8月19日~20日、スーパーフォーミュラ選手権のシリーズ第4戦がツインリンクもてぎで行なわれ、今シーズン初参戦で注目を集めていたピエール・ガスリー(TEAM無限)が初優勝を飾った。開幕前の期待とは裏腹に結果の出ない日々が続いていたガス…

 8月19日~20日、スーパーフォーミュラ選手権のシリーズ第4戦がツインリンクもてぎで行なわれ、今シーズン初参戦で注目を集めていたピエール・ガスリー(TEAM無限)が初優勝を飾った。開幕前の期待とは裏腹に結果の出ない日々が続いていたガスリーは、この第4戦でも初日にブレーキトラブルが発生してクラッシュ。さまざまな逆境を跳ねのけて掴んだ初勝利だけに、マシンから降りると雄叫びを上げて喜びを爆発させた。



待望の初優勝で喜びを爆発させたピエール・ガスリー

 ガスリーは昨年GP2シリーズで年間チャンピオンを獲得したフランス出身の21歳。F1のレッドブルチームでリザーブドライバーも務め、F1のテストにも参加している。初めて乗るスーパーフォーミュラのマシンにもすぐに順応し、開幕前のテストではいきなりトップに迫るタイムをマーク。「開幕戦から優勝するのではないか?」と周囲をざわつかせ、ガスリーの注目度は一気に上がっていった。

 しかし、いざシーズンが始まってみるとレースコンディションの変化に合わせきれず、細かなトラブルにも振り回されて大苦戦。開幕戦の鈴鹿では10位に終わり、優勝はおろかポイントすら獲得できなかった。

 第2戦・岡山のRace2では7位に入り、ようやく初ポイントを獲得するが、「喜べる結果ではない」とガスリーの表情は曇ったまま。第3戦・富士ではホンダ勢最上位となる5位に食い込むも、その反応は前戦とまったく同じだった。何が足りないのか――。苦しい戦いが続くなか、ガスリーはチームとともに地道に原因を探り、対策と改善を繰り返す日々を過ごした。

 そして迎えた第4戦・もてぎ。彼にとっては初めてのサーキットだけに、少しでも走り込んでコースを覚えておきたかった。だが、金曜日のセッションでペースを上げ始めた1周目、突如ブレーキトラブルが発生してクラッシュを喫してしまう。金曜日は走ることができなくなり、貴重な1時間の走行時間を失うことになった。

 昨年のストフェル・バンドーン(現マクラーレン・ホンダ)と同じように、スーパーフォーミュラをF1へのステップアップの足がかりにしたい――。ガスリーはそういう想いで日本にやってきた。また、8月下旬のこの時期は、F1界では来季に向けた契約交渉が進んでいる真っ最中。思うように結果の出ていないガスリーとしては、第4戦で好成績を残してF1界にアピールにしたいところだ。しかし、それがいきなりのマシントラブル。さすがにガスリーの表情にも焦りや苛立ちが見られた。

「本格的にペースを上げた1周目にブレーキに問題が出て、金曜日はクラッシュしてしまった。初めてのコースだったから、しっかり走り込みたかったけど……。気持ちを切り替えて次の日に臨むことにしたけど、土曜朝のフリー走行は限られた時間でたくさんのことをしなければいけなかった。だから、この週末は大変だったよ」

 ガスリーは今回も苦しい週末になるかと思われた。だが、ここから彼は底力を発揮していく。

 上位14台に絞られる予選Q1は、開始直後から雨が降り出すコンディション。スリックタイヤでタイムアタックできる時間は限られていた。しかし、ガスリーはその少ないチャンスで好タイムを叩き出して5番手をマーク。Q2以降は悪天候により日曜の朝に順延されたが、ここでもガスリーは流れを掴んで上位につけ、最終的に4番手で予選を終えた。

 第4戦の決勝は通常とは異なり、2スペックのスリックタイヤが用意されて、ハイグリップだが早めに劣化してしまうソフトタイヤが導入された。ガスリーより前の3台はスタート時にソフトタイヤをチョイスし、序盤からリードを広げていく作戦を選択。対するガスリーは、使い慣れているミディアムタイヤを選んだ(レース中のタイヤ交換が義務付けられ、ソフト、ミディアムとも最低1回は使用しなければならない)。

「他の選手がソフトタイヤを選んでいるのは知っていたけど、実際にソフトタイヤのデグラデーション(性能低下)がどのくらいになるのかわからなかったし、自分はミディアムでのロングランのほうが自信があったから、ミディアムでスタートしたいと希望したんだ」

 決勝のスタートが切られると、たしかにソフトタイヤを履いた3人がレースを先行した。だが、ガスリーのレースペースは2番手の野尻智紀(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)や3番手の山下健太(KONDO RACING)と変わらない1分36秒台をマークする。そして上位陣がタイヤの消耗で先にピットストップすると、その間にリードを蓄えて28周目にピットストップを行ない、コースに復帰したときには野尻と山下を逆転。さらにトップを独走していた小林可夢偉(KCMG)がタイヤ交換に手間取ったこともあり、レース後半でガスリーがトップに躍り出た。

 ピットストップ後は連続周回のテストができていなかったソフトタイヤでの走行となったが、最後までペースを乱さずにトップのポジションをキープ。今週末は不安定な天候もあって前日の予選からほぼぶっつけ本番という状態だったが、ガスリーはそういった難しいコンディションに合わせ込み、最終的には2位の可夢偉に18秒もの大差をつけて第4戦を制した。

「僕は勝つためにこのレースにやってきた。5位や6位争いをするためにここに来たんじゃない」

 シーズン序盤の苦労を乗り越えたガスリーは、パルクフェルメでマシンを降りると雄叫びを上げながらガッツポーズ。彼にしては珍しく、感情を露(あらわ)にして喜んでいたのが印象的だった。

「最高だよ。本当にうれしい。ホンダは今回に向けてすばらしいエンジンを用意してくれたし、チームもすごく努力してくれて、いいクルマに仕上げてくれた。本当に感謝しているよ」

 この勝利でガスリーはドライバーズランキング4位に浮上。「今はひとつひとつのレースに集中して、ベストを尽くすだけ。とにかくプッシュし続けることが大事だし、今回もそのおかげでこの結果が得られたから、次もこの調子で全力を尽くすよ」

 今シーズンのスーパーフォーミュラは残り3レース。ガスリーはアグレシッブに攻めていく姿勢を崩さず戦っていきたいと語る。その表情は、今までの取材時には見られなかった満面の笑みだった。