東京大学キャップ投げサークル インタビュー後編(全2回) ペットボトルのキャップを投げ、プラスチック製のバットで打ち返すーー。ゲーム感覚で始められる「キャップ野球」が話題となっている。 前編でこの競技の魅力を語ってもらった東京大学キャップ投…

東京大学キャップ投げサークル インタビュー後編(全2回)

 ペットボトルのキャップを投げ、プラスチック製のバットで打ち返すーー。ゲーム感覚で始められる「キャップ野球」が話題となっている。

 前編でこの競技の魅力を語ってもらった東京大学キャップ投げサークルは、東京六大学による「六大学蓋野球」リーグと、全国の大学が参加する新人戦でどちらも2連覇中と上り調子だ。はたして、どんなチームなのか?



駒場キャンパスで取材に応じてくれた東大キャップ投げサークルの皆さん

【ゆるさと奥深さにとりつかれた東大生たち】

 練習場所は、東大駒場キャンパスの体育館。足を踏み入れると、5組がキャッチボール、いやキャッチ"キャップ"を始めていた。親指と中指で挟んだキャップを弾くように投げる。

 空気抵抗を受け、曲がったり浮き上がったり独特な軌道を描きながら、相手の胸元付近に届く。素手でのキャッチもうまい。

「このサークルを立ち上げたのは今の4年生なので、まだ新しいチームです。新歓での勧誘がうまくいかなかったらしく、3年生はゼロ。2年生が僕を含めて6人、1年生が多くて13人。男女混合の競技ですが、今は全員男子で、みんな初心者からのスタートです」



キャップ野球の奥深さを語る九町健太郎さん

 そう話すのは2年生の九町健太郎さん。九町さんはサークル代表で、一般社団法人・日本キャップ野球協会にも所属する。高校時代は卓球をやっていたが、入学後にサークルの見学へ行くと、キャップ野球の魅力にとりつかれたという。

「全体的にゆるーい雰囲気。でも、いざ投げてみると奥が深い。そこが気に入りました。準備するものがチームTシャツくらいだったのもよかったですね。ちなみにうちのキャプテンは入学前からキャップ野球をやりたくて、キャップ野球発祥の京都大学志望だったんですが、東大にもこのサークルがあると知り、志望校を変えたそうです」(九町さん)

 授業を終えたメンバーが体育館に到着すると、1〜2分でさっと着替えを終える。東大カラーのライトブルーのTシャツに短パン。シューズはバスケット用、ハンドボール用などなんでもいい。



週3日、体育館で練習に励んでいる

【キャップ独特の変化球が楽しい】

 試合も組みやすい。1チーム5人、登録できる指名打者を含めても8人だ。となると、レギュラー争いも厳しいのだろうか。

「新入生の誘い文句は、『サークルに入って練習に来たら試合に出させてあげるよ』ですね(笑)。キャップ野球の醍醐味はピッチング。なので、みんな投げたがるんですよ。ルール上、ピッチャー交替がしやすいこともあり、試合ではなるべく継投して、みんながマウンドに立つ機会を得られるようにしています」(九町さん)



東京大学キャップ投げサークルのメンバーたち。上段左から時計回りに、高い制球力を誇るスーパールーキーの諌見祐人さん、豪速球の大型右腕の松浦央尚さん、安定感のあるピッチングで打たせてとるタイプの九町健太郎さん、主砲のひとりである安達雅人さん、正捕手でナックルボーラーの升公士朗さん、技巧派左腕の田中琢真さん

 メンバーの肩が温まってきたところで、それぞれが得意な球種を試す。なかでも一段と速いストレートを投げ込んでいたのが2年生エースの松浦央尚さん。長身で踏み込みが深く、リリースポイントが打者に近い。カーブ、フォーク、チェンジアップなど変化球も見事だ。

「1年生の時は野球とゴルフサークルに入っていたんですが、大学でしかできないことをしたいと思い、今年になってからキャップ野球を始めました。野球と違って使用する道具が軽く、そこまで筋力がいらないところも気軽でいいですね。魅力はなんといっても、キャップでしか投げられない大きな変化球です」(松浦さん)

