GⅠ初出場で栄冠に輝いた石井貴子 photo by Yasuda Kenji【波乱続きのパールカップ】「またこんな日を迎えられるなんて、自分が一番びっくりしています」 ガールズケイリンのGⅠ開催「第2回パールカップ」を制し、2代目女王に輝い…


GⅠ初出場で栄冠に輝いた石井貴子

 photo by Yasuda Kenji

【波乱続きのパールカップ】

「またこんな日を迎えられるなんて、自分が一番びっくりしています」

 ガールズケイリンのGⅠ開催「第2回パールカップ」を制し、2代目女王に輝いた石井貴子(千葉・106期)は、自分の頬をつねりながら、その痛みで自らの快挙を実感しようとしていた。

 6月11日(火)から13日(木)にかけて大阪の岸和田競輪場で開催されたパールカップは、ガールズケイリンのGⅠ開催で唯一の東西対抗戦形式。今回の開催期間は、連日30度に迫る熱さとバックストレッチから第4コーナーにかけて強い風が吹くコンディションが作用したのか、大きな波乱が起こった。

 初日の予選から競走得点上位者の吉川美穂(和歌山・120期)、石井寛子(東京・104期)が敗退すると、2日目の西日本準決勝では4月にオールガールズクラシックを獲りGⅠ開催2連勝を狙う昨年覇者、児玉碧衣(福岡・108期)と、今年に入って好調をキープし続けている坂口楓華(愛知・112期)がそろって敗退。優勝候補と見られていた選手たちの脱落という波乱を追い風に変えたのが、石井貴子だった。

 石井は東日本準決勝で4着だった。ガールズは7選手で争われるため、準決勝で3着までに入れば決勝に進める。あと1選手は準決勝で4着になった2選手のうち、初日の順位の上位者に決まる。

 西日本準決勝で4着になったのは児玉だったが、児玉は初日が2着、石井は初日が1着だったため、先にレースを終えて結果を待っていた石井の元に最後の決勝行きチケットが転がり込んだ。

【「恵まれた」ポジションから執念の追走劇】

 2014年のデビューから順調に勝ち星を積み重ね、ガールズケイリンコレクションを4度制覇するなど第一線で戦ってきた石井だが、一時はケガで引退を覚悟するほどの苦境を経験した。2021年に落車で大ケガを負って欠場を余儀なくされると、復帰した後も、練習中の落車で複数箇所を骨折。度重なる試練に競技への情熱は途絶える寸前だった。しかし欠場中にも復帰を待ちエールを送り続けたファンの思いが、再び石井貴子をバンクへと導いた。

 自身初のGⅠ決勝を7番車で迎えた石井は「7番手(の位置取り)になるだろう」と覚悟を決めてスタートを切る。予想どおり最後方からの追走となったが、目の前のポジションに入ったのは、奥井迪(東京・106期)。予選・準決勝ともバックストレッチで先頭に立つスタイルを貫いてきた同期の背後で、「まさか奥井さんの後ろがとれるとは」と驚きを隠せなかった。願ってもないポジションを「恵まれた」と感じ、同時に「この勝負権は絶対に渡さない」とも決意した。

 打鐘を受けて奥井が前に出始めると、石井もその後ろをピタリと追走する。後続を振り切らんとする奥井のスパートにも、接触しながらのポジション争いにも臆さず、執念ですがりつくと、最後の直線は「いつもどおり、何も考えられなかった」ほど力を振りしぼり、決勝線へ雪崩込んだ。

 石井は無我夢中で走り切ったため、何着かわからないほどだったが、顔を上げると場内ビジョンに映し出される自分の姿が目に入った。勝った。そう確信すると、バンクを周回する石井の目からは涙があふれて止まらなかった。

決勝でのゴールライン付近。7番車・橙が石井、2番車・黒が奥井、5番車・黄が尾崎睦

 photo by Yasuda Kenji


レース後、号泣する石井

 photo by Yasuda Kenji

【「その日にできることを精一杯」】

 レース後、石井は「骨が折れてもくっつくけど、(私は)心が折れてしまってもう走れない、そう思ったこともありました。こんな日が来るなんて信じられません」と、辛く苦しい欠場期間を乗り越えての優勝を振り返った。

 GⅠの優勝で2020年以来となるガールズグランプリの出場権も獲得したが、その最高峰の争いに向けては「ケガをしてから、大きな目標よりもその日にできることを精一杯やろうと思うようになりました」と、準決勝直後と同じ「その日にできることを精一杯」というフレーズを繰り返してまた一歩ずつ進むことを誓った。

「ケガをする前に比べると足りないことも、できないことも、どうしようもないこともたくさんあります。でも、そこを工夫しながらこの先も一個ずつやっていきたいと思います」

 泣きはらした目でそう話した石井の表情はどこか清々しく、栄光も苦境も味わってきた選手にしか表現できない重みを感じさせるものだった。

 2024年上半期の締めくくりとも言えるパールカップ。決勝2着の奥井は「泣けるほど声援がすごかったので、1着を届けられなくて悔しい。この結果は『満足するな』と言うことだと思うし、もっと頑張ろうというモチベーションになった」と振り返り、3着の尾崎睦(神奈川・108期)は「タイトルが獲りたい。グランプリが獲りたいという思いはブレずに頑張りたい」と決意を新たにした。

 今開催で目立ったのが、ベテラン勢。3日間続けて信念を貫く走りで結果を残した奥井は42歳、尾崎は39歳、そして石井は34歳だ。この活躍は他の選手たちに大きな刺激となったはずだ。彼女たちが巻き起こした風は今後どのように広がっていくのか、下半期の戦いからも目が離せない。

【Profile】
石井貴子(いしい・たかこ)
1990年2月17日生まれ、岐阜県出身。中学・高校・大学とアルペンスキーに励んだのち、社会人を経て競輪に転向。2014年、24歳の時にデビューする。自転車競技のナショナルチームの一員として国際大会にも出場し、2016年ワールドカップのケイリンで8位の成績を残す。ガールズケイリンでも数々のビッグレースに出場。2018年にガールズケイリンコレクション、2019年にガールズケイリンフェスティバル、2020年にガールズドリームレースを制すなど、ガールズケイリン界をけん引する存在だった。2021年に落車により大ケガを負い、その後もケガに見舞われたため、目立った結果を残せなかったが、懸命なリハビリとトレーニングで復帰し、2024年6月の第2回パールカップで優勝を果たした。