桑田駿介は臆することなく関東インカレで奮闘を見せた photo by Wada Satoshi 入学時には5000m13分台の1年生がゼロだった今年の駒澤大学。あくまで机上の比較とはいえ、どこかで「今年の駒大は・・・」と思われる部分もあった…
桑田駿介は臆することなく関東インカレで奮闘を見せた
photo by Wada Satoshi
入学時には5000m13分台の1年生がゼロだった今年の駒澤大学。あくまで机上の比較とはいえ、どこかで「今年の駒大は・・・」と思われる部分もあったが、そんな風評を吹き飛ばす活躍を見せているのが桑田駿介だ。
大学入学後の記録会から関東インカレまで5000mで4連続自己ベスト更新中、2レース目で13分台にも突入済みだ。全日本高校駅伝で活躍した実績からロードへの適性は十分に備えているだけに、トラックでスピードを磨くことでさらなる進化に注目が集まっている。
果たして秋の駅伝シーズンにはどんな姿で三大駅伝デビューを果たすのか。
【5000m13分台のルーキーはいなくても】
5000m13分台の新入生が何人、入学したか――新年度を迎えると、大学駅伝界ではそんなことが話題になる。
だが、その数は各校の補強度合を測るひとつの指標に過ぎない。改めてそう思わせてくれたのは、駒澤大のルーキー、桑田駿介の活躍があったからだ。
高校生が13分台をマークすることはもちろん簡単なことではないが、以前に比べると珍しくはなくなった。現に、今年度は青山学院大には6人もの13分台ランナーが入学した。
一方で昨年度、大学駅伝二冠(出雲駅伝、全日本大学駅伝)の駒大は13分台ランナーの入学はゼロ。5000mの記録だけを尺度にすれば、今年度の駒大は勧誘に失敗したと思う人もいるかもしれない。だが、決してそんなことはない。それは大学入学後の桑田の活躍が証明している。
駅伝の強豪・倉敷高(岡山)出身の桑田は、高校時代の5000mの自己ベストは14分01秒90に過ぎない。インターハイには、高校2年、3年と2年連続で5000mに出場しているが、全国の舞台ではいずれも予選敗退に終わっている。
「高校3年目は記録を狙うような記録会に出るタイミングがなかったので、タイムは仕方ないのかなと思っています。でも、インターハイは決勝に行きたかったですが......」
桑田の場合、13分台を狙うチャンスがなかっただけとも言えるが、とはいえ、同学年には5000mの高校歴代2位の折田壮太、同4位の飯田翔大(以上、青学大)、同5位の山口竣平(早大)と、高校歴代上位者がずらりと並んでおり、5000mの実績や記録では、どうしても彼らに見劣りしてしまう。
だが、桑田の持ち味は、それ以上の距離やロードにこそあった。
高校時代は1年時から倉敷高のレギュラーとなり、全国高校駅伝ではロング区間の4区(8.0875km)を3年連続で走った。しかも、1年時が区間6位、2、3年時は2年連続で区間賞といずれも好走を見せている。
「そんな意識はなかったんですけど、結果を見れば、ロードのほうが走れますね。ひとりでもしっかり押しきれるところが強みだと思っています」
桑田自身がこう話すように、その力は駅伝で存分に発揮されていた。
また、トラックの10000mおよびロードの10kmでは、高校時代にすでに28分台をマークしている。トラックでは28分59秒87とわずかに29分を切ったに過ぎないが、6月のレースだったので、条件の良い秋冬に走っていれば、さらに記録を伸ばせただろう。
「勧誘した時から、ゆくゆくはマラソンランナーにしたいなという思いがありました」
駒大の大八木弘明総監督も早い段階で長い距離への適性を見出していた。
【連続自己ベスト更新&関東インカレでも活躍】
駒大に入学すると、さっそく桑田の快進撃が始まる。
「高校の時もそうでしたが、新しい場所に来ると燃えるというか、"戦っていきたい"という気持ちが出てきます」
愛知県出身の桑田は、高校から親元を離れて岡山の倉敷高に進学し、1年目から活躍を見せている。環境の変化に戸惑う選手も多いが、桑田は環境に適応する能力も高いのだろう。
「藤田さん(敦史、監督)と大八木さんと、おふたりから違う観点で見てもらえて、アドバイスをもらえる。そこがすごくありがたいです」
こう話すように、駒大の環境も桑田に合っていた。
4月13日の日体大長距離競技会の5000mで大学初レースに挑むと、転倒に巻き込まれそうになるアクシデントがありながらも、14分01秒11とわずかに自己ベストを更新した。そして、その2週間後の同競技会ではついに13分台(13分55秒74)に突入した。
前半戦のビッグレースのひとつである5月の関東インカレ(2部)では1年目から対校選手に選ばれ、5000mに出場した。
「正直、1年目から駒澤大学というチームで関東インカレを走れるとは思っていなかったので、まずは走れたことがうれしかったですね。走るからにはやれるとこまでやろうと考えて走りました」
今年の関東インカレではチームは苦戦が続いていたが、桑田はチームを救う活躍を見せた。
