プロラグビー選手として世界を旅してきたディグビ・イオアネは、サモアにルーツを持ち、全身にタトゥを施すニュージーランド生まれの32歳。2017年の夏から、日本最高峰トップリーグのパナソニックにいる。 8月19日、東京・秩父宮ラグビー場。クボ…

 プロラグビー選手として世界を旅してきたディグビ・イオアネは、サモアにルーツを持ち、全身にタトゥを施すニュージーランド生まれの32歳。2017年の夏から、日本最高峰トップリーグのパナソニックにいる。

 8月19日、東京・秩父宮ラグビー場。クボタとの開幕節で後半13分に登場するや、そのキレ味を示す。

 チームが確保した相手キックオフからのボールを、自陣22メートルエリア左中間で受け取る。ギアを入れる。2人の防御を引き付け、タックルを引き付けながらのパスで左隣の笹倉康誉に突破させる。同時に攻め上がった福岡堅樹のフィニッシュが決まったのは、14分のことだった。38-14。パナソニックがリードを広げる。イオアネはこうだ。

「リザーブメンバーとしていいエナジーを与えることができた。チームの力を最大限、引き出すプレーができればと思っています」

 続く29分。グラウンド中盤左でクボタ側が落とした球を右足でひょい、と蹴り上げ、弾道を右手一本で収めながら右のスペースへ駆け上がる。クボタ擁する南アフリカ代表12キャップ(国際真剣勝負への出場数)のライオネル・マプーをかわし、新人の松田力也へつなぐ。ほどなく、山田章仁がだめを押した。山沢拓也のゴールも決まり、スコアは45-14となった。

 一昨季までトップリーグ3連覇を果たしたパナソニックは、結局、45-21で開幕戦勝利を挙げる。インパクトある仕事でファンの帰り支度を止めたイオアネは、文字通りラグビーフットボール然としたあの動きについてこう笑うのだった。

「ああいうプレーは、いつも練習しています。ハハハハ」

 過去には国際リーグであるスーパーラグビーでオーストラリアのレッズ、ウェスタン・フォースに在籍し、フランス1部リーグ・トップ14のスタッド・フランセでもプレー。昨季まで2シーズンはトップリーグのホンダに在籍も、クラブの下部降格と同時期に退団していた。

 規律と自由の絶妙なカクテルを目指すパナソニックに入った経緯については、こう語った。

「パナソニックにはいいカルチャーがあると聞いていました。知っている選手やスタッフもいましたし。ここ数年、成功を収めているチームでプレーしたかった」

 ロビー・ディーンズ監督との関係は深い。イオアネが2007年から2013年の間に通算35キャップを獲得したオーストラリア代表で2008年から指揮官を務めていたのがディーンズ監督だったのだ(~2013年)。イオアネは表情を崩す。

「ロビーさんは素晴らしい友人の1人でもあり、私をずっとコーチしてくれた人でもある。今回、私に素晴らしいチャンスを与えてくれたのがロビーさんで、ロビーさんには大きな借りがあるんです」

 今年8月5日までのスーパーラグビーでは、かつてディーンズが率いていたクルセイダーズの一員として公式戦3試合に出場。王者となった。パナソニックには週頭の14日に合流したばかりだったが、「クルセイダーズでは試合に出た機会が少なかったので、ここではできるだけ試合に出たい」。恩師のディーンズ監督は「合流後、雨模様の天候のなかで練習していたのにあれだけのプレーをしてくれた」とほほ笑むばかりだ。

 2季ぶり5度目の頂点を目指す集団のアウトサイドBKに、新しい色彩が加わった。(文:向 風見也)