昨シーズンまでロサンゼルス・エンゼルスでプレーしていた大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)は、チームメイトのマイク・トラウトと合わせてコンビで「トラウタニ」と称されていた。 来月の14日〜16日に行なわれるMLBドラフトの候補には「ジャッ…

 昨シーズンまでロサンゼルス・エンゼルスでプレーしていた大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)は、チームメイトのマイク・トラウトと合わせてコンビで「トラウタニ」と称されていた。

 来月の14日〜16日に行なわれるMLBドラフトの候補には「ジャックタニ」のニックネームを持つ大学生がいる。こちらは、コンビではなくソロ。フロリダ大のジャック・カグリオーンは、一塁手と投手のツーウェイプレーヤー(二刀流選手)だ。


二刀流で活躍するフロリダ大のジャック・カグリオーン

 photo by Getty Images

 昨年に続き、カグリオーンはジョン・オルルード賞のファイナリストに名を連ねている。二刀流の大学生を対象とするこの賞の正式名称は『ジョン・オルルード・ツーウェイプレーヤー・オブ・ジ・イヤー・アウォード』だ。オルルードはワシントン州立大で、一塁手と投手として活躍。プロ入り後は野手に専念し、通算2239安打と255本塁打を記録した。

 カグリオーンは大谷のように、打ってはパワーがあり、マウンドからは豪速球を投げる。右投左打の大谷と違い、カグリオーンは左投左打だが、スポーツマン一家という点も大谷と共通する。父のジェフは大学まで野球をしていて、母のジョアンヌは大学時代に陸上選手だった。姉のサマンサは大学でバレーボールをプレーしていた。

 過去2シーズンとも、カグリオーンは2試合に1本前後のペースでホームランを打ってきた。昨シーズンが71試合で33本塁打、打率.323と出塁率.389、OPS1.126。今シーズンは62試合で33本塁打、打率.411と出塁率.532、OPS1.392だ。

 NCAA(全米大学体育協会)ディビジョン1のシーズン本塁打記録は、1995年に千葉ロッテ・マリーンズでプレーしたピート・インカビリアが保持している。来日の10年前に、オクラホマ州立大で48本のホームランを打った。

 だが、バットの反発係数が定められた2011年以降にかぎると、最多は2022年にテキサス大オースティン校のイバン・メレンデス(現アリゾナ・ダイヤモンドバックス)が樹立した32本塁打だった。昨シーズン、カグリオーンはそれを上回った。

【高校時代は打者より投手のほうが高く評価】

 今シーズンの33本塁打はトップではなく、ジョージア大のチャーリー・コンドンより4本少ない。シーズン記録も更新された。それでも、NCAAディビジョン1で2シーズン続けて31本塁打以上はカグリオーンしかいない。

 昨シーズンと今シーズンを比べると、四球が17→52、敬遠四球は3→28と激増。ホームラン1本当たりの打数は8.55→7.15と推移している。

 また今年4月には、9試合続けてホームランを打った。このストリークは、2021年にネバダ大リノ校のタイラー・ボセッティが樹立した最長記録に並んだ。メジャーリーグでは、デール・ロング(1956年/ピッツバーグ・パイレーツ)、ドン・マッティングリー(1987年/ニューヨーク・ヤンキース)、ケン・グリフィーJr.(1993年/シアトル・マリナーズ)の8試合連続が最も長い。

 ホームランも、単にフェンスを超えるだけではない。9試合連続ホームランの7本目は、金属バットとはいえ、推定飛距離516フィート(約157.3メートル)を記録した。スタットキャストによる計測が始まった2015年以降のメジャーリーグ最長は、2019年にノマー・マザラ(テキサス・レンジャーズ)が打った505フィート(約153.9メートル)のホームランだ。

 今月初旬には、打球初速119マイル(約191.5キロ)のホームランも打っている。2015年以降、メジャーリーグで初速119マイル以上のホームランは、11本しか出ていない。大谷のホームランは、最長が493フィート(約150.3メートル)、最速は118.7マイル(約191.0キロ)だ。

 一方、投手としては、昨シーズンが先発18登板の74.2イニングで奪三振率10.49と与四球率6.63、防御率4.34。今シーズンは先発15登板の72.2イニングで奪三振率10.16と与四球率5.94、防御率4.71を記録した。制球には課題を残すものの、速球の最速は100マイルに達する。そこに、カッター、スライダー、チェンジアップを交える。

 カグリオーンは、高校→大学の間、2021年6月にトミー・ジョン手術を受けた。それまでは、打者よりも投手のほうが高く評価されていた。「原石のハードボーラー」といったところだ。

【野手とリリーフ投手の二刀流もアリ】

 現在の評価は、打者が投手をしのぐ。カグリオーンをドラフトで指名する球団は、投手でも二刀流でもなく、一塁手として見ている可能性もある。

 指名順位は、全体3位〜5位あたりになりそうだ。たとえば、MLB.comのジョナサン・メイヨーは5位、ESPNのカイリー・マクダニエルは4位、SBネーションのマーク・ショーフィールドは3位に挙げている。

 トップ2は、前出のジョージア大のコンドン(三塁手/外野手)とオレゴン州立大のトラビス・バザンナ(二塁手)と予想するメディアが多い。このふたりとアーカンソー大のヘイゲン・スミス(左投手)は、MVPに当たるゴールデン・スパイク賞のファイナリストに挙がっている。カグリオーンは、セミファイナリストに終わった。

 今年の指名権トップ5は、1位がクリーブランド・ガーディアンズ、2位がシンシナティ・レッズ、3位がコロラド・ロッキーズ、4位がオークランド・アスレチックス、5位はシカゴ・ホワイトソックスが持っている。

 カグリオーン自身は「二刀流を継続したい」と考えているようだ。昨年6月にESPNのジェフ・パッサンが発表した記事のなかで、カグリオーンは大谷について「最高にクールだと思う。あれこそ、まさに僕がやりたいことなんだ」と言い、将来に関しては「一方に専念するよう、球団から決断を迫られないかぎり(二刀流を)辞めるつもりはない」と語っている。

 プロ入りしたカグリオーンが大谷に続くスラッガー&ハードボーラーとしてキャリアを築くかどうかは、まだわからない。ただ、先発投手が無理でも、野手とリリーフ投手の二刀流もあり得る。

 野手出場→リリーフ登板は、ブルペンで投げる時間がとれないので難しいだろうが、オープナーとしてマウンドに上がるのであれば、試合前に投球練習を行なえる。ホームゲームなら1回表に投げ、1回裏の打席に立ち、2回表からは一塁の守備につく、といった流れだ。

 オープナー&DHの場合も、試合に出場し続けることができる。2022年に制定された、いわゆる「大谷ルール」により、打者としてもラインナップに名を連ねた先発投手は、降板後もDHとしてラインナップに残ることが可能になった。

 カグリオーンのような選手にとって、大谷は実在する最高のモデルとなっているだけでなく、ルールの面でも自身に続く二刀流選手が現れる可能性を高めている、という見方もできる。