予選を自己新記録で着実に突破し最終日の決勝に駒を進めると、その舞台では他大学のエース級や留学生と堂々と渡り合って、13分49秒69の自己ベストで5位入賞(日本人3番手)を果たした。
「レース前に先輩たちに『頑張ってこい』とか『頼むぞ』って言われて、改めて頑張ろうと思いました。最初から最後までがむしゃらに走ったっていう感覚が強かったです。思ったよりも(体を)動かすことができたので、自信になりました。自分的にはまだまだタイムを出せると思いました」
5000mという距離でもきっちりと結果を残した上に、桑田自身、まだまだ伸びしろがあることを実感したレースになった。
【Sチームの環境に揉まれて成長中】
桑田は主に大八木総監督の指導を受けており、1年目からSチームのメンバーと一緒に練習をすることもある。
「大八木さんのほうから『やってみないか』と声をかけていただいて、4月中から、Sチームの先輩方がペースを落としてやる時に一緒に練習をやらせてもらっています。よい経験をさせてもらっています」
今季より"Ggoat"として活動しているSチームには、トヨタ自動車で活躍する駒大OBの田澤廉や鈴木芽吹、太田智樹(早大OB)がおり、現役学生では主将の篠原倖太朗(4年)がその一員。まだ"テスト生"とはいえ、入学間もない桑田がSチームに抜擢されるのは、異例のことのようにも思える。
「高校時代は、地道に、毎日コツコツと走り込んだ。そういう練習で基礎ができたと思います」と桑田は言う。一方で、スピードという点では課題を残していたが、その課題こそ、"伸びしろ"と捉えることもできる。
「スタミナがあり、ひとりで(レースを)走れるのでマラソン向き、ロード向きの選手だが、スピード的にはキレがある選手ではない。将来マラソンをやるにしても、今はマラソンでもスピードが必要なので、トラックでスピードをつけていこうと話をしています」(大八木総監督)
例えば、400mのインターバルは、倉敷高では72秒(1km3分ペース)ベースだったが、駒大のSチームは本数が多い上に速い(時期により設定は異なるが、「66秒」などで行なっているという)。
「先輩方にとっては落とした練習でも、僕自身はいっぱいいっぱいなんですけど、それにしっかり付けていけている。自信になっています」
質・量ともに飛躍的に上がり、面食らいそうなものだが、桑田は臆することはない。大八木総監督も桑田のポテンシャルの高さを認めて、こう語っている。
「練習の中身を見ていると、力的にはもう(5000mで)13分40秒を切るかどうかまできている。全部が全部ではないが、Sチームのテスト生として段階を踏みながら芽吹や篠原と一緒に練習をやらせています。その練習ができ始めて、だんだん余裕度が出てきた。たぶん夏を過ぎたらSチームに入ってくるんじゃないかな」
桑田の高校時代のチームメイトには、世界クロスカントリー選手権U 20男子を制した実績を持つ留学生のサムエル・キバティ(現・トヨタ自動車)がいた。ワールドクラスのチームメイトに触発され、早くから世界を意識していたのかと思いきや、「(キバティは)レベルが違ったので、世界に意識が飛ぶことはなかった」と言う。だが、大学に入り、レベルの高い環境に身を置き、その意識は変わった。こう、決意を口にする。
「近くにいる先輩方が世界で戦えるレベルに達しているので、自分も考えないといけないなって今は思っています。まだ、世界で走るようなレベルには至らないので、頑張っていきたいです。いずれはマラソンで世界大会に出ていきたい」
もちろん、駅伝でも大きな戦力となりそうだ。
駒大は今年の箱根駅伝で、優勝候補筆頭と目されながらも、青学大に敗れて連覇を逃した。奇しくも、桑田が在籍した倉敷高も同じような境遇にあった。桑田が高校2年時に全国制覇を果たしながらも、3年時には2位に終わっている。
「倉敷初の全国連覇を目指して1年間やってきましたが、達成できなかった。自分たちの代で負けてしまったことはすごく悔しい。その分、大学の駅伝で活躍したいと思いました。チームは三冠を掲げているので、自分が走って少しでも貢献したいです」
このように、桑田は1年目から活躍を誓っている。
ここまでトラックで順調な滑り出しを見せているが、むしろ桑田の本領が発揮されるのはロードシーズンともいえる。ひと夏を越えて、どんな進化を見せるのか。今後の桑田の活躍がますます楽しみだ。
ロードでの実力は折り紙付きの桑田ゆえ、ひと夏越えた姿が楽しみだ
photo by Sportiva
【Profile】
桑田駿介(くわた・しゅんすけ)/2005年5月17日生まれ、愛知県出身。倉敷高(岡山)→駒澤大1年。高校時代は2年、3年次にインターハイ5000mに出場(予選敗退)、全国高校駅伝(都大路)には3年連続で4区に出走し、区間6位、2年連続の区間賞を獲得。2年次には全国制覇に貢献した。自己ベストは、5000m13分49秒69、10000m28分59秒87(2024年6月10日現在)。