5月のWBA世界ミドル級王座決定戦で、”不可解な判定”の末に敗れた村田諒太(帝拳)。取り逃したベルト獲得へ、王者アッサン・エンダムとの再戦を10月22日(東京・両国国技館)に控えた村田には、強力なスパーリングパートナーがいる。WBC米大陸スーパーウェルター級王者の、パトリック・デイだ。

 ニューヨーク州出身、25歳のデイの戦績は14勝(6KO)2敗1分で、今年7月に王座を獲得したばかり。5月の試合に続いて村田をサポートすべく、9月に来日する予定だ。そんなデイに、エンダムvs村田の第1戦の印象と再戦の展望を聞いた。



村田のスパーリングパートナーを務めるパトリック・デイ

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――再び村田のスパーリングパートナーを務めることになりましたが、今回のスケジュールを教えてください。 

「9月9日にニューヨークを発ち、そこから日本で5週間ほど村田とトレーニングを行ないます」

――前回来日した際の、日本の印象はどうでしたか?

「僕は、子供の頃からずっと『ドラゴンボール』が大好きで、マンガの中に出てくる料理なども実際に食べることができたし、素晴らしい経験をすることができました(笑)。もちろん、村田だけじゃなく、日本の優れたボクサーも印象に残っていますよ。

 特に覚えているのは、山中慎介、亀海喜寛、三浦隆司(すべて村田と同じ帝拳ジム所属)の3人です。(8月26日に)アメリカでミゲール・コット(プエルトリコ)とタイトルマッチを行なう亀海とは、今でも連絡を取り合っています。彼は技術面では世界最高レベルとは言えませんが、かなりのハードパンチャー。勝利に向けてキツい練習に取り組んでいましたし、村田のためにもいいニュースを届けてほしいですね」

――そもそも、どういった経緯で村田のパートナーを務めることになったんですか? 

「5月のエンダム戦が決まった後、アメリカにおける村田のプロモーターであるトップランク社が、スパーリングパートナーを探していたんです。偶然にも、同社のマッチメーカーであるブラッド・グッドマンが僕のことをよく知っていて、適任だと判断してくれました。クイックネスやフットワーク、手数の多さなど、エンダムとは共通点がありますからね。僕は、元IBF世界ミドル級王者のデビッド・レミュー(カナダ)がエンダムと戦う前に、”仮想エンダム”としてレミューのパートナーを務めたことがあるんです。ブラッドはそのことを知らなかったんですが、重要な役割をオファーされたことは本当に幸せでした」 

――デイさんは7月にWBC米大陸スーパーウェルター級王者になりましたが、その試合で村田とのスパーリング経験が活きたんでしょうか? 

「それは間違いないです。厳しいスパーリングで、多くのことを学ぶことができましたからね。対戦相手が村田には遠く及ばない選手だということもわかっていましたし、自信はありました。試合では、村田が得意とする長く打ち抜く右ストレート、コンビネーションの最後に放つボディ打ちといったパンチも有効でした。僕もトレーナーから教わったパンチでしたが、村田が使いこなしているのを参考にしたことで、初めて実戦で試すことができたんです。彼は、すでに成功を収めている選手でありながら、大変なハードワーカー。将来は彼のようなボクサーになりたいです」

――過去にはレミューだけでなく、元WBA 世界ミドル級王者ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)といった強豪ともスパー経験がありますが、彼らと比較してどうですか? 

