埼玉県勢初となる花咲徳栄の優勝で幕を閉じた夏の高校野球。今年も延長戦あり、打撃戦あり、大逆転ありと多くの高校野球ファンを熱狂させた。そんな第99回大会をアマチュア野球ウォッチャー、西尾典文が特に目についたチーム、選手、出来事を振り返ります。…

埼玉県勢初となる花咲徳栄の優勝で幕を閉じた夏の高校野球。今年も延長戦あり、打撃戦あり、大逆転ありと多くの高校野球ファンを熱狂させた。そんな第99回大会をアマチュア野球ウォッチャー、西尾典文が特に目についたチーム、選手、出来事を振り返ります。

この夏、甲子園で目撃したサプライズ10!【サプライズ1】広陵・中村奨成、数多くの大会記録を更新!

まさに今大会の主役という活躍だった中村奨成(広陵・捕手)。新聞、テレビ、多くの媒体で取り上げられているが、やはり触れないわけにはいかないだろう。

清原和博(PL学園)の記録を32年ぶりに塗り替える6本塁打だけでなく、43塁打、17打点と三つの新記録を樹立。19安打と6二塁打もタイ記録と、その打棒はまさに打ち出の小槌状態だった。広島大会の初戦では左手首に死球を受けた影響もあってスイングのブレが大きく、大会前は正直バッティングをそこまで高く評価していなかったが、甲子園の活躍で完全に認識を改めさせられた。この活躍で清宮幸太郎(早稲田実)、安田尚憲(履正社)とともに、高校生野手の目玉となったと言えるだろう。

数々の記録を打ち立てこの夏の甲子園の主役となった中村奨成(広陵)

【サプライズ2】前橋育英・丸山和郁、大会記録に並ぶ8盗塁!

Timely!WEBのタイムランキングでは、すっかりおなじみの丸山和郁(前橋育英・中堅手)。今大会でもそのスピードを如何なく発揮して、大会記録に並ぶ8盗塁をマークして見せた。とにかくトップスピードになるまでが速く、8盗塁のうち三塁への盗塁が4つというのも見事。投手もこなしながらこれだけ走れる選手は過去にいなかった。U18W杯でもそのスピードで世界を驚かせてもらいたい。

投手をこなしながら8盗塁をマークした丸山和郁(前橋育英)

【サプライズ3】北海・阪口皓亮、甲子園で大変身!

投手で最もインパクトを残したのは間違いなく阪口皓亮(北海・投手)だった。南北海道大会での成績は27回を投げて被安打34、16失点というもので、大会前にはほとんど名前が挙がっていなかったが、初戦の神戸国際大付戦では145km/hを超えるスピードを連発し、スタンドを沸かせた。見事なフィールディング、1.0秒台の素早いクイックも披露し、投げる以外の能力の高さも十分に見せつけた。ここまで甲子園でいきなり開花する選手も珍しい。

【サプライズ4】徳山壮磨、磯村峻平の見事なコントロール!

スケールの大きさとスピードが阪口なら、緻密さで目立ったのが徳山壮磨(大阪桐蔭)と磯村峻平(中京大中京)の二人だ。

徳山は大会7日目時点のベストナインでも触れたが、そのピッチングはまさに精密機械と呼べるもの。コーナーいっぱいに投げ分けて常にストライク先行で打者を追い込み、7回を投げて3ボールになった場面が一度もなかった。

磯村が素晴らしかったのが内角攻め。右打者にも左打者にも徹底して内角を突き、手元で変化するスライダーとのコンビネーションで交代する6回ワンアウトまで強力広陵打線を寄せ付けなかった。ともにU18W杯の代表にも選ばれており、国際大会でも緻密なピッチングに期待がかかる。

見事なコントロールを披露した徳山壮磨(大阪桐蔭)

【サプライズ5】強肩捕手、過去最高レベル!

先述した中村以外にもとにかく今大会は強肩の捕手が多かった。捕手のセカンド送球タイムは一般的には2.00秒を切れば強肩と言われているが、今大会では21人がそのタイムをクリア。昨年夏の甲子園では15︎人、一昨年は11人だったことを考えても、いかにスローイング技術が高い選手が多かったかがよく分かるだろう。大会7日目終了時点のタイムランキングでも発表したが、1.8秒台をマークした選手も7人を数えた。バッティングの良い選手も多く、まさに捕手の当たり年と言える大会だった。

初戦でセカンド送球1.83秒を記録した蔵野真隆(智弁和歌山)

【サプライズ6】投手の分業制が進み、140キロがスタンダードなスピードに

今年の49代表校で、地方大会で一人の投手が投げ抜いてきたのは東筑(福岡)だけ。本大会でも複数の試合を完投した投手は長谷川拓帆(仙台育英)と佐藤圭悟(三本松)の二人だけだった。

