髙安関と妻で演歌歌手の杜このみさん 写真/本人提供 大関経験者でベテラン力士の高安関。土俵上で魅せる気迫の相撲とは打って変わって、ひとたび土俵を下りれば美声を披露するエンターテイナーだ。福祉大相撲といった花相撲のイベントや千秋楽パーティーな…


髙安関と妻で演歌歌手の杜このみさん

 写真/本人提供

 大関経験者でベテラン力士の高安関。土俵上で魅せる気迫の相撲とは打って変わって、ひとたび土俵を下りれば美声を披露するエンターテイナーだ。福祉大相撲といった花相撲のイベントや千秋楽パーティーなど、関取の歌を聞く機会は多い。

 奥様は細川たかし氏の一番弟子で演歌歌手の杜このみさんで、フィリピン出身の母と、音楽好きな父の影響で、歌うことが好きになったという関取。音楽に囲まれた人生を送る高安関に、歌にまつわるあれこれを聞いてみた。

大相撲・髙安インタビュー後編

【幼少期から周りに歌のある環境に】

――髙安関は、すばらしい歌唱力の持ち主で、あちこちに引っ張りだことお聞きしています。歌うようになったきっかけは何でしょうか。

髙安 小さいときから音楽にあふれた家庭でした。父と母が、歌ったり曲を聞いたりするのが大好きだったので、車ではいつも何かしらカセットテープで音楽を流していました。

 母がフィリピン出身なんですが、フィリピンの人たちって歌って踊るのが大好きなんです。僕の家がフィリピンレストランをやっていて、店内にステージやミラーボールがあって、そこで音楽を流して、みんながクラブみたいに歌ったり踊ったりしているのを小さいときから見ていました。店にフィリピンのアーティストをお招きして、コンサートをしてもらったこともありましたね。

 周りに歌っている人が多かった。そういう環境で育ったので、必然的に好きになったという感じです。

――いつも相撲の話ばかりしているので、初めて知りました(笑)。好きだった歌手や、影響を受けた人は?

髙安 井上陽水さんです。父が好きだったんです。幼少期、車で流れていたのは主に陽水さんの曲でした。あとは谷村新司さんの歌で、父がよく『昴』を歌っていて、幼稚園の頃から聞いて真似して歌っていたので、すごく思い入れがあります。

 好きな歌は、最近の曲よりも昭和歌謡のほうが多いです。若い人の歌もたまに歌うんですけど、声質がそちらのほうが合っているので、小林旭さんや石原裕次郎さんとかが得意です。

――我々は「モー娘。」(モーニング娘。)世代ですが、子どもの頃はそういった流行りの歌は聞いていましたか。

髙安 「モー娘。」、盛り上がっていましたよね。我々が小3、4年くらいのときね。よく聞いていましたよ。あと、ケツメイシとかが好きでした。先日、千代の国関の断髪式で歌っていたSEAMOさん、懐かしかったですよね。自分は相撲界に入って下積み時代に聞いていました。30代には刺さりますよね。

――小中学生の頃、音楽の授業の思い出などは?

髙安 歌うことに関しては、一生懸命頑張っていました。音楽の授業でも恥ずかしがらず、先人切って歌っていました。一番声を出していたので、音楽の通信簿はよかったと思いますよ(笑)。

【歌のうまい相撲取りが多い理由】


幼少期の髙安関(左)と母。実家のレストランにて

 写真/本人提供

――ちなみに、ご自身で歌がうまいと気づいたのはいつごろでしたか。

髙安 気づくとかはなかったと思いますが、褒めてもらえることがよくあって、褒められるとうれしいですよね。妻と会ったときも、本業の人に褒められるのはうれしかったです。

――奥様との馴れ初めは、どのような感じだったのですか?

髙安 初見は、毎年2月に国技館で行なわれる「福祉大相撲」です。その、お相撲さんと歌手が歌うコーナーです。2回目に会ったのが、部屋の千秋楽パーティー。細川たかしさんが、部屋の後援会の最高顧問になったんです。それで、細川さんがよく千秋楽パーティーに来て、ステージで歌っていました。一番弟子の妻は、いつもついて来ていて一緒に歌っていたので、それから仲よくなりました。

――まさに、お相撲と歌がつないだご縁だったんですね。現在、関取の十八番は?

髙安 一番よく歌うのが平浩二さんの『バス・ストップ』。昨年2月の福祉大相撲でも歌いました。この曲は、妻がコンサートでカバーして歌っていて、それがよかったので自分も練習して歌えるようになりました。

――そうでしたか。奥様からの"輸入"もあるんですね。

髙安 あります、輸入ですね。食事の2次会やパーティーなど、人前で歌う機会は結構ありますので、いろいろ練習します。

――いま練習中で歌いたい歌は?

髙安 特にないんですが、レパートリーは増やさなきゃいけないですね。ただ、最近の歌は難しいです。歌える曲もあるんですが、昔と違って曲調が変わってきているというか。『Bling-Bang-Bang-Born』(Creepy Nuts)とか、ああいうのはきついですね。

――ご自宅でカラオケをすることもあると伺いましたが。

髙安 カラオケ機器ではないんですが、テレビのアプリに契約して、それにマイクをつけて歌っています。妻はポップスも歌いますし、3歳の娘は童謡の『チューリップ』の歌をフルコーラスで歌えるようになりました。

――かわいいですね。娘さんは、将来歌手になりたいなどと言いますか。

髙安 それはまだ言わないですね。いまはシンデレラとか、ディズニープリンセスが大好きなので(笑)、将来何をするかは未知数です。ただ、妻はピアノや津軽三味線とか、何か芸事をやらせたいとは思っているみたいです。妻も、若い頃からピアノと津軽三味線を習っていたので。たぶん運動神経もいいと思うので、本人のやりたいことをさせてあげたいです。

 あとは、自分が中卒なので、学業もいい環境でさせてあげたい。ちゃんと勉強してもらって、将来幸せな人生になるように、いろいろな経験をしてほしいですね。

――可能性は無限大ですね。ちなみに、一般的にお相撲さんは歌がうまいと言われることが多いと思いますが、そのあたりはどう思いますか。

髙安 声はお腹から出すものです。お腹に力が入っていないと、気の抜けた声になってしまいます。日頃から鍛えているお相撲さんは、肺活量があって自然と腹式呼吸ができている。大きな声を出すとか発声の面では、お相撲さんたちは鍛えている分、いい声が出るということだと思います。これは妻も同じことを言っていました。

 妻は、北海道で4歳から『江差追分』という難しい民謡を始めたんですが、最初にやらされたのが腹筋背筋だったそうです。体力をしっかりつけて、お腹に力が入らないと声が通らないので。『江差追分』は、息継ぎが短い民謡なので、体力がないと途中で息が切れてしまうんですね。それくらい、体力は大事なことだと思います。あとは、その人のセンスと生まれつきの問題です(笑)。

――なるほど(笑)。説得力があります。貴重なお話ありがとうございました。

【Profile】髙安(たかやす)/1990年2月28日生まれ、茨城県土浦市出身。身長188cm、体重181kg。田子ノ浦部屋所属。本名・髙安晃。15歳で角界入りし初土俵は2005年春(3月)場所、新入幕は2011年名古屋(7月)場所。2017年5月場所後に自身最高位の大関に昇進した。2020年1月場所後に大関から陥落するも、粘り強い相撲で幕内で相撲を取り続け、現在は東前頭三枚目。妻は演歌歌手の杜このみさん。