 キャップの握り方や腕の振り方などアイデア次第で新たな変化球が生まれる可能性もある。

「じつは4年生が生み出した魔球があるんです。3本指で挟み、人差し指と中指で弾き出すと、最初は真っすぐの軌道なのにバッターの手前でスッと落ちていくんです。逆回転系のカーブですね」(九町さん)



ゆるい雰囲気がありながらも夢中でキャップを投げ、打っていた

【投高打低の競技だが東大は打のチーム】

 バッターボックスに立たせてもらうと、「打ちやすいコースだ!」とついバットを振るが、当たらない。見極めが難しい魔球だ。これだけ多彩な変化球があると、打つほうは難しい。



力に頼らずとも速球や変化球が投げられるのが競技の楽しさ



バッター不利と思いきや、練習中は鋭い打球が飛んでいた

 しかし、バッティング練習に入ると体育館内に快音が立て続けに響く。

「キャップ野球は投高打低の競技です。でも、うちはどちらかというと"打"のチームで打率が高めなんです。その分、防御率はあまりよくないんですけど......」

 九町さんがそう話す傍らで、無駄のないスイングでキャップを打ち返すのは2年生の安達雅人さん。「ここ最近はスランプ気味で......」と謙遜するが、打率2割なら上出来と言われるキャップ野球で、2023年の新人戦では約5割を記録。打線の主軸を担う存在だ。

「キャップ野球はマウンドとホームの間隔が野球の半分しかないので、ピッチャーがリリースしてからスイングし始めても間に合いません。高校ではバスケをやっていたので、詳しい野球理論はわかりませんが、バットを振るタイミングを合わせることを第一に考えています」(安達さん)

【東京六大学それぞれのチームカラーとは】

 では、東大キャップ投げサークルの強みとは?

「僕たちは"打"のチームなんですが、今年は投手陣が充実していて、前回の六大学蓋野球リーグでは全試合完封できたんです。4年生のエースに、2年生には球の速い松浦君と、変化球主体の升公士朗君もいて、タイプの異なる投手がそろっています。升君は、ひたすらナックルを投げ、打たせてとるピッチングスタイルです」(九町さん)

 守備力アップに加え、深い分析もチームの強みだという。

「『ウィルキンソン』や『三ツ矢サイダー』などの硬いキャップはスピードが出ますが、その分、打たれた時に長打になるリスクを背負います。だからランナーがいる場面では、柔らかい素材でできたお茶類のキャップで変化球を投げるのがいい。状況に応じて、誰が、どの種類のキャップで、どんな球種を投げたら打ちとれるか。相手チームのデータをもとに話し合い、分析し、共有することで、技術的に足りないものを補っています」(九町さん)



それぞれの持ち味を活かしながらプレーを楽しむ

 持ち前の知力と団結力で新人戦、六大学蓋野球の3連覇を目指す。ライバル大学の印象とは?

「慶應は今年、全国大会で優勝している強豪。とりわけピッチャーのレベルが高いです。早稲田は4年生に右も左もいいピッチャーがいて、打撃も強くとてもバランスがとれています。明治は、いいピッチャーがそろっておりどちらかというと守りのイメージ。法政はなかなかメンバーが集まらないなか、有志を募って参加しています。立教はすごいバッターがいて少しずつ地力をつけてきている印象です。出るからには勝ちたい。僕らもウカウカしていられません」(九町さん)



取材は、鋭い打球の行方に注意しながら行なった

【ゆるさと情熱の間にある青春】

 練習は水、木、金曜の週3回で、週末は試合や練習試合がある時も。一回の練習はだいたい2時間くらいでキャップ野球らしく根詰めることないスケジュールでやっているというのだが......。

「ゆるく楽しめるのがキャップ野球のよさだと思うんですが、始めてみると奥が深すぎて沼にハマってしまいます。最近、みんな練習に熱が入りすぎてしまって、いつの間にかゆるさがなくなっていることも(笑)」

 練習では「別の予定があるので」と途中で抜ける学生もいれば、体育館の使用時間ギリギリまでキャップを投げ、「もっとやりたい」と叫ぶ学生も。キャップ野球の青春は、ゆるさと情熱の間にあるのだろう。



六大学蓋野球リーグ3連覇を目指す

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