8月28日に開幕するパリ2024パラリンピック。女子車いすバスケットボールでは、出場権獲得のラストチャンスとして、4月に大阪…

 8月28日に開幕するパリ2024パラリンピック。女子車いすバスケットボールでは、出場権獲得のラストチャンスとして、4月に大阪で最終予選が開催された。世界から8カ国が出場し、残る4枚の切符をかけて行われた同大会、女子日本代表は“死のグループ”に入った予選リーグでは1勝2敗と苦戦を強いられた。しかし最も大事な出場権決定戦でオーストラリアを撃破し、2008年北京パラリンピック以来4大会ぶりに自力出場を決めた。6月14日には抽選会が行われ、予選リーグの組み合わせが決定。さらに21日にはスケジュールも発表され、パリでの戦いは刻々と近づいている。そこで本稿では最終予選を振り返るとともに、パリでの戦いのポイントを探る。

■キャプテン北田千尋がパリ行きの立役者に


 最終予選には、日本のほか、スペイン(ヨーロッパ3位)、ドイツ(同4位)、フランス(同5位)、カナダ(アメリカ大陸2位)、オーストラリア(アジアオセアニア3位)、タイ(同4位)、アルジェリア(アフリカ1位)の8カ国が集結。まずは4カ国ずつ2グループに分かれてリーグ戦が行われ、その結果によって順位を決定し、クロスオーバーでの出場権決定戦が行われた。

 スペイン、フランス、カナダと強敵揃いのグループBに入った日本は、予選リーグは1勝2敗で3位。出場権決定戦ではグループAの2位で同じアジアオセアニアのオーストラリアとの対戦となった。そのオーストラリア戦は、1Qで13-4と大きくリードを奪うと、2Q以降も主導権を握り続けた日本は、50-26とダブルスコアに近い大差で勝利を収め、パリ行きを決めた。

 大会全体を通して、勝利の立役者となったのは、キャプテンの北田千尋(4.5)だった。全4試合でチーム最初の得点を決めて勢いを与えた北田は、いずれの試合でもチーム最多得点をマーク。予選リーグで唯一の白星となったフランス戦では17得点12リバウンド、予選第3戦のスペイン戦では20得点11リバウンド、そしてオーストラリアとの決戦では18得点18リバウンドと、3試合連続でダブルダブルを達成。とりわけスペイン戦ではフィールドゴール成功率47.1%、2ポイントシュートにおいては53.3%の高さを誇った。

 岩野博ヘッドコーチ(HC)も「今大会はずいぶんと助けられたし、最後まで調子をキープしてくれたのが大きかった」と称えるなど、北田の存在なくしてパリ行きはなかったと言っても過言ではないほどの活躍ぶりだった。

 その一方で、チーム全体ではシュート成功率は低空飛行が続いた。なかでもオーストラリア戦は、FG成功率が26.4%にまで落ち込んだ。「これではパラリンピックでは勝てない」という言葉がどの選手からも聞かれたほど、チームが強い危機意識を持ったことは言うまでもない。

 そこで最終予選後の強化合宿では、オフェンスの強化を重点的に行っている。岩野HCが、ポイントの一つに挙げるのがシュートシチュエーションづくりの精度だ。もちろんタフショットを決める個の能力も必要だが、個のシュート力を発揮できるようなシュートシチュエーションをいかにチームで作れるかが重要で、岩野HCはそれがまだ不足していることがシュート成功率の低さにつながっていると考えている。

「例えばシューターが打ちやすいタイミングで、打ちやすい角度・高さにパスを出せるかどうか一つで、シュートの確率は変わってくる。個のシュートスキルを上げることに加えて、いかにいい体勢でシュートを打たせられるかも重要で、その精度がもっと上がると、もともとシュート力がある選手は多いので、得点力が上がると考えています」

■パリでの最初のヤマ場は予選リーグ第2戦のドイツ


 さて、パラリンピックでは4チームずつ2グループに分かれて予選リーグが行われ、その順位によってクロスオーバーでの決勝トーナメントが行われる。6月14日には組み合わせ抽選会が行われ、日本は2018年以来、世界一の座に君臨しているオランダ、東京パラリンピックに続いて昨年の世界選手権でも銅メダルを獲得したアメリカ、いずれもアメリカと銅メダル争いをしたドイツと同じグループBに入った。前述の選手たちの言葉を借りれば、まさに「このままでは勝てない」強敵ばかりだ。

 最大のポイントとなるのは、第2戦のドイツ戦だろう。4月の最終予選を見た限りでは、ドイツはこれまでと変わらず、ベテランのマライケ・ミラー(4.5)を柱とするチームだ。昨年の世界選手権まででミラーと遜色ない得点源となっていたハイポインターが現在は不在で、ミラー頼りの傾向がより強いと言える。とはいえミラー以外にもサイズの大きい選手が複数いることに加えて強豪揃いのヨーロッパでもまれ、実戦の数も日本以上と経験値の高さを考えれば、決して侮れない相手だ。

 しかし、スピードで完全に上回る日本はディフェンスで主導権を握ることができるはずだ。いかにオフェンスの時間を削り、ゴールに近づけさせないか。インサイドではなく、アウトサイドの勝負に持ち込み、日本の土俵で戦いたい。そのうえで、やはりカギを握るのは日本のシュート成功率だ。

「いくらディフェンスが良くても得点を取れなければ勝てないのは当然。オフェンスで流れを引き寄せるくらいの展開にもっていければ、自ずと勝機は見えてくる」と岩野HCは語る。いずれも競り負けた東京パラリンピック、昨年の世界選手権のリベンジを果たすことができればチームは勢いに乗るはずだ。そして、このドイツ戦での勝敗が予選リーグ最終戦のアメリカ戦にもつながってくる。

「アメリカは得点能力が高いチームだけに、それこそ得点の奪い合いができればと思っています。スタイル的には日本と同じく高さ勝負ではないので、それこそガチンコ勝負になるんじゃないかと。日本がシュート力を発揮すれば、勝つチャンスはあると見ています」と岩野HCは語る。やはり勝敗を分けるのは、日本の得点。FG成功率を40%台にのせられるかが一つの指標となる。

 現段階では実績からすれば、日本は出場8カ国の中で下から数えた方が早い位置にいる。その日本が狙うのは、下剋上でのメダル獲得だ。ドイツ戦で白星を挙げ、その余勢を駆ってアメリカとの勝負に臨むことができるかが、その道しるべとなる。

文・写真=斎藤寿子