投手の投球過多が問題視されることが多いが、もはや一人のエースで勝てる時代ではなくなっていることは間違いない。

そして更に感じるのが全体のレベルも上がっているということ。今大会で140km/hを超えるスピードをマークした選手は51人を数え、中京大中京は登板した4投手が全員140km/hを超えた。もちろんスピードだけが全てではないが、この数字は10年前では考えられないことである。

優勝した花咲徳栄も全試合綱脇慧、清水達也の継投であり、二人の力のある投手の強みを十分に生かしていた。

綱脇慧と二人でチームを頂点に導いた清水達也(花咲徳栄)

【サプライズ7】信州の機動破壊!松商学園の機動力

機動破壊と言えば健大高崎(群馬)の代名詞だが、今大会でスピードを全面に出した戦いを見せたのが松商学園(長野)だ。2試合で9盗塁も凄い数字だが、それ以上の迫力があったのが打者走者の全力疾走。1回戦の土浦日大戦では4人が一塁到達で4.00秒を切るタイムをマーク。これは出場49チームの中で圧倒的なレベルの高さだった。ホームランが飛びかった大会で長打力がなくても戦える好例だったと言える。レギュラー3人が下級生であり、秋以降もスピードあふれる戦いぶりに注目だ。

【サプライズ8】負けても凄かった、大阪桐蔭

3回戦で仙台育英(宮城)に逆転サヨナラ負けを喫し、惜しくも二度目の春夏連覇を逃した大阪桐蔭(大阪)だったが、選手の能力の高さ、野球の質の高さは間違いなくナンバーワンだった。まず圧倒されるのが試合前のシートノック。ボール回しの時から送球のスピードが違うことがよく分かる。外野からの返球も、定位置で捕球したものはほとんどカットを使わない。控え選手のレベルの高さも際立っていた。藤原恭大、根尾昂、山田健太、中川卓也、柿木蓮など力のある下級生が多く残っており、新チームでも春夏連覇を目指せる戦力と言えるだろう。

「敗れてなお強し」の印象を残した大阪桐蔭

【サプライズ9】日本航空石川、甲子園でも驚異の粘り!

初戦で最大の番狂わせを演じたのが日本航空石川(石川)だ。8回を終わって3点のリードを許し、相手の木更津総合の投手は大会屈指の好投手である山下輝。先頭から二人が出塁するが、その後連続三振を喫してツーアウトになった時は球場全体に試合が終わった雰囲気が漂っていた。

しかしここからしぶとく繋いで4連打。一挙に4点を奪い試合をひっくり返して見せたのだ。続く2回戦でも優勝した花咲徳栄に初回いきなり5点を奪われるなど7回表までは6対0と一方的な展開だったが、その裏に3安打を集中させて3点を奪って見せた。石川大会でも準決勝でも優勝候補筆頭の星稜を相手に8回から5点差を逆転しており、その粘りは甲子園の舞台でも光り輝いていた。

日本航空石川(石川)の粘りに屈した大会屈指の左腕・山下輝(木更津総合)

【サプライズ10】ミレニアム世代の2年生が躍動!

大阪桐蔭のところでも触れたが、他のチームを見ても将来有望な2年生が目立つ大会だった。特に目立ったのが強打者が多いこと。野村佑希(花咲徳栄)、片山昂星(東海大菅生)、谷口嘉紀(神戸国際大付)、内野裕太(波佐見)、濱田太貴 (明豊)は見事なホームランを放ち、赤平竜太(青森山田)、澤井廉(中京大中京)、谷合悠斗(明徳義塾)も高い技術を見せた。ショートの守備で再三の好プレーを見せた田中幹也(東海大菅生)も2年生だ。

投手では柿木以外にも山田龍聖(高岡商)、平田龍輝(智弁和歌山)、森悠祐(広陵)、戸郷翔征(聖心ウルスラ)などが本格派の片鱗を見せた。来年の100回大会でも新たなスターが出現する可能性は高いだろう。

4番打者としてチームを優勝へ導いた2年生の野村佑希(花咲徳栄)

ショートの守備で再三の好プレーを見せた2年生の田中幹也(東海大菅生)

ポテンシャルの高さを見せた2年生の山田龍聖(高岡商)

独自の視点で10項目をピックアップしたが、改めて高校野球のレベルは上がり続けているというのが印象である。ホームランの多さが取り上げられることが多かったが、捕手のスローイングや機動力にも唸らされる場面は少なくなかった。甲子園は閉幕したばかりだが、各地で秋季大会が開幕しセンバツへの戦いは既に始まっている。90回を迎えるセンバツ、100回を迎える夏の選手権では更に素晴らしい試合、プレーを期待したい。(文・写真:西尾典文)