シーズン4勝目、今のところ2017年最多勝ライダーである。 アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)の今回の勝利は、沈着冷静なレース展開の分析と状況判断がもたらした「巧い」勝ち方といっていいように思う。接戦をモノにして今季4…

 シーズン4勝目、今のところ2017年最多勝ライダーである。

 アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)の今回の勝利は、沈着冷静なレース展開の分析と状況判断がもたらした「巧い」勝ち方といっていいように思う。



接戦をモノにして今季4勝目をマークしたドヴィツィオーゾ(中央)

 シーズン1勝目の第6戦・イタリアGPは、自分たちのテストコースでもあるムジェロ・サーキットという地の利も活かし、週末のセッションを着実に積み上げて優位に進めた結果の勝利だった。2勝目の第7戦・カタルーニャGPは、暑く厳しいコンディションでタイヤを温存する作戦が成功して、他陣営よりも一枚上手に勝負を進めた。また、先々週の第11戦・オーストリアGPでは、最終ラップの最終コーナーまで激闘を繰り広げた末に、力と技術でしのいだレースだった。だが今回は、それらのレース展開とはまた違った戦いのなかで、自分たちの強さを発揮した。

 優勝直後にドヴィツィオーゾは、「少し驚いたよ。朝のウォームアップのあと、バイクのフィーリングはよかったけれども、勝てるとまでは思っていなかった」と正直な印象を語った。

「僕たちはライバル勢よりも速かったわけじゃないけど、いい位置取りにつけて好機を見計らい、抜いていくことができた。それがレースのカギになった」

 そう振り返るとおり、2列目6番グリッドスタートのドヴィツィオーゾは、序盤から先頭集団の後方で周回を重ねた。1周目からレースをリードしたのは、今回が最高峰クラス300戦目となるバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)。その後方にロッシのチームメイトのマーベリック・ビニャーレス。さらにドヴィツィオーゾ、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)、カル・クラッチロー(LCRホンダ)たちがつける展開で推移した。

 途中、マルケスのマシンがホンダには珍しいエンジンブローでトップ争いから脱落。リタイアとなった。

 ドヴィツィオーゾは、全20周のレースの半ばを過ぎた12周目に2番手に浮上。そしてラスト3周で、それまで終始先頭を走行していたロッシをオーバーテイクして、トップの座を奪った。ロッシは、自分たちの傾向としてレース後半にタイヤの摩耗が激しくなることを不安材料に挙げていたが、決勝レース終盤はその憂慮が的中した格好になり、一方のドヴィツィオーゾは尻上がりにぐいぐいと力強さを発揮して、トップでチェッカーフラッグを受けた。ビニャーレスも最後にドヴィツィオーゾへの肉薄を狙ったが、わずかに届かず2位でゴール。ロッシは3位で終えて最高峰300戦目を表彰台で飾った。

 今回のドヴィツィオーゾの勝ち方は、冒頭にも述べたとおり、ライダーの巧さが印象的なレース展開だったが、それを下支えしたのは、いうまでもなくチームの総合力だ。その引き出しの量が、今年の彼らは今まで以上に豊かで分厚くなっている感が強い。

「4戦とも異なる勝ち方をできたのはバイクのベースがいいからで、レースウィークごとにうまく順応できている。バイクの長所と短所があるなかで、長所をうまく引き出して短所に対処できている」というドヴィツィオーゾの言葉にも、それがよく表れている。

 この優勝により、ランキング首位に返り咲いたものの、2番手のマルケスとは9点差、その4点背後にビニャーレス、13点離れてロッシ。さらに9点後方にダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)という緊密さで、チャンピオン争いの厳しさは依然変わらない。

「最後までどうなるかわからないけど、僕たちがチャンピオンを狙う力のあることは、今回の優勝で十分に示せたと思う」

 今後6戦でさらに激しさを増していくであろうタイトル争いに向けた覚悟も、今まで以上に据わってきた印象がうかがえる第12戦であった。



Moto2クラスでは中上貴晶が今季初優勝を遂げた

 さらに今回のイギリスGPでは、Moto2クラスで中上貴晶(なかがみ・たかあき/IDEMITSU Honda Team Asia)が優勝を飾った。レースの1週間前に来季のMotoGPクラス昇格を発表したばかりの中上は、「今回は絶対に勝ちたい」という気持ちで第12戦のレースに臨んだ。

 序盤に先頭集団のなかで様子を見ながら機を見て前に出て、タイミングを見計らって一気に引き離す――というレースコントロールは、強いライダーには必要不可欠な能力だが、この力強い勝ち方が今までの中上にはできなかった。最高峰クラス昇格発表直後のレースでこのような勝利を飾れたことは、ライダーとしても大きな自信につながったことだろう。

「今の状態のままじゃいけない、という気持ちは心のどこかにあったし、『絶対に勝ちたい』という強い決意がポジティブに働いて、いいレースをできました。この優勝は心の底からうれしいですね。今シーズンは正直、苦戦していて、一所懸命がんばってもいつもフランコ(・モルビデッリ/第12戦は3位・来季MotoGPに昇格)とトマス(・ルティ/第12戦は4位・来季MotoGPに昇格)に負けてばっかりだったんですが、今回は彼らとの勝負にもしっかり勝つことができたのでうれしいです」

 Moto2クラスの残り6戦は、中上にとって「最高峰で戦う資格」を証明するためにいっそう重要なレースとなることは間違いない。今回のリザルトは、最高の形でその弾みをつけることになったといえそうだ。