ロジャー・フェデラー(スイス)本人さえが、すべては少し驚きだと感じている。 4年半の間、グランドスラム大会で優勝できずに過ごしたあと、30代半ばになったフェデラーは、2017年に3つ目となるグランドスラムの優勝カップを獲得する可能性を手に…

 ロジャー・フェデラー(スイス)本人さえが、すべては少し驚きだと感じている。

 4年半の間、グランドスラム大会で優勝できずに過ごしたあと、30代半ばになったフェデラーは、2017年に3つ目となるグランドスラムの優勝カップを獲得する可能性を手に、月曜日に開幕する全米オープンに臨むことなる。

「一年に3つのグランドスラム・タイトルを勝ち獲れると考えるのは、かなり難しい。僕にとってまったく超現実的に響くね」とフェデラーはAP通信のインタビューに答えた。「でも僕はニューヨークで本当にすぐれたプレーができるよう、できる限り最良の形で準備をするよ」。

 フェデラーは間違いなく戻ってきた。長い道のりをたどり直して。

 手術で修復した膝を完治させるために昨シーズンの後半を休息に充て、このハードコートの大会をも欠場した一年後に、彼はニューヨークのフラッシングメドウに戻ってきた。そして彼は、1月の全豪オープン、7月のウィンブルドンと、今年出場した2つのグランドスラム大会で優勝したあと、優勝候補の一角の役にも復帰したのである。

 彼は以前と同じくらいよい、あるいは以前以上によいプレーをしているのだろうか?

「わからないよ。何とも言い難い。でもそんなことは僕にとってそう重要なことじゃない。僕は過ごした年月と、練習やトレーニングをする時間を持てたために、今日よりよいプレーヤーになれたと願いたい」と、彼はため息とともに言った。「でも、よりよいか? ある意味ではそうであるよう願うよ」。

 フェデラーは8月8日に36歳になった。1881年に始まった、このアメリカでもっとも重要な大会で優勝したなら、彼は史上3番目に年齢が高いチャンピオンとなる。

 ほぼ10年ぶりの全米タイトルを狙うにあたり、彼はここニューヨークで、かなり戦力ダウンしたドローと向き合うことになる。

 ごく最近、ラファエル・ナダル(スペイン)にナンバーワンの座を奪われたアンディ・マレー(イギリス)は、長く腰の痛みの問題を抱えており、ウィンブルドン以来プレーしていない。2014年の全米チャンピオン、マリン・チリッチ(クロアチア)もまた、足の水膨れのため、試合に出ていなかった。

 全米オープンの前年度覇者であるスタン・ワウリンカ(スイス)は膝の手術を受け、2016年準優勝のノバク・ジョコビッチ(セルビア)は右肘を痛め、このふたりともがシーズンの残り期間を回復に充てることを決めている。2014年準優勝者の錦織圭(日清食品)も同様に、右手首の故障のため、今季のプレーを断念した。

 このトップ10の3人は、フェデラーの例に倣ったと言っていい。昨年、リオ五輪、全米オープンとそれ以降の大会をスキップすることにより、フェデラーは故障からフルに回復したばかりか、心身ともにリフレッシュし、ふたたび元気になってATPツアーに戻ってきた。

 休みをとった甲斐はあっただろうか? 彼は今季35勝3敗で、5つのタイトルを獲得している。

「昨年の長い休養は本当に彼を助けた。彼は少しの間去り、すべてをふたたび外から眺めた。それが彼に少し距離を、客観性を与えたんだ」と、フェデラーのコーチのひとりであるセベリン・ルティは言った。「一般的に言って、彼が休息をとり、活力があり、プレーを楽しみ、意欲に満ちているなら...それが彼の最大の強さのひとつとなるんだよ」。

 オールイングランドクラブ(ロンドン)でチリッチを破って8度目のウィンブルドン優勝を遂げ、グランドスラム大会で総じて19番目のタイトル----双方が男子の最高記録----を獲得する前日、フェデラーはルティとともにテーブルを囲み、全米オープンの準備について話し合った。

 今のところ、それらしい様子は見えないとはいえ、フェデラーにとってさえ、時と年齢は経過していく。

「彼は素晴らしいテニスをプレーしている」と、テニス界の次代の大物とみなされている20歳のアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)は言う。今月、マスターズ1000のロジャーズ・カップ(カナダ・モントリオール/ハードコート)の決勝でフェデラーを倒したズベレフは、「彼は今年プレーした大きな大会のほぼすべてで優勝した」とも言い添えた。

 そのモントリオールが、全米前にフェデラーがプレーした最後の大会となった。彼は背中をひねり、翌週のシンシナティの大会出場を取り消していたのだ。

 もしフェデラーの背中が、フラッシングメドウでも問題となるなら、それがフェデラーの行く手を遮りかねない。さもなければ、彼が今年、全米5連覇での最後のタイトルを獲った2008年以来の優勝を目指す戦いで、最後まで生き残る男となる可能性はある。

 この見解は、もちろんフェデラーを喜ばせるものだが、彼がこのところ本当に満足感を見出しているのは、コート上のアグレッシブなプレースタイルについてだ。

「今の自分のプレーの仕方が気に入っている。僕はネットにつめ、攻撃的に打っていっている。僕はためらって引き腰になってはいない。僕は自分がプレーしたいと思っているようなテニスをプレーしているんだ。そして、僕はすべてを成功のためにやっている、というのではない。実際、僕はそれをラケットから自然に飛び立つままにさせている。それが僕を幸せな気持ちにするんだよ」と、フェデラーは言った。

「おそらく、あともう一度、僕が力強く戻ってくるのを待っていた人々----僕は、今年、2つのグランドスラム大会で優勝することにより、彼らにより多くのものを与えることができた。だから本当に特別な時期だ。そのことは自覚している。これからくるものが何であれ、それはただボーナスなのだとわかっているよ」と、フェデラーは小さな微笑みを浮かべて言った。「だから、このレベルをキープし、それから、いいことが続くよう願うよ。まあ様子を見てみよう」。(C)AP(テニスマガジン)

※写真は「全米オープン」で今年3つ目のグランドスラム・タイトルを獲得できるか注目を集めるロジャー・フェデラー(スイス)。9月に行われるレーバー・カップ」のプロモーションにて撮影。(写真◎Getty Images)

Photo: NEW YORK, NY - AUGUST 23: Roger Federer attends Laver Cup Team Announcement on August 23, 2017 in New York City. (Photo by Ilya S. Savenok/Getty Images for Laver Cup)