ともに箱根駅伝への熱い思いを秘める浅野(右)と飯國 撮影●小山真司 令和の箱根駅伝は第96回大会(2020年)以降、青山学院大、駒澤大が1年ごとに頂点に立ち2強時代になりつつある。しかし、國學院大はそこにくさびを打ち込むことを堂々と宣言する…
ともに箱根駅伝への熱い思いを秘める浅野(右)と飯國
撮影●小山真司
令和の箱根駅伝は第96回大会(2020年)以降、青山学院大、駒澤大が1年ごとに頂点に立ち2強時代になりつつある。しかし、國學院大はそこにくさびを打ち込むことを堂々と宣言する。
目標は初の総合優勝。今年2月の大阪マラソンで日本学生最高記録を更新して優勝した主将の平林清澄をはじめ、箱根駅伝総合5位の出走メンバーが9人も残っている。そして、今年度の新戦力もまた、魅力的なランナー揃いだ。なかでも浅野結太、飯國新太はその代表格。そのふたりに國學院大を選んだ理由、そしてこれからの4年間について聞いた。
【強豪ではない環境で成長してきた浅野】
ゴールデンウイークの昼下がり。初夏の汗ばむ陽気のなか、ジョグから戻った國學院大の主力選手たちが寮の前で談笑していた。副キャプテンの山本歩夢(4年)を中心とする輪の中には、フレッシュな新入生たちの爽やかな笑顔もあった。就任15年目の前田康弘監督は、メンバーの充実ぶりに胸を弾ませる。
「やっと4学年すべての戦力がそろいました。新1年生が簡単にメンバーに入れるチームではなくなってきていますが、"本物"は何人かいます。絶対に絡んでくるでしょうね」
新戦力評価の指標となる5000mのタイムは、入学前の記録で3人が13分台をマーク。藤沢翔陵高(神奈川)出身の中川晴喜は13分56秒05、東京実業高(東京)出身の尾熊迅斗は13分59秒27、そして、昨夏のインターハイ5000mで決勝に残った鹿島学園高(茨城)出身の浅野結太は13分59秒19。実績ある1年生たちの名前を挙げながら、前田監督は顔を綻ばせた。
「タイムだけでは何とも言えませんけど、力のある選手たちがうちの門を叩いてくれるようになりました」
即戦力候補として期待されるひとりが、高校から陸上競技を始めた浅野だ。茨城県鹿嶋市で生まれ育ったルーキーは、小学2年生から中学3年生までは、バスケットボールに打ち込んでいたという。ポジションはポイントガード。幼少期からマラソン大会で1位を取ってきた司令塔の走力は、体育館のコート内だけには収まらなかった。地元の大野中学校に陸上部はなかったが、長距離に覚えのある先生に走りのポテンシャルを買われ、学校代表として駅伝大会に出場。すると、才能の片鱗を見せ、高校の進路も陸上競技で選ぶことになった。
「走るのはずっと好きでしたから。高校に進む時に初めて箱根駅伝を目指したいと思いました」
鹿島学園は長距離の強豪ではない。しかし、顧問の先生は短距離専門ながら長距離の練習内容についての理解も深く、放課後の練習メニューを組んでもらっていたという。一方で、朝練習は自ら考えて取り組むなど、やりやすい環境で競技に打ち込んできた。
ジョグは地元の地形を利用し、アップダウンのあるコースを選択。海岸沿いの強い海風にも負けなかった。地道な努力はすぐに報われたわけではない。高校2年時の5000m自己ベストは14分27秒70。同年代では突出したタイムではなかった。それでも、國學院大の前田監督には目に見える記録ではなく、走りそのものを評価されたという。
「『伸びしろがある』『高校年代のうちに13分台が出ると思う』と言われて。あの言葉を聞いて、自信がつきました」
レースの視察に度々足を運んでくれた前田監督とは何度も会話をかわした。國學院大の寮を見学させてもらい、練習にも参加。強くなるにつれて複数の大学から勧誘を受けたが、最後まで心を惹かれたのは國學院大だった。
「ちゃんと自分のことを見ているのが伝わり、前田さんと一緒に練習をすれば、自分は強くなれるという感覚がありました。決め手はチームの雰囲気。先輩と後輩の仲が良く、楽しそうに練習に打ち込んでいたのが印象的です。ここでなら僕も4年間、いい生活が送れるなって」
すでに進路を決めていた高校3年生の秋。あらためて、前田監督の潜在能力を見抜く眼力に驚かされたという。日体大の記録会に参加した浅野は、自身の5000mのタイムを見ると、目を丸くした。
「本当に13分台が出たんです。それも、ちょうど前田さんが見に来てくれた時でした。『ここで出さなくてもよかったのに』と冗談まじりに言われましたが、すごくうれしかったですね」
全国高校駅伝には1度も出場していないが、自信を持って入学してきた。1年目から三大駅伝の出走を本気で目指し、箱根駅伝には強い意欲を示す。
