敵陣の右サイドで得たスローインを、DF瀬川祐輔が後方のFW家長昭博に預けたときには、川崎フロンターレがゴールする予感はほとんど漂ってこなかった。  ホームのUvanceとどろきスタジアムに、柏レイソルを迎えた25日のJ1リーグ第16節。両…

 敵陣の右サイドで得たスローインを、DF瀬川祐輔が後方のFW家長昭博に預けたときには、川崎フロンターレがゴールする予感はほとんど漂ってこなかった。

 ホームのUvanceとどろきスタジアムに、柏レイソルを迎えた25日のJ1リーグ第16節。両チームともに無得点で迎えた30分に、ボールを受けた家長が選択したプレーが攻撃陣のスイッチを入れた。キャプテンのMF脇坂泰斗が言う。

「バフェにボールが入った後の落としのクオリティーがすごく高い。そこで多くの選択肢を作ろうと全員が意識したなかで、僕も前向きでサポートができた」

 家長は15mほど前にいたバフェティンビ・ゴミスへ、緩やかな軌道を描く浮き球のパスを送った。次の瞬間、バフェの愛称で親しまれる38歳の元フランス代表FWは、ペナルティーエリア内の右角あたりで柏の虚を突くプレーを見せた。

 右足のヒールを駆使したワンタッチの落とし。ゴミスをマークしていた柏のキャプテン、DF古賀太陽は反応できない。しかもボールが弾んだ先にはDF三丸拡とMF島村拓弥の間を縫う形で、あうんの呼吸で走り込んできた脇坂がいた。

 スピードをまったく殺さない体勢のまま、お腹のあたりでボールを足元へ落とした脇坂が、右足を駆使した次のプレーを振り返った。
「次の場面では(遠野)大弥とのワンツーも狙い通りでした」

■「後半がまったく違うサッカーになったのがすごく悔しい」

 脇坂からボールを託されたMF遠野大弥も、完璧な連係だったと自画自賛する。
「バフェに当ててみんなが中へ入っていく形は日頃の練習から意識していたし、あのときはヤスくん(脇坂)とも目が合っていた。僕自身は後ろ向きの体勢だったので、ヤスくんがさらにボールを運べる場所へ、丁寧なパスを置こうと思った」

 遠野が選択したのは右足のアウトサイドを軽く合わせたワンタッチのリターン。目の前を横切っていくボールに、遠野と脇坂を見ていたDF犬飼智也も反応できない。これを右足の付け根で収めた脇坂は、状況を冷静に見極める時間も有していた。

「その前の決定機で下を狙って防がれていたので、それもあって上を狙いました」

 柏のフィールドプレイヤー4人に囲まれながらも、脇坂が間髪入れずにボールの落ち際に右足をヒットさせる。17分に迎えた1対1の場面で、足元を狙った一撃をセーブされたGK松本健太の左側を射抜いたシュートが均衡を破った。

「あれは川崎らしいゴールだったと思うし、川崎にしかできないようなサッカーでもあるし、ああいう形をどんどんピッチ上で表現して、もっともっとゴールに繋げていきたい、というのがいまの一番の本音なんですけど」

 瀬川から家長、ゴミス、脇坂、自分自身が関わり、脇坂がゴールするまでに要した時間はわずか6秒。2つのワンタッチパスが散りばめられた以心伝心のコンビネーションに関わり、アシストがついた遠野は次の瞬間に真逆の言葉を紡いでいる。

「それを踏まえても、後半がまったく違うサッカーになったのがすごく悔しい」

 遠野が振り返ったように、後半の川崎が見せたのは防戦一方になる姿だった。

(取材・文/藤江直人)

(後編へ続く)

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