「その2人のほうが、プロとしての経験が豊富なのは事実です。村田はロンドン五輪で金メダルという実績を残していますが、プロの世界で彼らと同格になるには、より多くの場数を踏む必要があるでしょう。ただ、ボクサーとしての能力や体の強さに関しては、村田と彼らの差はそれほど大きくないと感じます。プロ13戦という短いキャリアで12ラウンドを戦えるようになりましたし、その成長スピードは驚異的です」 

――そんな村田のことを、「Deceiving(見かけ通りではない)」という言葉で表現していましたね。 

「来日前に映像を見た時は、正直、村田が特別な選手だとは思えませんでした。レミューやジェイコブスなどは、映像を見るだけで『ワオ!』と驚くような”わかりやすい強さ”があります。一方の村田は、動きが硬く、戦い方も基本通りで派手さがない。特別にスピードがあるわけでもないため、『どうやって金メダルを取ったのだろう』と疑問に思っていました。でも、実際にリングで向かい合うと、イメージがガラリと変わりましたね。非常に攻略が難しい、屈強なファイターでした」

――実際にスパーをして感じた、村田の長所は? 

「やはり、爆発的なパワーでしょう。リーチも長く、遠い距離から強烈なパンチを放つことができるため、彼は相手に対して常に脅威を感じさせることができます。また、ガードもすごく固いので、こちらがパンチをヒットさせるのも難しい。そのガードを崩すためには手数を増やす必要がありますが、彼の破壊力を考えると極めてリスキーです。恵まれたパワー、体のサイズを活かした戦い方を心得ているという印象を受けました」

――エンダムとの第1戦についてですが、調整段階から練習を共にしたデイさんから見て、村田はプラン通りに戦えていましたか? 

「村田はKO勝利を目指していたので、それは果たされなかったことになります。判定ではエンダムが支持されましたが、村田が奪ったダウンは実際には1度だけでなく、少なくともあと2度はダウンとしてカウントされるべき場面がありました。事実上は3度もダウンを奪っていたわけですから、公正なジャッジだったとは思えません。それでも彼は、ほぼ想定通りのファイトをしたと思います」

――デイさんがあの試合を採点したらどうなるでしょうか 

「最初の3ラウンドはエンダムが取って、以降の9ラウンドは村田が制したと見たので、117-110で村田の勝利です。接戦ですらなかったと思っていたので、判定が発表された瞬間はすごくショックでした。村田がどんな気持ちでいるかと想像するだけでつらかったですよ。こちらの時間で土曜日の朝にファイトを見たのですが、その週末は暗い気持ちのままでした」

――あの試合の判定は大きな問題になり、リマッチは大きな注目を集めそうです。再戦に向けて、村田はどのような調整を行なうべきだと思いますか? 

「ボクサーは常に進化を目指すべきで、同じことを繰り返してはいけません。エンダムとその陣営は、村田のほうがより優れたファイターで、前回は自分たちが負けていたことにも気づいているはずです。間違いなく新たな対策を練ってくるでしょうから、村田もどこを改善できるか考えているはずです」

――具体的に、どこを改善するべきでしょうか?

「第1戦の村田は、クリーンヒットを浴びることは少なかったものの、不用意に被弾する場面がありました。もっと頭を動かし、ディフェンスを固める必要はあるかもしれません。そして、ジャブを多用すること。ジャブを増やし、ボディを打ち、頭をよく振れば勝利につなげられると思います。第1戦でも村田が勝っていたと信じていますが、再戦ではより明白な勝利を手にしてほしい。今回の試合で、どちらが優れたファイターなのかをあらためて証明してほしいです」 

――日本では、「村田の手数が少なすぎた」「もっとパンチを出すべきだった」という声が多かったのですが、彼はそういうタイプの選手ではないように思えます。

「私も同意見です。確かに、立ち上がりの3ラウンドは手数が少なかったですが、それ以降の9ラウンドのパンチの数は十分でした。村田は多くのパンチを出すよりも、強烈なパンチを正確に打ち込むタイプ。あくまでKOを狙っていくファイターです。(前回のように)相手がリング上で走り回っているのでは、多くのパンチを出すことはできません。ただ、先ほども述べたようにジャブを増やして追っていけば、エンダムをつかまえることができるはずです」 

――最後に、再戦の結果をどう予想しますか? 

「KO勝利が理想ですが、判定になったとしても村田が勝つと思います。今度こそ、村田の手が上がるように、僕もできる限りのサポートをしたいです」