7月31日のトレード期限が終了し、プレーオフ進出を目指す上位チームの地区優勝争いはさらに熱を帯びてきました。ロサン…

 7月31日のトレード期限が終了し、プレーオフ進出を目指す上位チームの地区優勝争いはさらに熱を帯びてきました。ロサンゼルス・ドジャースに移籍したダルビッシュ有投手の電撃トレードを筆頭に、今年の夏も派手な獲得合戦が繰り広げられましたが、そのなかでも補強に成功した「勝ち組」と呼べるチームのひとつは、ア・リーグ東地区のニューヨーク・ヤンキースではないでしょうか。



アストロズからブルージェイズに移籍した青木宣親

 なんといっても7月31日のトレード期限ぎりぎりに、オークランド・アスレチックスから先発右腕のソニー・グレイを獲得できたことが大きいと思います。グレイは今夏の即戦力リストのなかで、ダルビッシュ投手と並ぶ最大の注目株でした。

 アスレチックスでの5年間で通算成績は44勝36敗。勝率は決して高くないのですが、近年低迷するアスレチックスにおいてエースとして君臨した27歳の本格派右腕です。グレイの契約は2019年まで残っているので、今シーズンの終わりにFAで他球団に移籍するリスクもありません。来シーズン以降もヤンキースの先発陣を担う存在としても、グレイの補強は大成功だと思います。

 またヤンキースは、7月30日にも先発投手を獲得しました。31歳の技巧派左腕でメジャー在籍9年目のハイメ・ガルシアです。移籍時の通算成績は67勝52敗。2011年のセントルイス・カージナルス時代にはワールドシリーズ制覇も経験しているメキシコ人ピッチャーです。今年のシーズン前半戦はアトランタ・ブレーブスで投げていましたが、7月24日にミネソタ・ツインズにトレードされ、そのわずか6日後にヤンキースにやってきました。

 この夏、なぜヤンキースは先発投手をふたりも獲得したのか。それは、先発陣が苦しい台所事情にあるからです。まずはオールスター直後、先発3番手のマイケル・ピネダが右ひじのじん帯部分断裂と診断され、まさかの今シーズン絶望となってしまいました。

 本来ならピネダの穴は、若手選手の起用で埋めたいところでしょう。しかしながら、23歳のルイス・セベリーノと今年デビューした24歳のジョーダン・モンゴメリーはともに先発経験が浅く、これまで長いイニングを投げていないので、故障を防ぐために投球回数の制限を設けられているのです。

 しかも8月に入り、ベテランのCC・サバシアとエースの田中将大投手が揃って故障者リスト入りしてしまいました。そんな緊急事態となってしまっただけに、新戦力グレイとガルシアの存在はまさにチームにとって渡りに船。ア・リーグ東地区で首位を走るボストン・レッドソックスを追いかけるヤンキースにとって、この補強は大成功だったと言えるでしょう。

 他にもヤンキースは、チームの弱点をカバーし得る補強に成功しています。7月18日にはシカゴ・ホワイトソックスからリリーフ投手のデビッド・ロバートソンとトミー・ケインリー、そして三塁手のトッド・フレイジャーの計3人を一気に手に入れました。

 32歳のロバートソンは、2008年から7年間ヤンキースに在籍した右腕。2014年には「史上最高のクローザー」と呼ばれたマリアノ・リベラの後継者として新守護神を務めていました。また、28歳のケインリーもヤンキースのマイナー出身という経歴を持ち、今シーズンはホワイトソックスで36イニングを投げ、計60奪三振を記録している右の豪腕ピッチャーです。

 今シーズンのヤンキースのリリーフ陣は、昨年と比べて不安定な内容が続いていました。ふたりを獲得した時点で、セーブに失敗した回数はメジャー最多となる18試合。これはすでに昨年のシーズン全体でチームが記録した数字を上回っています。クローザーのアロルディス・チャップマンのコントロールが例年より定まっていないので、彼を支えるべくリリーフ陣の底上げを図ることに成功しました。

 三塁手のフレイジャーは2015年のシンシナティ・レッズ時代、オールスターゲーム前日のホームランダービーで優勝したこともあるパワーヒッターです。昨シーズンはホワイトソックスで自己最多の40本塁打をマークしています。

 フレイジャーの加入により、スイッチヒッターのチェイス・ヘッドリーを三塁から一塁にコンバートすることが可能となりました。今年のヤンキースは一塁手と三塁手の不振に泣いており、その穴を埋められるスラッガーを求めていたのです。フレイジャーはその弱点をカバーするのに最適な存在でしょう。

