当初より復帰の見通しが延びている山本由伸 photo by AP/AFLO 6月の中旬、ロサンゼルス・ドジャースは攻守の要、ムーキー・ベッツと山本由伸が立て続けに戦線離脱。ナ・リーグ西地区では変わらず2位を大きく突き放し、首位を走っているが…


当初より復帰の見通しが延びている山本由伸

 photo by AP/AFLO

 6月の中旬、ロサンゼルス・ドジャースは攻守の要、ムーキー・ベッツと山本由伸が立て続けに戦線離脱。ナ・リーグ西地区では変わらず2位を大きく突き放し、首位を走っているが、チームの現状はどうなっているのか。

 先発2番手の山本を欠くドジャースの投手陣について、7月30日(日本時間31日)のトレード期限に向けた動きも含めて分析する。

 *本文中の記録は現地時間7月5日(日本時間6日)現在

【若手の台頭も不安を抱える先発陣】

 山本由伸の不在は、ロサンゼルス・ドジャースにどんな影響を与えているのか。

 まず山本自身だが、右肩腱板損傷で患部が肩という点がとても心配だ。もっとも2018年の大谷、14年の田中将大(当時ニューヨーク・ヤンキース)のように、日本人投手はメジャー移籍1年目にケガをするケースが少なくないため、ドジャースが用心深く対応しているだけなのかもしれない。山本本人は「重症ではない」と主張しているし、内情を知る大谷も最後の登板となった6月15日の2イニング降板について「本人はもっといくつもりだったと思いますけど、チームと話して早い段階でやめた。よく捉えるなら手遅れになる前に休めたのではないかなと思う。順調に回復できれば早い段階で帰ってこられると思うので、それを期待したい」と話している。

 6月7日のヤンキース戦、山本は7回2安打無失点、7奪三振の圧倒的なピッチングを披露。世界一を目指すドジャースが昨オフ、山本とタイラー・グラスノーに高額の投資をしたのは、ポストシーズンで圧倒的な投球ができる投手が必要だったから。公式戦では無理をさせず、大事な試合まで温存したいと考えたのかもしれない。

 とはいえ、ドジャースが現時点でローテーションの貴重な2番手を失ったのは確かだ。ポストシーズンを勝ち抜くには、圧倒的な力を持つ先発投手が最低2人は必要。もし山本が投げられないとしたら、いったい、誰がいるのか?

 メジャー2年目、25歳のギャビン・ストーンはここまで9勝2敗、防御率3.03と好調だが、シーズンを通してローテーションで投げるのは今季が初めて。公式戦で最後まで投げ通せるのか、ポストシーズンでも頼りになるかどうかは未知数だ。ランドン・ナックは7試合に先発し防御率2.86だが、今年がメジャーデビューで、やはり計算はできない。

 ベテランのウォーカー・ビューラーは19年から21年はチームのエース格だったが、今季の側副靱帯再建術(通称トミージョン手術)からの復帰は順調とは言えず、1勝4敗、防御率5.84、現在は右臀部の炎症で負傷者リストに入っている。長い間チームの大黒柱だったクレイトン・カーショーは、オフの肩の手術から復帰を目指すが、6月に痛みが出て、一度リハビリを中断しなければならなかった。左腕のジェームズ・パクストンは7勝2敗だが、防御率は4.28で圧倒的な力はない。メジャー2年目で100マイル(160キロ)の剛腕ボビー・ミラーは肩の炎症も癒え戻ってきたが、6試合に投げて防御率6.12と調子は上がっていない。

 ドジャースは6月28日~30日のジャイアンツ3連戦、7月2日~4日のダイヤモンドバックス3連戦でともに負け越した。先発投手が誰ひとり、5イニング以上を投げられず、24イニングで25失点を喫したからだ。デイブ・ロバーツ監督は「きつかった。野球の試合は先発投手に始まる。追いかける展開になったら勝つのは難しいし、リリーフ陣の負担が大きくなる」と頭を抱えている。

【投手全体にケガの多い背景とは?】

 ドジャースは短縮シーズンの20年に世界一に輝いたが、以後3年連続でポストシーズンを勝ち進めていない。敗因のひとつは、先発投手だ。なぜドラフトも育成も上手で、好投手をたくさん輩出し、他球団にうらやましがられるチームの投手陣が足りなくなるのか。背景には球界全体で投手のケガが、非常に多くなっていることがある。

 近年、生体力学の研究が進み、年々速球のスピードが上昇。高速度カメラやデータを生かし、切れ味鋭い変化球を習得しやすくなった。その一方でこういった威力のある球を投げる投手は、生身の身体が持ちこたえられず、ケガも急増している。『ロサンゼルス・タイムズ』紙のジャック・ハリス記者は17年以降、ドジャースがメジャーに昇格させた10人の先発有望株たちはメジャー在籍期間中、肩やヒジを痛め、45%以上を負傷者リストで過ごしていると報じた。日数にすると、1700日にも上る。

 そのため、21年はトレードデッドラインでワシントン・ナショナルズから3度のサイ・ヤング賞に輝いた大物マックス・シャーザーを獲得した。しかし37歳になっていたシャーザーは腕の疲労でナ・リーグ優勝決定シリーズ第6戦では投げられず、ブレーブスに競り負けた。

 22年はトミー・ジョン手術で離脱したウォーカー・ビューラーの穴を埋められず、地区シリーズでダルビッシュ有らのいるパドレスに敗退した。23年はトレードデッドライン前にシカゴ・ホワイトソックスから不調のランス・リン(現セントルイス・カージナルス)を獲得したが、地区シリーズのアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦でカーショーともどもノックアウトされている。

 今年のトレードデッドラインは7月30日。果たしてどうするのか? 山本の役割を期待するのだから、中途半端な投手はいらないし、レベルが高くないといけない。

 今のところ、市場の最大の目玉商品はホワイトソックスの左腕ギャレット・クロシェットだ。18試合に先発し、101.1イニングを投げ、6勝6敗、防御率3.02。奪三振数141個はリーグトップである。6月24日はドジャース相手に先発、6回途中まで投げ、5安打無失点、6奪三振だった。大谷も3打数無安打、2奪三振と打ち取られた。15チームが関心を示していると言われており、当然ホワイトソックス側は見返りにトップクラスの若手有望株を要求してくるだろう。

 しかしながら彼には懸念がある。実は先発転向1年目で、これまで一番多く投げたのは21年、リリーフ投手としての54.1イニング。ゆえに今季はすでに倍近く投げている。メジャーではこういう場合、後半戦では投球数を大幅に制限する。だからドジャースがクロシェットを獲得し後半戦も引き続き投げてほしければ、本人の不安を払拭すべく、契約延長を提案する必要がある。ややこしいのだが、ポストシーズンでぶつかるライバル球団に行かれてしまっても困る。

 アンドリュー・フリードマン編成部長率いるフロントは、残り約3週間、難しい決断を迫られている。