徳島インディゴソックスからNPB選手が生まれる理由(前編) もはや、「独立リーグの虎の穴」と言っていいだろう。 四国アイランドリーグplusに所属する徳島インディゴソックス。昨年のドラフト会議では椎葉剛(阪神2位)など3選手が支配下登録選手…

徳島インディゴソックスからNPB選手が生まれる理由(前編)

 もはや、「独立リーグの虎の穴」と言っていいだろう。

 四国アイランドリーグplusに所属する徳島インディゴソックス。昨年のドラフト会議では椎葉剛(阪神2位)など3選手が支配下登録選手として指名され、3選手が育成選手として指名された。計6選手をNPBに送り出す指名ラッシュに衝撃が走った。

 徳島インディゴソックスにとっては、これで11年連続のドラフト指名(育成ドラフト会議を含む)。選手が入れ替わる今季は、さすがに小休止の雰囲気があるのではないか。そう想像しながら取材に向かったのだが、とんでもなかった。


徳島に入団して2年目を迎える柏木寿志

 photo by Kikuchi Takahiro

【スカウティングと育成】

 岡本哲司監督に聞くと、現段階でNPBからのドラフト指名を狙える選手として12人の名前が挙がった。

「投手なら白川恵翔(韓国プロ野球・斗山ベアーズへ期限付き移籍中/23歳/池田高)、杉本幸基(24歳/日本大)、工藤泰成(23歳/東京国際大)、中込陽翔(22歳/山梨学院大)、平安山陽(21歳/松山聖陵高)、川口冬弥(25歳/ハナマウイ)。あとは高卒1年目の篠崎国忠(19歳/修徳高)、高橋快秀(19歳/多度津高)もポテンシャルが高くて、NPBに近いのかなと。野手なら二遊間の岸本大希(22歳/桐蔭横浜大)、加藤響(22歳/東洋大[在学中])、センターの寺岡丈翔(24歳/福岡大)、サードの柏木寿志(23歳/兵庫ブレイバーズ)も可能性があります」

 選手を売り込むために、無理やり名前を挙げているわけではない。現実にNPB入りを狙える存在として冷静に評価した結果、12人の名前が挙がったのだ。

 なぜ、徳島インディゴソックスは逸材を次々に輩出できるのか。キーワードは「スカウティング」と「育成」である。

 球団の荒井健司オーナーが自ら情報収集してスカウティングに動き、南啓介社長がNPBスカウトにプレゼンテーションする。その分業体制が確立され、NPB各球団との信頼関係を築くことに成功した。

 岡本監督の口から名前が挙がった篠崎は、修徳高時代にNPB7球団から調査書が届いたほどの好素材だった。昨秋のドラフト会議ではあえなく指名漏れに終わったものの、身長191センチの大型右腕のもとには強豪大学や企業チームからのオファーも届いた。それでも、篠崎が選んだのは独立リーグの徳島インディゴソックスだった。

 当時、篠崎は徳島を選んだ理由をこう語っていた。

「生活の安定をとるか、勝負の道をとるかを考えて、勝負しようと思いました。父からも『勝負の世界は甘くない。厳しいところに行って勝負をかけないと、(NPBは)行ける場所じゃない』と背中を押してもらえました。徳島はフィジカル強化に定評があるチームで、自分に足りないものに取り組めると思いました」

 篠崎の言う「フィジカル強化に定評があるチーム」。そこに徳島インディゴソックスの大きな強みがある。選手たちは提携しているトレーニングジム・インディゴコンディショニングハウスでトレーニングに励み、別人のようにパワーアップしていく。昨年の入団時に140キロ台前半の球速しか出なかった椎葉は、1年足らずで最速159キロまで球速アップを遂げている。

【深夜のトレーニング】

 今季で2年目を迎える内野手の柏木は、戦慄の証言をしてくれた。

「ビジターでナイターの試合が終わったあとも、徳島に帰ってからインディゴハウスを開けてもらって、深夜2〜3時までトレーニングをしています」

 柏木は関西独立リーグ・兵庫ブレイバーズ時代から野球センスの高さを評価されながら、フィジカル面の弱さを課題にしていた。だが、徳島でトレーニングに励んだ結果、69キロだった体重が現在は77キロまで増えている。体重が増加したといっても動きのキレが損なわれることはなく、プレーの力強さは以前とは比べ物にならない。柏木は決然とこう続けた。

「今が一番いい状態だと思います。今年こそ、なんとしてもNPBに行きたいんで」

 ただ肉体を強化するだけでなく、岡本監督や橋本球史コーチによる選手に寄り添った技術指導も大きい。今季2年目の外野手の寺岡は、こんな手応えを明かす。

「岡本監督の打撃フォームを教わって、だいぶ結果に表われるようになってきました」

 投球の軌道にバットを入れるスイングへと矯正した結果、今季はリーグ三冠王を狙える勢いで打ちまくっている。もともと今すぐNPBに混ざってもトップクラスの強肩の持ち主でもあり、岡本監督は「寺岡は十分にNPB選手の水準を満たしているので、あとは球団の需要があるかどうか」と自信を口にする。

 そして、今年も投手陣は速球派が揃っている。最速157キロを計測した工藤をはじめ、最速155キロの川口、最速154キロの白川、最速154キロの杉本、最速150キロの中込と実力派がひしめく。横手に近い角度から動くボールと独特のスライダーを武器にする平安山のような、ひとクセのある個性派右腕もいる。

 現在、体づくりに主眼を置く篠崎は徳島インディゴソックスの選手登録を外れ、練習生登録になる時期が長くなっている。選手登録されなければ無給になるため、苦しい内情もあるのではないか。そう聞くと、篠崎は「まったくないです」と即答した。

「周りがどんどん球が速くなっていって、すごい人ばかりなので刺激になります。自分もしっかりとトレーニングができていますし、充実していますね」

 チームは24勝7敗3引き分け、2位と11ゲーム差をつける圧倒的な戦績で、前期リーグ優勝を決めた。だが、彼らにとって本当の戦いは秋にある。最高峰の舞台で戦う権利を手にするため、選手たちは「虎の穴」で牙を研ぎ続ける。

後編につづく>>

※文中の年齢は2024年満年齢