攝津正インタビュー 後編好調ソフトバンクの野手陣分析(投手編:好調ソフトバンク投手陣を攝津正が分析 先発転向の2年目右腕は「やれると思っていた」>>) 攝津正氏に聞く好調ソフトバンクの現状。その後編では、ケガで離脱した柳田悠岐の穴をどう埋め…

攝津正インタビュー 後編

好調ソフトバンクの野手陣分析

(投手編:好調ソフトバンク投手陣を攝津正が分析 先発転向の2年目右腕は「やれると思っていた」>>)

 攝津正氏に聞く好調ソフトバンクの現状。その後編では、ケガで離脱した柳田悠岐の穴をどう埋めているのか、若手選手の奮闘ぶり、現状考えられる課題など、野手陣について語ってもらった。



6月にプロ初本塁打を放った廣瀨隆太 photo by Sankei Visual

【3番に入った栗原、近藤や山川の支え】

――チームの大黒柱である柳田悠岐選手が、6月1日に出場選手登録を抹消(右半腱様筋損傷)された後も、ソフトバンクは順調に白星を積み上げていますね。
 
攝津正(以下:攝津) 栗原陵矢がいい状態をキープしていて、柳田が抜けた3番にハマってくれたのが大きいです。打点(リーグ3位の41打点/6月26日時点。以下同)を稼いでくれていますし、柳田が離脱する前と後で遜色がない戦いができている大きな要因だと思います。

――柳田選手が離脱した後も、近藤健介選手の打順は5番から動かしませんでした。

攝津 動かすのかなと思っていたのですが、そこは頑なに変えませんでしたね。4番の山川穂高の後ろに一番いいバッターである近藤を置くことで、相手は山川と勝負せざるを得なくなりますし、山川自身も思い切ったバッティングができますから。

 山川自身はしばらくホームランが出ていませんし、バッティングの状態があまりよくない。それでも、山川の前後にいいバッターを置いているので、チームとしての影響があまりないんじゃないのかなと。

――近藤選手の後ろを打つことが多い柳町達選手も状態がいいですね。

攝津 ファームでもすごく打っていましたし、「いつ一軍に上がるのかな」と思っていました。ただ、柳田の離脱前は外野のポジションには空きがなかったですから。周東佑京を使いたい、というチーム事情もありましたし。出番をもらえてから、柳町は交流戦でも活躍して、チャンスに強い(得点圏打率.438)などいい働きを続けています。

――柳田選手は全治4カ月の見込みですが、柳田選手不在の穴はこの先も埋めていけそうですか?

攝津 近藤が栗原にバッティングのアドバイスをしたり、山川もソフトバンクに入って1年目ですが、野手陣にいろいろなアドバイスをしているみたいですからね。経験と実績が申し分ないふたりがチーム全体のことを見てくれて、助かっている部分は多いと思います。レギュラーで出ている選手がもうひとりケガをして離脱するようなことがあると厳しくなると思うのですが、今のところ柳田の穴は埋めていけると感じています。

【ギータ2世ら若手にも期待】

――柳田選手を彷彿とさせる豪快なスイングが印象的で"ギータ2世"とも呼ばれる笹川吉康選手、ルーキーの廣瀨隆太選手はどう見ていますか?

攝津 笹川は飛ばす能力はすごいのですが、これまでは先発投手のボールに合わなかったら、その日はまったく合わない、みたいな打席が多かったんです。三振も多かったのですが、今はどんなタイプのピッチャーでも、ある程度は対応できるようになってきています。

 昨季は「このままだと、この先は厳しいんじゃないかな......」と思うこともあったのですが、ボール球を追いかけなくなりましたし、打席の内容がかなり改善されています。足が速く、そこそこ守備もうまいので、確実性と長打力を伸ばしていければすごくいい選手になると思います。今はファームにいますが、交流戦の阪神戦で打ったプロ初ホームランは自信になったと思いますし、チャンスが巡ってきた時に向けて頑張ってほしいです。

 廣瀨はキャンプの時にパワーに驚かされたのですが、今は逆方向に打ったり、体勢を崩されながらも軽く合わせてヒットゾーンに運んだり、意外と器用なバッティングをしています。ファームでは強引に振っていたのですが、一軍のピッチャーにどう対応するかを自分なりに考えたんでしょうね。

――柳田選手の故障後、支配下登録されて奮闘中の佐藤直樹選手はいかがですか?

攝津 まだ打席数は少ないですが、起用された時に攻守でいい働きをしています。もともと足と守備は超一級品ですし、バッティングもよくなってきました。スタメン起用も含めて、今後も試合に出る機会はあると思います。育成から這い上がってきたわけですし、チャンスをモノにしてほしいですね。

――ソフトバンクは投打に隙がないように見えますが、あえて課題を挙げるとすれば?

攝津 個人的に思うのは、バントなど細かい部分をもう少ししっかりできれば、さらに隙がなくなるのかなと。やはり均衡した試合展開だと、中盤以降にバントをするケースが多くなりますが、大事な場面で失敗することもありますからね。
 
 それと、先ほども少し話しましたが、ケガ人をこれ以上出さないということ。特に近藤など、代わりがいない選手の離脱は避けなければいけません。あえて課題を挙げるとすれば、そういったところですね。

【2位以下で警戒すべきチームは?】

――他チームの状態はどう見ていますか?

攝津 交流戦でオリックスが少し上向きかなと思ったのですが、今ひとつ乗り切れないですね。特に、打つほうで苦労しています。日本ハムは交流戦で首位打者(歴代最高打率.438)になった水谷瞬をはじめ、打線に迫力と厚みが出てきました。水野達稀の故障離脱は痛いですが、若い選手が多いだけに勢いに乗った時は怖いチームだと思います。

 警戒すべきチームを挙げるとすればロッテでしょうか。佐々木朗希が離脱するなどしていますが、個人的にはピッチャーが揃っていると思いますし、11連勝した時にはチーム全体に驚異的な粘りがありました。ネフタリ・ソトとグレゴリー・ポランコはいいところで打点を挙げていますしね。

それと、これは相性なのかもしれませんが、ソフトバンクはZOZOマリンスタジアムが苦手な傾向があります。マリンでのカード頭で勢いに乗られると、飲み込まれてしまうような独特な雰囲気を感じます。ロッテは、投打でストロングポイントが際立っているわけではないのですが、なんとなく勝っていくんですよね。

――リーグを独走する今、ソフトバンクはチームとしてどう戦っていくべきですか?

攝津 ここまでの戦い方を変えず、目の前の試合をしっかり勝ち切っていくことでしょうね。ただ、小久保裕紀監督はどんな状況でも気が緩むような性格ではないですし、そういう面では心配ないんじゃないかなと。要所要所でチームを厳しく引き締めてくれるはずです。

【プロフィール】
攝津正(せっつ・ただし)

1982年6月1日、秋田県秋田市出身。秋田経法大付高(現ノースアジア大明桜高)3年時に春のセンバツに出場。卒業後、社会人のJR東日本東北では7度(補強選手含む)の都市対抗野球大会に出場した。2008年にソフトバンクからドラフト5位指名を受け入団。抜群の制球力を武器に先発・中継ぎとして活躍し、沢村賞をはじめ、多数のタイトルを受賞した。2018年に現役引退後、解説者や子どもたちへ野球教室をするなどして活動。通算282試合に登板し、79勝49敗1セーブ73ホールド、防御率2.98。