありません。今年は予選でアタックを完璧にまとめ上げられるのを楽しみにしています」

 とはいえ、「スパウェザー」と呼ばれる不安定な天候も、このスパ・フランコルシャンの名物だ。今週末は金曜と土曜が雨の予報で、日曜はドライ。予報など当てにならないスパウェザーだが、土曜は完全に1日中、雨の予報となっており、予選はウェットコンディションになる可能性が高そうだ。

「どんなコンディションでも、スパを走るのは楽しみです。ドライでも特別だけど、ウェットでもすばらしいですから」

 スパのセクター1とセクター3はほとんどがスロットル全開のストレート区間で、セクター2だけ中高速コーナーが連続する。空力効率がライバルに劣る今のRBのマシンにとっては、苦戦が予想されるサーキットだ。

 そういった背景があり、苦戦の予想とはいえストレートが長くオーバーテイクが容易なサーキットということもあり、RBはここで今季5基目のパワーユニットを角田に投入し、グリッド降格ペナルティを消化することに決めた。

「(角田)裕毅のほうに5基目を投入します。前回のダメージ度合がまだわからないとはいえ、かなり衝撃を受けているので、念のため。ここを逃すと(ペナルティ消化の)チャンスがないのでここで入れようという判断です」(ホンダ・折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャー)

【フリー走行から決勝特化のプログラム】

 前回のハンガリーGPの予選で激しいクラッシュをし、現在もまだ、そのパワーユニットはHRC Sakuraで慎重な調査が続けられている。もしそのパワーユニットが使用不可能となれば、残り3基でシーズン末まで戦うために、出力をやや抑えての戦いを強いられる。

 どこかで5基目を投入してペナルティを受けるなら、オーバーテイクが最も容易なスパ・フランコルシャンで、というのは過去何年にもわたる定石だ。だから同様に、マックス・フェルスタッペンも今回5基目のICE(内燃機関エンジン)を投入して10グリッド降格ペナルティを消化する。スパでの10グリッドは、ほかのどこよりも軽微で済むという言い方もできる。

 とはいえ、上位グリッドが狙えるフェルスタッペンに比べて、Q3に行けるかどうかという角田では置かれた状況が違い、最後方からのスタートは避けられない。

 そのため角田は、完全に「決勝特化」のプログラムをフリー走行からこなしていくことになる。予選のことは考えず、決勝で抜いて上がってこられるマシンづくりだけに専念できるとも言える。

「今週末は、ふだんとは少し違うアプローチを採ります。ここはいつも天候がトリッキーですので、天候を味方につけたいですね。もしドライコンディションで十分な速さがあれば、雨を期待する必要もないでしょうけど、もし速くなければシルバーストンの時のように雨を期待するしかない。でも、去年はドライで普通にポイントが獲れましたからね」

 天候が不安定な週末は、チームにとってもマシンセットアップの面で難しい。そしてパワーユニットを運用するホンダにとっても、それは同じだ。

「決勝までドライ走行がないと、シミュレーションと過去の経験値で進めるしかないので、けっこう大変です。PU自体が3年間変わっていないので大きく外すことはないと思いますが、今は細かいところで競っているので、難しいですね」(折原トラックサイドゼネラルマネージャー)

【中団グループ最上位で約3週間の夏休みに】

 路面のコンディションによって、ドライバーがスロットルペダルを踏む量と時間は刻々と変化してくる。結果、ハイブリッドシステムの必要とする電力量もどんどん変わってくる。それに合わせて常に最適な発電・放電のコントロールを行なわなければ、バッテリーが足りなくなって120kW(168馬力)のアシストが切れる時間が長くなり、大幅にタイムロスしてしまうのだ。

「コンディションによってスロットルの踏み方が全然違ってきてしまいますし、スパは1周がシーズンで一番長いサーキットで、エネルギーマネジメント(どこで発電しどこで使うかの設定)的には厳しいです。そんななかで金曜・土曜が雨で、決勝がいきなりドライだと、踏み方が全然違いますから、そこをどう予想するかが悩ましいところです」

 予選もウェットコンディションとなれば難しく、最も水量が少なくタイムが出やすいタイミングでアタックしなければ勝負にならなくなる。ドライの予選なら1周に狙いを定めてバッテリーをフルに使ってアシストするが、ウェットではタイミング重視で連続走行をすることもあり、それによって足りなくなるバッテリーをうまく配分して可能なかぎりタイムロスを小さくし、コンディションによる取り分のほうを大きくする工夫が必要になってくる。

 ウェット路面で果敢に攻めていくドライバーたちの妙技や度胸もさることながら、今の複雑なF1においては、背後にそれだけ大勢の人たちの努力と頭脳によって最高のアタックラップが生み出されているのだ。

 スパウェザーのなかでは、何が起るかわからない。そんなレース週末が終わると、F1は夏休みに入る。中団グループ最上位のチームとドライバーとしてシーズンを折り返すことを見据え、ベルギーGP週末に挑むRBと角田裕毅は何もあきらめてはいない。