「小さな体でどう戦うのか?」 会見では、そんな趣旨の質問が飛んだ。 壇上の山本麻衣(24歳)は、ゆっくりとマイクを手に取った。身長163cmは、女子バスケットボールの世界では小柄な部類に入る。180cm台の選手が珍しくない世界だ。 だから、…

「小さな体でどう戦うのか?」

 会見では、そんな趣旨の質問が飛んだ。

 壇上の山本麻衣(24歳)は、ゆっくりとマイクを手に取った。身長163cmは、女子バスケットボールの世界では小柄な部類に入る。180cm台の選手が珍しくない世界だ。

 だから、その答えの予想としては、「俊敏さ」であるとか、「賢さ」であるとか、「思いきりのよさ」であるとか、そんなところが予想されたが、彼女は鮮やかに裏切った。

「自分のプレーでは得点する、というところになりますが......。その前のところでの"体の強さ"ですね。それは武器で、ドライブ(ドリブルでディフェンスを抜いてゴールに向かうプレー)に行った時も、"当たり負けしない"とわかっているので、自信に変えてやっています」

 山本は小兵であることを自覚しながら、強さを追い求めてきたのだろう。ドライブに入る時、乱戦に豪刀を振るって斬り込むような凄みが浮き出る。ドリブルをしながら大きな体を当てられても、強度を保ったまま前進できる。また、ディフェンスでも侵入してくる相手に対し、体を合わせて負けることはない。小柄だが、コートに立つと大きく映る。まるで、"小さな巨人"の矜持だ。

「体が強くなったのは3×3を経験したこと(東京五輪では3×3の女子日本代表として戦い、5位という結果を出している)や、世界と戦うフィジカルを強化してきたこともあると思います」

 彼女はそう言う。その結果、バスケ女子代表として2024年パリオリンピック女子最終予選では大会最優秀選手賞を受賞し、世界のトッププレーヤーになっている。

 山本はパリ五輪でどんな輝きを見せるのか?



7月4日のニュージーランド戦ではチーム最多20得点を挙げた山本麻衣 photo by MATSUO.K/AFLO SPORT

 7月4日、有明アリーナ。ニュージーランド戦、日本は125対57で圧勝し、山本はチーム最多20得点を叩き出している。3Pシュート成功も最多の6本だ。

「私はOQT(オリンピック予選)の時から、2番のポジション(シューティングガード)をやらせてもらっているので、2番である以上、攻めるところは攻めないと。点数だけでなく、点数に絡む動きが重要で。そこは以前よりも自覚を持ってやっています」

【世界トップクラスのスコアリング能力】

 山本は鍛え上げた体の強さをコートでアジャストさせている。

「海外で2番のポジションで出ると、どうしても、(身長)180、190cmの選手につかないといけないことがあって、そこで当たり負けしないように、とは思ってきました。今回の合宿に入る前も、トレーニング量を増やして体作りはしてきて。去年のリーグ中から、パーソナル(トレーナー)に見てもらっています。それが成果につながってきているのかなと」

 自分より20cm以上も身長が高いニュージーランドの選手たちを、山本はものともしなかった。手足のリーチ差も含めると、外から見た以上の"距離感"だろう。しかし、彼女が立ちはだかると強さがあったし、体を当てられても崩れない。下半身の軸がぶれず、手に吸いついたボールを自在にリリースできる。小さな体であることなど百も承知で、自在に動かせるまで運用力を高めているのだ。

「牛若丸と弁慶」「ダビデとゴリアテ」「柔よく剛を制す」......。

 そこで起こる"波乱"の瞬間は、物語になる。それはひと言で「痛快」。山本はその作法を心得ていた。彼女なりの正解を見つける姿勢というのか。たとえば3Pシュートをワンハンドで打つか、ツーハンドで打つか、そこにこだわりはない。

「シュートは入ればいい、と思っているんで」

 彼女は言う。

「ワンハンドでも、ツーハンドでも入る確率が高いことが重要で。打てるタイミングが大事なので、ワンハンドでもツーモーションにするなら意味がない。ツーハンドでも速く打てるように」

 最近は男子大学生と練習し、スピード感や体の強さを体感した。その経験は糧になっているという。女子選手と対戦した時、楽に感じるし、自分たちのスピードを感じられる。

 山本は、さらなる向上に挑み続ける。

「山本のスコアリング能力は、世界のトップだと思います」

 そう語ったのは恩塚亨女子日本代表ヘッドコーチで、こう続けている。

「その能力を最大化するための答えが、シューティングガード(での起用)。スキルの要素はいろいろあるんですが、彼女はカオスの中で答えを選び出せる選手ですね。速く合理的な判断ができることによって、より多くの強みを出してくれます」

 心技体が揃った選手といったところか。

「迷いなく」

 山本は、そのフレーズを一番多く、繰り返し使っていた。そこが彼女のプレーの肝になっているのだろう。無意識に最善の判断を下せることで、相手の機先を制することができる。

「試合に入る時、自分のリズムでやれば大丈夫、と常に思っています。"迷いなく"というのがいいプレーにつながっていて。それも恩塚さんのバスケを3年やって、理解できていることによって、迷いなくできているんじゃないかなと思います」

 集団スポーツであるバスケでは社会性も求められる。その点、彼女は人やプレーを理解することに優れているのだろう。アップ中から、周りとふざけ合いながらも、常に意志を通わせていた。

「(馬瓜)ステファニーはドライブに行った時に、いてくれるやりやすさはありますね。今日もベンチで、『目、合ってたよね? パス、くるのは分かっていたけど、ドキドキしちゃった!』とか(言われました)。中学の時から知っているので、阿吽の呼吸はあるかもしれません」

 山本は言う。そんな関係性を作れるのも、彼女の魅力なのだろう。最大限に鍛えた肉体で技を繰り出し、味方を輝かせ、自らも光り輝く。すべてを出しきる舞台がパリ五輪だ。

「東京オリンピックでは個人的に悔しい思いをしました。今回のパリは、チームとして"金メダルを獲る"でやっているので。それに向けて信頼されていると思うので、その意識を持って戦ってきます!」

 彼女は高らかに言っている。