バレーボール女子ネーションズリーグ2024のファイナルラウンドがタイで行なわれている。準々決勝、日本は中国を3-0のストレートで下した。相手は主力を欠いていたとは言え、アジア1位を蹴散らしたことはチームに勢いを与えるだろう。「勝ち癖」 そ…

 バレーボール女子ネーションズリーグ2024のファイナルラウンドがタイで行なわれている。準々決勝、日本は中国を3-0のストレートで下した。相手は主力を欠いていたとは言え、アジア1位を蹴散らしたことはチームに勢いを与えるだろう。

「勝ち癖」

 それは今年7月のパリ五輪決戦に向け、戦いのベースになる。チームを勝利に導く、"戦いの女神"のような選手が、日本にはいるだけに――。
 



ネーションズリーグ準々決勝・中国戦でチーム最多の22得点を挙げた古賀紗理那 photo by AP/AFLO

 ネーションズリーグ予選ラウンド福岡大会、セルビア戦後のパリ五輪出場を祝うセレモニーでの光景だった。

 コートの上で、古賀紗理那(28歳)がキャップをちょこんと帽子を頭の上に乗せた。満面の笑顔で、その様子がなんとも愛らしかった。本人もおかしみを覚えたのか、我に返ったように深くかぶり直す。そして自然と選手たちの中心に陣取ると、ファインダーに向けてマスコットを手にポーズを取った。

 それぞれの選手がテレビのインタビュアーに呼ばれ、質問に答えていた。最後の番が、彼女だった。

「やったぜー!」

 古賀はマイクに向かって、ストレートに気持ちを吐き出した。スタンドから歓声が沸き起こる。他の選手たちが、やや緊張気味に答えていた空気を振り払うかのようだった。ここまで辿り着いたことを、キャプテンとして自ら祝っているようにも見えた。

「(選手インタビューは)『最後にしゃべって』って言われていたんです。でも、『みんな、くそ真面目なこと言ってんなー』って思って(笑)。林(琴奈)選手なんか、真面目ぶっていませんでした? 私の番では、"なんか言おうかな"って思っていたので......」

 ミックスゾーンで、古賀はそんな心境を明かしていた。

 彼女は孤高の境地にいるのだろう。自分のペースを崩さない。それがチームのためになると信じている。たとえば、試合中は声を枯らすほどに周りを叱咤する。チームメイトからは「いつもと声が違う」と言われるほどだが、それが自身で分からないほど無意識に声を出している。リーダーシップという概念を、無意識に体現しているところに、リーダーの本質がある。

【チームの課題を次々と挙げていった】

「コンビのところで、私のタイミングの入り方もあるんですが......。(セッターの岩崎)こよみさんのセットで、下から来るトスは落ち際を叩くことになるから、結局、高いところで打てないので。このまま(と動作をつけながら)トスが上で飛んでいる最中に(打てるように)。少しずれてもいいから、私の(スパイクの)"通過位置"だけ気にしてトスを上げてほしい、と言いました」

 古賀は誰に対しても、堂々と要求する。決して妥協はしない。そこに、彼女のエースの矜持があり、覚悟が滲む。

「チーム全体で、"クイックの出現率をもっと上げたいな"と思っています」

 彼女は言う。

「クイック、バック(アタック)がそれぞれ単体になっているので、もう少し連動させて、いっせいに入るというか。最初はそれができていても、疲労がたまってくると、どうしてもトランジションが遅れちゃっているので、そういう時こそタフに、いっせいに入り込む形を作りたいですね」

 お互いが消耗した後に、勝負の分岐点はある。そのタフさを、彼女は淡々と求める。彼女自身も、それを請け負う準備ができている。

「パスが苦しくなって上がって来るところもあると思うんですが、そこを私が決めきる、打ちきるって思っています。トスが本当に苦しいときは、無理せずにもう一回、スパイクチャンスを見つけて打つ。私も熱くなってくると、先に入りすぎちゃったりするんですが、それぞれのセッターと(タイミングを)合わせられるように」

 古賀は心底、バレーを愛しているのだろう。どうしたら勝てるのか、そのアイデアや課題が次から次へと湧き出てくる。それだけ、人生を懸けて戦っているからだ。

「(ネーションズリーグは予選を通じて)大変だったけど、楽しいというか、楽しみで。"古賀紗理那史上"一番必死な大会でした」

 古賀は口元だけの笑みで言った。

「1週目(トルコ・アンタルヤ大会)から、ひとりだけ空回りしているんじゃないかっていうくらい、必死にやっていました。その分、きつかったのかもしれないですが、"必死な自分もめっちゃカッコええやん"って(笑)。中国(・マカオ大会)から無敵モードに入って。"私、こんだけ練習したんやから、うまくいかんはずない。こんだけ走って、こんだけトレーニングを積んだし、たくさん練習してきたから"って。そこで急に気持ちも楽になって、楽しかったです。"自分、成長しているな"って思いました」

 トップアスリートの世界では、競技者としての自分に酔えるナルシシズムが巨大な武器になる。それが未知の力を引き出すゾーンへ入るきっかけにもなるのだ。

「身体のコンディションを整えながらですが、きつい練習で負荷を懸けて、パリで爆発できるようにしたいです。まずは(ネーションズリーグ)ファイナルラウンド、チームとして精度を上げて、私自身もスパイクを決められるように」

 古賀は先頭に立って戦い続け、チームを引っ張るだろう。

 6月22日、ネーションズリーグ準決勝、日本は世界ランキング1位ブラジルと決勝進出を懸けて対決する。