「右肩が本当に厳しい状態であれば、たとえ軽くであってもキャッチボールすらできないはずだ。(炎症は)おそらく軽度だから…

「右肩が本当に厳しい状態であれば、たとえ軽くであってもキャッチボールすらできないはずだ。(炎症は)おそらく軽度だから、先発機会を1度飛ばすだけで済むのではないか」

 8月14日、 ヤンキースの田中将大が5日ぶりにキャッチボールを再開したという話をすると、MLBのライバルチームのトレーナーはそう分析していた。




14日のメッツとの試合前に、ファンにボールを投げる田中

 その言葉通り、故障者リスト(DL)に入っている田中の右肩炎症は深刻な状態ではなかったのだろう。現地メディアの報道によると、規定の10日間が終了する22日からのタイガース3連戦で復帰する見通しだという。

 8月12日にDL 入りが発表された際には、田中自身も「この時期にチームを離れるというのはフラストレーションが溜まりますけど、そんなに長い期間は離れないで、戻ることができると信じている。力強くなってマウンドに上がれると思っています」というコメントを残している。その言葉通り、早い段階で復帰登板のチャンスが訪れそうだ。

 今季はここまで23試合で8勝10敗、防御率4.92。今までのキャリアで最も苦しいシーズンを送る田中にとって、DL入りは新たな試練になるかと思われた。しかし、その点についてメジャーのある強豪チームのスカウトに尋ねると、「あくまで右肩が厳しい状態ではないとして」と前置きした上で、「今回の離脱は、むしろプラスになるかもしれない」と語った。

「ふつう先発投手はシーズンを通して働けないことを悔しく感じるものだが、田中のような経験豊かな投手の場合は、1、2度の登板スキップが心身両面でポジティブに作用することもある。疲れが溜まると、どうしても細かな制球が乱れてくる。少し休ませることで、腕だけでなく身体全体に力が戻るだろう。ブレイクを挟む時期としては、疲れが出はじめる8月中旬は適している」

 このコメントの中でポイントになるのは、「細かな制球」という部分だ。

 今季の田中の成績は確かにキャリアワーストだが、防御率が示すほどにピッチング内容が悪いという印象はない。9イニングあたり平均9.5奪三振(メジャー19位)、2.2四球(同13位)はまずまず。相手打者の空振り率に至っては、コリー・クルーバー(インディアンス)、マックス・シャーザー(ナショナルズ)、クリス・セール(レッドソックス)といったスーパーエースたちに次ぐ4位。5位のクレイトン・カーショウ(ドジャース)を上回る高い数字となっている。

 空振りを取る頻度は一般的には成績に直結するだけに、今季の田中の成績不振は”ミステリー”とみなされてきた。そんな田中の課題のひとつは、リーグワースト4位タイとなる28被本塁打にある。HR/FB 率(フライがホームランになる確率)はメジャー1位の21.5%であり、失投が大飛球となり、そのままスタンドに運ばれてしまうシーンが目立っている。このところ、メジャーで話題にのぼってきた”飛ぶボール”と共に、田中のスプリット、スライダーの細かなコントロールの乱れがそこに影響してきたと見ることもできるだろう。

 もちろん今回の離脱が、さらなる感覚の狂いにつながるおそれも否定はできないものの、思わぬ”サマー・ブレイク”が適度な休養となり、本来のような制球の安定をもたらす可能性も高い。楽観論に聞こえるかもしれないが、田中は故障者リスト入り前の8試合で防御率2.89と復調気配だった。ここで失投が多少なりとも減るなら、終盤戦に向けて投球の質は向上していくはずだ。

 8月18日時点で65勝55敗のヤンキースは、東地区首位のレッドソックスと4ゲーム差の2位。今のところワイルドカード争いではトップにつけているものの、決して高レベルではない争いに望みを残しているチームはまだ多く、9月後半まで厳しい戦いが続くことが予想される。

 長い戦いを考慮するならば、田中は100%の状態に戻るまで無理をすべきではないという判断は合理的なものだった。

“So, what have you done lately?(それで、最近は何をしたの?)”が挨拶がわりのように使われるニューヨーク。今季はこれまで散々批判もされてきたが、それでも最も大事なシーズン終盤の9、10月の2カ月に活躍すれば、すぐに手のひらを返したように絶賛してもらえるだろう。そんなシナリオを現実のものにするべく、短い雌伏の時間を経て、田中にとってより重要なマウンドがやってくる。