前半のキックオフを告げる笛が響いてから数十秒後。浦和レッズのゲームキャプテン、DFアレクサンダー・ショルツからバックパ…

 前半のキックオフを告げる笛が響いてから数十秒後。浦和レッズのゲームキャプテン、DFアレクサンダー・ショルツからバックパスを受けた守護神の西川周作は、ボールを少しだけ前へ持ち運んだ直後に迷わずに左足を振り抜いた。

 ロングフィードは攻撃には繋がらなかった。しかし、左ウイングの中島翔哉を、名古屋グランパスの最終ラインの裏へ走らせた意図を西川はこう語っている。

「自分から前線の選手に対してのメッセージパスというか、そういったところを前半から見せたなかで、相手が嫌がるところも突けたと思っています」

 開幕3連敗を喫した名古屋は、その後の6試合で5勝1分けとV字回復を果たして埼玉スタジアムに乗り込んできた。マンツーマンでハイプレスを繰り返してくる戦い方に、西川は2月の開幕戦で喫した苦い思いを脳裏に蘇らせていた。

 0-2で完敗したサンフレッチェ広島戦との共通点は何なのか。西川はこう語る。
「マンツーマンで前から来られた開幕戦で、自分たちはボールを繋ぐことに重きを置いて戦い、そこではめられてなかなかうまくいかなかった。広島戦の経験が生きたというか、開幕戦での黒星が決して無駄じゃなかったと思っています」

■偉大な記録を目前に

 開始直後のロングフィードは、名古屋の前への圧力を鈍らせる効果をも生み出す。ビルドアップの起点になってきたショルツや、DFマリウス・ホイブラーテンから意識してバックパスをもらうプレーを増やした西川は、名古屋戦をこう振り返る。

「マンツーマンでのマークなので僕からショルツたちに出すよりも、僕がボールを持って真ん中でのぞきながら見た方が相手も嫌がると思いますし、そこで自分に余裕があれば前に運ぶこともできる。そこの使い分けはうまくできたと思っています」

 偉大な記録達成が近づいてきている。名古屋戦でJ1リーグ戦出場が598試合に到達。歴代1位の672試合の遠藤保仁、同2位の631試合の楢崎正剛に続く600試合の大台へ、順調ならば5月6日の横浜F・マリノス戦で到達する。

「まだまだ上にいますから、まだまだ頑張りたいと思っていますし、ひとつのモチベーションとして、本当にたくさんの方とともに達成できたらいいな、と。達成するだけじゃなくて、やはり勝利でみなさんに喜びを与えたいと思っています」

 さらに名古屋を完封すれば歴代1位をさらに伸ばす通算190試合目となり、出場した試合に占めるクリーンシート率が31.77%に到達。浦和によれば、通算300試合以上に出場したゴールキーパーのなかで歴代1位に浮上していたという。

■西川が知らなかった“偉大な結果”

 試合は70分にFWチアゴ・サンタナのPKでリードを2点に広げた浦和が、名古屋の攻撃を沈黙させたまま5分の後半アディショナルタイムに突入した。

 しかし、92分に左CKからDF三國ケネディエブスが強烈なヘディングシュートを一閃。至近距離から放たれた一撃に、とっさに反応した西川が左手一本でセーブしたが、詰めてきたMF和泉竜司にこぼれ球を押し込まれてしまった。

「そういう情報を自分はわかっているわけではないので、メディアの方がこうして教えてくれることで、僕としても非常にポジティブになれるし、モチベーションも上がってくる。これからも何か面白いデータがあったら教えてほしいですね」

 クリーンシート率の件を「知らなかった」と笑った西川が、何よりも追い求めたのは勝利。キャンプから積み重ねてきた「繋ぐ」という形を、相手と時間帯を含めた状況に合わせてあえて持って捨て去ったからこそ、何がなんでも勝ちたかった。

 西川は失点直後に、荒木友輔主審をセンターサークル付近まで追いかけている。
「失点前のところで、自分たちはコーナーとは思っていなかった。そこの確認というか、ただジャッジされたからには自分たちはしっかり守らないといけなかった」

■4か月での柔軟さ

 名古屋が勢いづきかねない場面で、失点の原因となったセットプレーをしっかりと確認。自身だけでなく味方も落ち着かせて、その後をしっかり封じた。

「勝ったり負けたりが続いていますけど、ここでひとつ勝って前向きに反省もできますし、ポジティブな雰囲気で次の試合に向けて準備していきたい」

 ペア=マティアス・ヘグモ体制になって約4カ月。メンバーと戦い方を臨機応変に変える柔軟さが、白星に繋がった軌跡をポジティブにとらえながら、敵地に乗り込む5月3日の川崎フロンターレ戦で浦和は今シーズン初の連勝を目指す。

(取材・文/藤江直人)

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