「佐々木麟太郎の渡米のキーマン」友永順平インタビュー後編(全2回)【特別待遇で早くもチームに合流】 今年9月にアメリカ・スタンフォード大への入学を予定している佐々木麟太郎。麟太郎の進学のサポートを務めたのが、長年、日米大学野球の通訳を務め大…

「佐々木麟太郎の渡米のキーマン」
友永順平インタビュー後編(全2回)

【特別待遇で早くもチームに合流】

 今年9月にアメリカ・スタンフォード大への入学を予定している佐々木麟太郎。麟太郎の進学のサポートを務めたのが、長年、日米大学野球の通訳を務め大学野球界で人望が厚い、ロサンゼルス在住の友永順平氏だ。


佐々木麟太郎(左)のアメリカ進学をサポートした友永順平氏

 写真提供/友永順平

 麟太郎は、今年3月に渡米し、すでに現地生活を始めている。正式には9月入学のため、本来はまだ授業を受けられず、野球部の練習には参加できないが、友永氏の交渉によって"特例"が認められた。友永氏はこう話す。

「監督の意向で麟太郎君は練習や遠征にも帯同して、ユニフォームを着てベンチ入りをしています。ある日の紅白戦では2打席連続でホームランを打つなど、すでにチームメイトからも一目置かれる存在になっています」

 友永氏は最初に、入学まで英語に触れられる環境に身を置かせたい、アメリカの投手の速球に慣れるために練習だけはやらせてほしい、と大学側に打診していたという。

「思いもよらず、9月以降に単位として換算される授業もとれるように対応してもらえることになりました」と、大学側の特別待遇に友永氏は驚く。

 アメリカの大学野球は、2月中旬〜5月中旬がレギュラーシーズン。その後、リージョナル(地区大会)、スーパー・リージョナル、最後にネブラスカ州オマハで開催されるカレッジワールドシリーズ(全米選手権)が6月末に行なわれ、シーズンが終了する。秋学期が始まるまでは、オフシーズンとなる。

 麟太郎はオフシーズンにサマーベースボールリーグへの参加を予定している。サマーリーグは、全米各地に複数のリーグがあり、レベルもさまざまだが、メジャーリーグが注目するトップ選手も多く参加する。

 友永氏は「誰でも大学から派遣してもらえるというわけではありません。どのリーグに参加するかは、監督の意向も含め、決めていくことになると思います」と説明する。

【超難関のフルスカラーシップを獲得】

 大学側からのバックアップはすでに相当なものであるが、まずはNCAA(全米大学体育協会)の規定で学業成績を一定以上にキープしなければ、そもそも野球ができないし、試合に出場することも当然できない。

「とくにフルスカラーシップ(学費全額免除)で入学する麟太郎君が、試合に出場できないということは避けなければならない」(友永氏)

 アメリカでは、学生としての本職である「学業」が第一だと考えられているからだ。

「アメリカの大学では自分から手を挙げれば、必ず助けてくれる。わからないことはそのままにせず、周りに聞くこと」。友永氏は、麟太郎にそうアドバイスをしたという。

 そもそも、NCAAの最高レベルカテゴリー「ディビジョンⅠ」に位置する大学で野球をすること、フルスカラーシップを獲得することはどれほどすごいことなのだろうか。

 NCAAのリサーチでは、2022〜2023年のアメリカにおける男子高校生の野球人口47万8000人のうち、およそ2.4%(2024年4月1日更新)がアメリカの大学ディビジョンⅠで野球に取り組んでいるというデータがある。

 また、NCAAの規定では、2024〜2025年のアカデミックイヤーは、ディビジョンⅠの野球部は各チーム40名のみの選手登録が認められている。

「ディビジョンⅠで野球をする資格があるのは、野球部からスカウトを受けた学生のみです。ディビジョンⅠで野球をするということは、日本の社会人野球に所属するのと同じイメージです」と友永氏は表現する。

 そして、NCAAによると、大学で競技をするためのスカラーシップを獲得できるのは、高校生アスリートのわずか2%。ディビジョンⅠの野球部では、2024〜2025年のアカデミックイヤーは各大学最大32人の学生がスカラーシップを受けられるが、選手が受け取る配分率は異なる。

「麟太郎君は激しい競争率のなかで、学費、寮費、食費、授業料などすべてをカバーできるフルスカラーシップを獲得しました」(友永氏)

【英語力は上達しチームに溶け込んでいる】

 周囲からの大きな期待を背負って始まったアメリカでの挑戦。これから、麟太郎は厳しい環境のなかに身を置き、必死にしがみついて夢に向かって前進していく。同時に、一流大学ならではの多様性あふれる仲間との出会いや、刺激的で充実した日々が待っているだろう。

 麟太郎は寮に入っているが、さまざまな学生と交わり視野がより広がるようにと、野球部以外の学生と一緒だという。こうした配慮からも、名門スタンフォード大学のすごさを感じられる。

 麟太郎はアメリカに渡って、2カ月が過ぎた。

 友永氏は「すでにチームにも溶け込んでいて、麟太郎君の英語力も会うたびに上達している。非常に頼もしいです」と絶賛している。

「最近は、通学や広大なキャンパス内の移動のために、チームメイトのアドバイスで電気自転車を購入しました。麟太郎君は、アメリカでまだクレジットカードをつくれていないから、『友永さん、立て替えしてください』と連絡がきましたよ(笑)。次にサンフランシスコへ行ったら、それもサポートしてあげないといけないことのひとつです」

 冗談を交え、友永氏は麟太郎の充実した現地生活について語る。麟太郎にこんなアドバイスもしたという。

「今の麟太郎君があるのは、高校で積み上げてきた実績があるから。次のステップに行くには、もう1ランク積み上げしないと3年後の自分はいないかもしれない。次のチャプターを切り開くためにもうひとつランクを上げていこう、と伝えました」

 佐々木麟太郎の挑戦は始まったばかり。希望と夢を胸に、次世代の道しるべとなっていく彼を応援していきたい。

前編<「あの大谷翔平より多くホームランを...」佐々木麟太郎にアメリカ28大学からオファー殺到「すごい接待でした」進学のキーマンが明かす>を読む

【プロフィール】
友永順平 ともなが・じゅんぺい 
1967年、福岡県生まれ。早稲田大野球部では、同期に千葉ロッテマリーンズやニューヨーク・メッツで活躍した小宮山悟氏(現・早稲田大野球部監督)らがいる。早稲田大卒業後、USC(南カリフォルニア大)へ留学。その後、1998年から日米大学野球に携わり、全日本大学野球連盟とアメリカ連盟の間に入り大会の運営を担う。アメリカ開催の場合は日本チームにつき、日本開催の場合はアメリカチームにつき通訳を兼ねながら日米の多くのトップ選手のよき相談相手になっている。ロサンゼルス在住。