434分ぶりだった。サンフレッチェ広島と対戦した川崎フロンターレは、この試合の後半29分に逆転する。相手チームからリー…

 434分ぶりだった。サンフレッチェ広島と対戦した川崎フロンターレは、この試合の後半29分に逆転する。相手チームからリードを奪った状況はFC東京戦の試合終了時点が最後。そこから4試合無得点だったこともあり、勝利の権利を手にしたのは久々と言える。

 実際、この試合も先制点を許した。前半を1点のビハインドで折り返しており、追いかける時間が長かった。それを乗り越えて、リードを奪ったのがこの場面である。

 ただし、その時間はわずか1分。加藤陸次樹がすぐさまホームチームの意地を見せたのだ。それでも、逆転した際に感じた高揚感は、選手もサポーターも同じだったはずだ。“この感覚だ”、と。

 川崎にとって、勝利は当たり前のものになっていた。2017年から始まる7つのタイトルは、このチームの勲章だ。「星」の数を伸ばすことは、ここ数年の当然の目標である。

 そのため、昨年から続く不振には慣れていない。その2023年も最後の最後にタイトルを手にしているのは、勝利を求める気持ちが強いからだ。そして、その勝利がもたらすものを知っている。当然、広島戦後にも募るのは悔しさだ。

「勝たせたかった」

 一時逆転となるゴールを決めた山田新は、試合後のミックスゾーンで何かをこらえるような表情でこう口にした。下部組織出身の23歳は、得点しただけでは少しも嬉しそうな表情を見せない。チームが苦しむ中で渇望の気持ちをさらに強くしている。

■鬼木監督の「経験と勘」が訴えたもの

 この試合では、いつも以上に強く感じさせるものがあった。それは気迫と言うべきもので、個々の中にある感情を時間とともに表現していった。前半は苦しい時間も長かったが、選手やポジションを入れ替えながら糸口を探っていった。佐々木旭はCBからSBにポジションを移し、家長昭博もたびたびプレー位置を変えている。ポジションが移ろうとも、組む選手が変わろうとも、前への気持ちを最後まで見せた。

 会見場に座る鬼木達監督に筆者が聞いたのは、その気持ちについて。いつもの気迫がさらに強まっているように見えたが、どんな気持ちでこの試合に挑んだのか。そして、選手の姿をどう感じたのか。

 小林悠のギラギラ感、家長の献身さ、山田を送り出す鬼木監督の力強い握手。他にも候補はあったもののこの3つを例に出して聞くと、指揮官は「このゲームは自分たちにとって非常に大きなゲームだと話して送り出しています」と答え始める。

 そして、「経験なのか勘なのか分かりませんけれども、今日のゲームはチャンスだと思ってました。このゲームでしっかりとチャンスを掴まなきゃいけない、全身全霊で戦って勝点3を取ることで、必ず自分たちが目指している“てっぺん”にたどり着くためのきっかけになるゲームにしたいという思いと、そういうふうにできるんじゃないかと、ここまでの彼らの取り組みを見てそういう話をしました」と続ける。

 さらに、「勝点3まではたどり着かなかったですけれども、それでも次に繋がる闘志や目に見えない部分、そういう数字じゃ表せないようなところ」が見られたとも話す。

 このクラブの全てのタイトルをもたらしてきた指揮官の“経験と勘”は、たしかだ。リードしたわずか1分間ではあったが、間違いなく、このチームにある本来の気持ちをさらに表面に引っ張り出した。だからこそ、誰もが勝ちたいと強く思った。不振の中にあって、先述したような山田新の気持ちはまさにそれだ。

(取材・文/中地拓也)

(後編へ続く)

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