立教大学駅伝部でキャプテンを務める4年生の安藤圭佑(写真は第100回箱根駅伝)Photo by AFLO「5位、立教大学!!」 相模原ギオンスタジアム内のアナウンスが流れると、芝生席に座っていた立教大の学生たちが大きな歓声をあげ、喜びを爆発…
立教大学駅伝部でキャプテンを務める4年生の安藤圭佑(写真は第100回箱根駅伝)Photo by AFLO
「5位、立教大学!!」
相模原ギオンスタジアム内のアナウンスが流れると、芝生席に座っていた立教大の学生たちが大きな歓声をあげ、喜びを爆発させた。立教大は、2022年の全日本大学駅伝予選会は11位、昨年の予選会は7位の国士館に14秒30差の8位でギリギリ本戦を逃した。そのレース後、芝のスタンドで長いミーティングが開かれ、新しい歴史の扉を開くことの難しさを誰もが痛感していた。
だが、今年ついに予選会を突破し、立教大として初めて伊勢路を走ることになった。学生たちが抱き合うなか、高林祐介監督と林英明チームディレクターががっちりと握手した。
「いやー予選会、やっぱりしんどいですね」
高林監督は、開口一番そう言ったが、その表情はとてもうれしそうだった。
4月1日、高林監督の新体制がスタートしたが、最初にチームに感じたのは学生主体で運営してきたことで生まれた馴れ合いにも似た甘さだった。立教大は、上野裕一郎前監督の時代から選手の自主性を重んじ、ポイント練習以外は、各自でテーマやボリュームを考えて練習するというスタイルだった。それゆえ、個人差がつき、練習も自己満足で終わる傾向にあり、強豪校の練習にはとても及ばないレベルだった。
高林監督は、その自主性を重んじながらも選手個々と対話をすることで締めるところは締めるなどメリハリをつけ、自身がコーチをしていた駒澤メソッドを取り入れ、強化に乗り出した。
そのひとつが距離を踏むことだった。
「選手は、『距離を踏んでいる』と言うけど、たわごとですよ。高校生が大学に入りましたぐらいのレベルで、正直、そんなにやっているわけじゃない。距離を踏めば強くなれるわけでもないですが、土台作りが大事。ただ、学生はまだ自分のことを信用していないので、ガラッと大きく変えるわけにもいかず、ちょっとずつ練習などを変えていきました。そうするなか、関東インカレで稲塚(大祐・4年)が走れたりして結果が出て(5位)、いけるんじゃないかって、みんなが思ってくれたのが大きかったですね。その後、『全日本の予選会まで集中して1カ月半やろう』と言ったのですが、みんなしっかりやってくれた。それが今日の結果に繋がったんだと思います」(高林監督)
全日本大学駅伝予選会は、1組2名ずつ4組まで計8名が出場、10000mの合計タイムで上位7チームが本戦への出場権を得られることになっている。少数精鋭の戦いになるので、ひとりでもブレーキする選手が出てくるとゲームオーバーになるという非常に厳しいレースだ。それゆえ、各監督は1組目から4組目までの人選に頭を悩ませる。
【こんな完璧に走るとは】
立教大は1組目、キャプテンの安藤圭佑(4年)が6位、永井駿(3年)が17位とまとめ、上々のスタートを切った。驚いたのは、2組目に鈴木愛音と山下翔吾の1年生のコンビを置いたことだ。
「もともと1年生は想定していなかったんですけど、最後の練習でいい動きをしていて、減点方式というよりも加点方式で入れました。でも、走り出したらビビりましたね。こんなに完璧に走るとは正直思っていなかったので。こういうところを経験するというのは、すごく大事なことだと思いましたし、ほかのメンバーと同じぐらいの準備ができていたので、自信を持って出しました」(高林監督)
高林監督の期待に応え、鈴木は15位、山下は19位にまとめた。2組目の1年生の状態の良さに裏づけされて臨んだ勝負がうまくハマり、その後の展開をラクにした。この時点で立教大は6位につけた。
