「何年かに一度の不作」と、センバツの時点からスカウトたちはため息をついていたが、今夏の甲子園は最大の目玉だった早稲田…
「何年かに一度の不作」と、センバツの時点からスカウトたちはため息をついていたが、今夏の甲子園は最大の目玉だった早稲田実業の清宮幸太郎が西東京大会決勝で敗れ、同じく左のスラッガーで高校通算62本塁打の履正社・安田尚憲も甲子園不出場。ただ、現時点で上位候補は少ないかもしれないが、”将来の逸材”という視点で見れば、多くの選手がスカウトの目にとまった。
そこで今回は「プロスカウトが選ぶベストナイン」というかたちで、評価の高かった選手たちを紹介したい。

大会タイ記録となる通算8盗塁をマークした前橋育英の丸山和都
まず投手では、大会ナンバーワンの評価を得たのが、秀岳館(熊本)の左腕・川端健斗だった。175センチと上背はないが、真上から投げ下ろす140キロ台中盤のストレートとスライダーは、高校生が攻略するのは難しい球だ。
「角度があるし、右打者に食い込んでくるカットボール、スライダーもある。真芯で捉えるのは難しいでしょう。春のセンバツでは制球に苦しむ場面もあったけど、この夏はコントロールもよくなった。あとはカーブがあれば最高だね」(パ・リーグ球団スカウトA氏)
「大会のたびに無駄が省かれていって、すごくよくなっている。表情を変えずに投げるのもいいし、チームに『コイツが投げれば大丈夫』という雰囲気もある。スピードとかではなく、数字以外の部分に成長を感じます」(セ・リーグ球団スカウトB氏)
右腕では、大阪桐蔭の徳山壮磨。センバツ優勝投手らしく、貫禄が出てきた印象だ。
「ひとりだけレベルが違ったね。制球力抜群で、ボールにラインが出ている。センバツで優勝して風格が出てきたね」(セ・リーグ球団スカウトC氏)
「スピード重視にならず、両サイドのコーナー、低めを丁寧に突く大人のピッチングをしている。素材は図抜けていないけど、投球の中身がいい」(パ・リーグ球団スカウトD氏)
リリーフタイプで名前が挙がったのが、今大会最速となる150キロをマークした花咲徳栄の右腕・清水達也だ。
「145キロ以上出るし、コントロールも悪くない。(アーム式で)フォーム的に心配な部分はあるけど、あの投げ方はフォークがよく落ちる。伸びしろという部分では疑問符がつくものの、実戦的で完成度の高いピッチャー。短いイニングなら使えると思います」(スカウトA氏)
以上が、多くのスカウトが声を揃えて高く評価した投手たちだ。このほかにも、楽しみな逸材の名前が挙がっている。
大会ナンバーワン左腕と前評判の高かった木更津総合の山下輝は、初戦で敗れたものの、187センチの長身から140キロ台中盤をマークした素材に注目が集まった。
「大型左腕だけど、フォームもコントロールも安定している。スライダーもいいし、なにより野手から転向してまだ1年しか経っていない。なので、完成度という点ではまだまだだけど、伸びしろに期待したい」(セ・リーグ球団スカウトE氏)
同じく左腕では、広陵の平元銀次郎を高く評価するスカウトもいた。
「横滑りのスライダーがいいよね。スリークォーターからクロス気味に投げるので角度があるし、左特有のいやらしさを持った投手。中継ぎで短いイニングを任せたら面白いと思います」(パ・リーグ球団スカウトF氏)
右腕では、148キロをマークした北海の阪口皓亮(さかぐち・こうすけ)。
「フォームは悪くないし、体力がつけば面白い存在になります」(スカウトD氏)
甲子園で自己最速となる149キロを記録した前橋育英・皆川喬涼(みながわ・きょうすけ)も楽しみな逸材だ。
「球に力があるよね。真っすぐ1本でどこまで勝負できるかという感じ。もう少し変化球がよくなればいいんだけど……」(スカウトC氏)
前橋育英には193センチ、96キロの大型右腕・根岸崇裕の将来性に期待する声もあった。川端、徳山をはじめ、山下、皆川、根岸らはすべて進学を希望しているという。「4年後はドラフト上位候補になっていてもおかしくない」と話すスカウトが多かっただけに、今後の飛躍が望まれる。
捕手は、大会前から評判の高かった広陵(広島)の中村奨成が突出。中井哲之監督が「(OBで巨人の)小林誠司より上」と絶賛していた通り、初戦の中京大中京(愛知)戦で2本塁打の活躍を見せ、評価をさらに上げた。
「アスリート型の捕手で、今までにないタイプ。長打力はあるし、肩も強い。足もあるから、盗塁もできる。バント処理のときの二塁送球なんかは球がうなっていた。大舞台で結果を出したのも立派。素材的に魅力十分で、夢を見られる捕手です。(ドラフト1位の)12人に入ってくるでしょう」(スカウトF氏)
広島大会では右手に受けた死球の影響もあって打率.176と苦しんだが、甲子園では3試合連続本塁打を放つなど絶好調。評価を不動のものとした。