「総合優勝に貢献したいです。入学前にも前田監督に『一緒に初優勝をしよう』と言われましたから。具体的な希望区間はまだないですが、練習から起伏のあるコースを走ってきたので、4区、7区、8区は向いているかもしれません」
秋からの駅伝シーズンに向けて、じっくり足を蓄えていくつもりだ。
1年目から三大駅伝への出走を目標にする浅野
【元来の実力と将来性を兼ね添えた飯國】
都大路にも2度の出場経験のある飯國
注目のニューフェイスは13分台ランナーだけではない。城西大城西高(東京)出身の岡村享一は高校2年時に全国高校駅伝の4区で出走した経験があり、14分05秒47の自己記録を持つ。そして、大学入学後、目を見張る成長を見せているのが、國學院久我山高(東京)で都大路(全国高校駅伝)を2度走った飯國新太。前田監督が浅野とともに高く評価するひとりだ。
「相当なレベルまで来ると思いますよ。このふたりは山本歩夢(4年/5000mで13分34秒85、ハーフマラソンで1時間00分43秒といずれも國學院歴代1位)を超えるくらいになるかもしれません」
飯國は東京都荒川区育ち。中学校入学時にサッカーから陸上に転向し、本格的に長距離に取り組んできた。頭角を現したのは、國學院久我山高校に入ってから。1年生のときに前田監督の目に留まり、声を掛けられたという。1年目から全国高校駅伝の6区で出走し、伊那駅伝では2区で圧巻の24人抜きを披露。当然、箱根駅伝の優勝経験を持つ強豪校からも誘いを受けていたが、3年生を迎える前に選んだのは國學院大だった。
「寮生活、練習面などを総合的に考えての決断でした。世代トップランナーの平林さん、山本さんと一緒に練習して生活したいと思ったのも大きかったです」
高校時代に國學院大の合宿に参加し、平林と同部屋で過ごした時間も忘れられない。ストイックに競技に取り組み、生活面から陸上を中心に考えていたという。
「すべてを懸けている、という気持ちが伝わってきました。自分ももっと頑張らないといけないというモチベーションになり、そういう人と一緒に走りたいなと思ったんです」
入寮から約1カ月。國學院大でレベルの高い練習を積んだ成果はすぐに出た。高校3年時のタイムは14分01秒53だったが、4月7日にいきなり13分56秒21と自己ベストを更新し、同27日には1万mで28分49秒49をマークした。
「高校時代からずっと13分台を出したかったので、やっと出せたという感じです。僕の世代でも13分台はザラにいますので、ようやくスタートラインに立てました。1万mでは同組で一緒に走った先輩たちに負けないことを意識していました。ここでチームトップを取らないと、駅伝は走れないぞって(結果は学内1位でフィニッシュ)。同期も強いですし、危機感は持っています。僕はもっと頑張らないといけません」
主力組の仲間入りを果たしても慢心はない。継続は力なりと自らに言い聞かせ、故障せずに走り続けることが、何よりも成長につながるという。夏合宿を乗り越えた先に三大駅伝の出走も見えてくる。力を入れるのはトラックよりもロード。ハーフマラソンに対応するために走り込み、今冬までには62分前半のタイムを目指す。見据えるのは箱根駅伝。山上りの5区に憧れ、高校時代から起伏のあるコースは得意だった。大学入学も毎週金曜日は、ジョグでアップダウンのあるコースを走っている。
「國學院の課題と言われる『山』を走って、総合優勝に貢献したいです」
13分台ランナーが6人も入学した青山学院大は、強く意識するライバル。飯國は高校時代の持ちタイムで負けていた同世代への対抗心を隠そうとしない。
「高校時代に速くても、大学で必ずしも強くなるとは限りません。ここからどれだけ練習を積めるかどうかで変わってきますから。いずれ勝てると思っています」
同期の浅野とともに「負けたくない」と口をそろえるのが、5000mで日本高校歴代2位の13分28秒78を持つ青学大の折田壮太。浅からぬ因縁があるのだ。昨夏、インターハイ5000mの決勝では、ふたりそろって実力の差を見せつけられた。
「次、勝負する時は戦いにいきます」(飯國)
打倒、青学大へ。令和の箱根を見て育ったルーキーたちも、ふつふつと闘志を燃やしている。
ともに大学での活躍を日ごろから高め合っている
【Profile】
浅野結太(あさの・ゆうた)/2005年11月7日生まれ、茨城県出身。大野中→鹿島学園高(茨城)。高校3年時のインターハイ5000m13位。自己ベストは5000m13分59秒19。
飯國新太(いいぐに・あらた)/2005年9月24日生まれ、東京都出身。南千住二中→國學院久我山高(東京)。高校3年時のインターハイ5000m12位。自己ベストは5000m13分56秒21、1万m28分49秒49。