「2組が終わった時点でいい位置にいたので、3組の國安(広人・3年)と虎大朗(林・4年)のところで仕切り直しということで考えていました。國安は『トップ取ります』とか、わけわからないこと言っていたんですけど(笑)、8000mまで余裕を持って2000mから動くから、そこが勝負ところというアドバイスをしました。結果的に、このふたりがいちばんうまく走れたんじゃないかなと思います」(高林監督)
2位に入った林はレース後、「1年生が2組に入るのも予想していなかったですし、自分も3組なのか、4組なのか、直前のミーティングまでわからなかったんです。自分はどの組を走ろうが、やれる自信がありましたし、國安は4組で走りたかったようですが、その悔しさをぶつけて3位という結果を出せたんだと思います」と語った。林と國安の好走が4組の選手の気持ちをリラックスさせてくれた。
この時点で立教大は、3位に位置していた。
4組は多くの留学生が出走するなか、馬場賢人(3年)が「3組目までの人が守ってくれた順位だったので、自分はそれを落とさず、キープする役目だったので、それは果たせたかなと思います」と語るように20位でまとめた。26位の稲塚大祐(4年)とともに総合順位を死守し、予選突破に貢献した。
レースで彼らの選手の走りを見ていると、昨年との違いを感じた。
【上野前監督と高林新監督の違い】
立教大の選手は、上野前監督の指導でスピード強化の練習を積んだことで、基本的にスピードがあったが、スピード持久力が足りず、後半の、特にラストで落ちてくる傾向があった。だが、今回、國安、林、馬場が粘りの走りを見せ、最後はギアを上げて結果を残した。それは距離を踏むなどの練習とそこから生じた結果、それに裏づけされた自信があったからだろう。
馬場は、こう語る。
「高林監督になってから距離に対する考え方をみんなで共有しながら距離を増やしていきました。これまでのスピード重視から新しいチャレンジだったんですけど、いきなり距離を増やすとケガのリスクがあるので、監督が選手とコミュニケーションを取ってくれるなど、話やすい環境のなかで距離を増やして走れました。自分のなかでは昨年とは違う手応えを感じたので、今回は自信を持って臨めました」
林は「監督の見極めがすごい」と語る。
「監督は自分たちの課題であるスタミナをつけるために距離を増やすことを説明してくれました。自分は試合期、以前の月間400~500キロから今は700キロぐらいに増えたのですが、監督はここはやりすぎだからとアドバイスをしてくれるんです。そこの見極めがすごくて、制御してくれるので僕らも安心して練習に打ち込めますし、変化し続けているのを感じることができています」
新監督が自身の考えを浸透させ、選手の信頼を掴むのは、容易ではない。だが、関東インカレ、予選会と練習を結果に結びつけたことで、選手は「自分たちはやれるんだ」「監督についていけば大丈夫」と監督を信じられるようになった。ゴール後、レースを振り返ったり高林監督について語る選手たちの表情がイキイキしているのが、その証拠だろう。
プロセスと結果により、お互いに信頼関係を築くことで、監督と選手のベクトルが合致してきている。夏合宿も監督が求める練習に対して選手は積極的に取り組んでいくだろう。故障者が出ることなく、駒澤大レベルの練習を消化していければ、選手が目標とする「箱根駅伝のシード権」も見えてくるかもしれない。
「今回、結果が出ましたけど、個人レベルで言えば他校の一線級の選手と勝負するなかではまだ戦えないと思います。ただ、上のレベルに上がっていく兆しが見えているのはいいことだと思っています。今後、箱根に向けては夏合宿がひとつの鍵になってくる。そこでしっかりしたトレーニングをすることが大事ですし、チームとしてはどれだけひとつになれるのか。そこは、まだ課題があるので、そこをクリアしていきたいと思います」(高林監督)
高林監督のチーム作りは、まだ始まったばかりだが、優勝した経験を持つ監督のメソッドは、成長過程にあるチームには非常に有益で成長率を高めてくれる。秋からの駅伝シーズン、立教大が台風の目になる可能性は十分にある。