一塁手はU-18日本代表候補の中京大中京・鵜飼航丞(うかい・こうすけ)が広陵戦で2安打を放ったが、6月にケガをしてからは本来の力を発揮できずにいた。そこで、花咲徳栄の西川愛也(にしかわ・まなや)をレフトからコンバートしたい。打撃センス抜群の西川は、昨年痛めた右大胸筋断裂の影響で今もスローイングはままならないが、思い切り投げられない状態でも起用したくなるほど打撃の評価は高い。
「投げられないのは度外視して、評価しています。普通に投げることができれば上位候補。打撃センスはプロで首位打者を狙えるレベル。バットコントロールはいいし、ヘッドが落ちないから強い球にも負けない。その上、タイミングもしっかり取れる。こんな高校生は久しぶりに見たね」(スカウトA氏)
二塁手も人材難のため、仙台育英の遊撃手・西巻賢二が選ばれた。168センチと小柄だが、センスとキャプテンシーに、スカウトたちは高い評価を下した。
「春のセンバツで見たときは抜群だった。思っていたより伸びてこなかったというのはあるけど、それでも守備は間違いなくトップレベルでしょう」(スカウトB氏)
「投手としても140キロを投げられる肩の強さはあるし、捕球してからがうまい。それに野球をよく知っているところもいい」(スカウトD氏)
三塁手もコンバートで、神戸国際大付の強打の捕手・猪田和希を推す声が多数を占めた。
「キャッチングを含め、キャッチャーとしてプロでやっていくのは厳しいかもしれないが、バッティングは素晴らしい。懐が深いし、しっかり軸で回転できる。バットをうまく使って遠くに飛ばせるのも魅力だね。地肩も強いし、サードで起用したら面白い」(スカウトC氏)
遊撃手はバッティングのいい盛岡大付の比嘉賢伸を推す声もあったが、今年春のセンバツでショートを守った大阪桐蔭の2年生・根尾昂(ねお・あきら)が高い評価を得た。
「以前のバッティングは粗かったけど、振る力を制御してミートする確率を上げている。ショートとしては、あきらめない姿勢がいい。ほかの選手があきらめる打球でも最後まで追いかけるし、難しい打球でも追いついてしまうからエラーが増えてしまうんだよね。数字には現れない身体能力を感じる」(スカウトE氏)
外野手は内野手に比べると人材豊富だ。そのなかでもスカウト陣が真っ先に挙げたのが、前橋育英のセンター・丸山和都。この夏、大会タイ記録となる通算8盗塁の脚力に加え、左腕投手としても140キロを投げる強肩を備える。
「野性味があって面白い存在の選手。スピードもあるし、肩もある。171センチと小柄だけど、サイズを(低評価の)理由にするのはもったいない素材だね」(スカウトB氏)
甲子園では1安打に終わったが、神奈川大会で4試合連続を含む5本塁打を放った横浜のセンター・増田珠(ますだ・しゅう)も、超高校級の評価を受けた。
「盗塁するイメージはあまり湧かないけど、走攻守に悪いところがない。明るい性格でスター性もある。神奈川大会ではホームランを量産したけど、本来は中距離打者。本人もそれはわかっているようだし、(ドラフトでは)2巡目以内には入るでしょう」(スカウトA氏)
その増田とU-15日本代表時代からライバルだった明徳義塾の西浦颯大(にしうら・はやと)も不動だ。
「足も肩もあるし、ほかの選手とは雰囲気が違う。バッティング技術へのこだわりを感じるよね」(スカウトF氏)
以上がスカウトの選んだ今回の外野手3人だが、大阪桐蔭の2年生・藤原恭大(ふじわら・きょうた)を推す声も多かった。
「2年生の外野手では一番じゃないかな。スピードもあるし、肩も強い。あとはパワーに頼っているバッティングをどうするか。来年の注目選手になることは間違いありません」(スカウトD氏)
「センバツの決勝で2本塁打を放つなど、大舞台で力を出せるのは評価できます。春に比べてスローイングもよくなったし、楽しみな選手です」(スカウトC氏)
このほかでは、スピードのある作新学院・鈴木萌斗、広陵・平元からバックスクリーンに本塁打を放った中京大中京の伊藤康祐、3回戦で2打席連続本塁打を放った盛岡大付・植田拓らの名前も挙がった。
冒頭のスカウト陣の嘆きが表すように、現時点でドラフト上位候補といえるのは中村と増田ぐらい。甲子園で注目された多くの選手は大学進学が濃厚だ。特に投手は、素材を高く評価されている選手が多く、これからの成長が期待できる。
今秋のドラフトで1位候補と言われている立命館大の左腕・東克樹(あずま・かつき)は、愛工大名電時代は”好投手”止まりの評価だった。それが大学時代にノーヒット・ノーランを2度達成して大学日本代表のエースに成長した。この東のように、4年後、上位候補となってスカウトたちを仰天させる選手が出てくるのを楽しみに待ちたい。