■1発目は風に乗せて左翼席、2発目はバックスクリーンへ 東京六大学野球春季リーグは1日、早大が慶大1回戦に8-1で先勝。早大があと1勝して今季勝ち点を5に伸ばせば、リーグ単独最多となる通算47回目の優勝が決まる。今季不振を極めていた3番の吉…

■1発目は風に乗せて左翼席、2発目はバックスクリーンへ

 東京六大学野球春季リーグは1日、早大が慶大1回戦に8-1で先勝。早大があと1勝して今季勝ち点を5に伸ばせば、リーグ単独最多となる通算47回目の優勝が決まる。今季不振を極めていた3番の吉納(よしのう)翼外野手(4年)が、2本塁打4打点と爆発した。

 国内最古の大学野球リーグである東京六大学は、1903年に早大と慶大の対抗戦が始まったのを発祥としている。この日も伝統の早慶戦には、3万人の観衆が詰めかけていた。そんな大舞台で、これまで今季打率.229(35打数8安打=試合前時点)と低迷していた吉納のバットが、ついに火を吹いた。

 1-0とリードして迎えた3回。2死走者なしで慶大のエース・外丸東眞投手(3年)のスライダーに食らいつくと、打球は右から左への風にも乗って左翼席に飛び込んだ。チームにとっても貴重なソロ本塁打に、「確かに風のお陰ではあるのですが、ホームランはホームラン」と口元を綻ばせた。

チームにとっても貴重なソロ本塁打を放った早大・吉納【写真:加治屋友輝】

 2発目は6回だった。リードを5点に広げ、なおも2死二、三塁の好機。打席に向かうと、小宮山悟監督に「この回あと2点取れれば、ダメを押せる。今季一番の集中力で行け」と声をかけられたという。背中を押されると、慶大2番手・荒井駿也投手(3年)の143キロのストレートを一閃。中堅バックスクリーンを直撃する豪快なアーチとなった。

 小宮山監督は「吉納はずっと、調子そのものは悪くなかった。結果が伴わないだけで、何かきっかけがあればと思っていました。(早慶戦前の)この2週間も、しっかりした練習ができていましたし、一番飛ばしていたので、こっそり期待していました」とニンマリ。プロにも注目されながら今季開幕から湿り続けていても、指揮官は「少し力みすぎですが、どうしてもネット裏(スカウト)の評価が気になるでしょうから、しょうがない。平常心でやれという方が無理な話」と、3番・右翼の定位置から動かさず、復調を待っていたのだった。

早慶1回戦・2本目となる中堅バックスクリーンを直撃する豪快なアーチを放った早大・吉納【写真:加治屋友輝】

■前打撃コーチの自宅を訪れアドバイスを受けるなど試行錯誤

 吉納は「今まで結果が出ていなかったことは、リセットして臨みました。今季に関しては優勝がかかっているので、負けられないのは当然ですが、早慶戦は大学野球最高峰の意地のぶつかり合いで、僕自身そこに憧れて入学してきた。絶対に打ちたいと思っていました」と述懐する。優勝のかかった早慶戦という特殊な状況のお陰で、“雑念”が追い払われたのかもしれない。「ホームランを打った時の大歓声は、一生忘れないと思います」と感慨深げだ。

 もちろん、技術的にも不振脱出へ向けて試行錯誤を繰り返してきた。早慶戦を前に、元プロで前早大コーチの徳武定祐氏の自宅を訪れ、同氏のアドバイスでコンパクトなスイングを心掛けたという。前日(5月31日)にはプロ野球の西武-巨人戦をテレビで観戦し、「中村剛也選手(西武)が無駄のないスイングでホームランを打つのを見て、参考になりました」とも。直前まで不振脱出の糸口を、必死に探していた様子がうかがえる。

早大・吉納【写真:加治屋友輝】

 自身も元プロの投手でNPB通算117勝を誇る小宮山監督は「吉納本人がプロでやりたい希望を持っているので、あとは各球団の判断次第。ただ、今日はどこに出しても恥ずかしくないバッティングでした」と改めて高く評価。「ただ、『できるなら、最初からやれよ』と言いたい」とジョークを添えた。

 主砲の復調で勢いづく早大。慶大からあと1勝して勝ち点を取れば、2020年の秋以来7季ぶりの天皇杯を、勝ち点5の“完全優勝”の形で手にする。