 一方、ナ・リーグでこの夏の「勝ち組」を挙げるならば、ダルビッシュ投手を獲得した西地区のドジャースはもちろんのこと、中地区のシカゴ・カブスも紹介すべきでしょう。

 シーズン前半戦を終えた時点で、カブスは43勝45敗のナ・リーグ中地区2位。首位のミルウォーキー・ブルワーズに5.5ゲーム差をつけられていました。その最大の原因は、先発投手陣の不調です。

 昨シーズン108年ぶりの世界一に輝いたとき、カブスの先発投手陣はメジャートップの防御率2.96をマークしました。しかし、今シーズン前半戦はナ・リーグ8位の防御率4.66。1点以上も成績が悪化し、あきらかに調子を落としていたのです。

 それを改善するため、カブスはオールスター期間中の7月13日にホワイトソックスから先発左腕のホセ・キンタナを獲得しました。昨シーズンは13勝12敗でオールスターに初選出されたコロンビア出身の28歳左腕です。今シーズン序盤は成績を落としていたものの、6月には5試合の先発で防御率1.78と、徐々に調子を取り戻してきていました。

 キンタナは日本での知名度が低く、どんなピッチャーなのかご存知でない方も多いかと思います。しかしながら、キンタナは2013年から4年続けて200イニング以上を投げ、毎シーズン防御率3点台をキープし、さらには三振の数も毎年180個前後マークしている好投手なのです。アメリカ国内でも過小評価されている先発ピッチャーのひとりではないでしょうか。

 カブスは今シーズン終了後、先発陣の中核を担うジェイク・アリエッタとジョン・ラッキーが揃ってFAの資格を持ちます。そんなチーム事情もあることから、2020年までFAにならないキンタナの獲得は今後を見据える意味でも重要な補強といえます。

 さらにカブスは7月31日のトレード期限終了日に、デトロイト・タイガースからジャスティン・ウィルソンというリリーフ投手と、アレックス・アビラというキャッチャーを獲得しました。

 ウィルソンは今シーズン途中からクローザーとなって13セーブをマークし、42試合に投げて3勝4敗・防御率2.68。9イニングあたり12.3個の三振を奪う左の剛腕ピッチャーです。ウィルソンの加入により、上原浩治投手らを擁するリリーフ陣はさらに磐石な態勢となりました。

 アビラは今年タイガースで77試合に出場し、打率.274・11本塁打・32打点。打てるキャッチャーとして期待されています。カブスで正捕手を務めるウィルソン・コントレラスが8月10日に故障者リスト入りし、最短でも4週間の戦線離脱となるので、控え捕手として加入したアビラはチームで重宝されるでしょう。

 そしてこの夏には、もうひとつ驚くトレードがありました。ヒューストン・アストロズからトロント・ブルージェイズにトレードされた青木宣親選手です。彼についても少し触れたいと思います。

 ア・リーグ中地区で首位を独走するアストロズから、ア・リーグ東地区で最下位のブルージェイズへ。その状況だけを見れば、がっかりした方も多いかもしれません。しかし、このトレードは決して悪い話ばかりではないと思います。

 なぜブルージェイズは青木選手を獲得したのか――。それは、チームとして明確なビジョンがあったからです。

 ブルージェイズの本拠地ロジャースセンターは、メジャーでふたつしかない人工芝の球場です。人工芝は打球が速く走るので、スピードのあるチームが攻撃面では有利となります。そんな本拠地球場の特性を活かすために、ブルージェイズはスピードのあるコンタクトヒッターを求めていました。

 そんなときに夏のトレードで急浮上してきたのが、アストロズでプレーしている青木選手です。彼のようにスピードがあって、かつ打球を転がすのが上手なバッターは、まさに本拠地ロジャースセンターの特性にピッタリ。ブルージェイズはフランシスコ・リリアーノを放出し、青木選手を手に入れました。

 もちろんブルージェイズに移籍しても、外野の選手層が厚いのはアストロズと同じです。ライトは2010年、2011年と2年続けて本塁打王に輝いたホセ・バティスタ、センターにはリーグ屈指の名手ケビン・ミラー。このふたりは外野で不動の存在です。レフトも強打者のスティーブ・ピアースや俊足のエセキエル・カレーラなどポジション争いが激しく、青木選手の出場機会は限られるでしょう。

 ただ、スタメンで起用されることは多くなくとも、アストロズ時代より出場機会は増えそうです。アストロズではスタメンから外されると、その試合はほとんど途中出場の機会はありませんでした。しかし、ブルージェイズではスタメン出場でなくても、試合途中から代打や代走、そして守備固めなどで起用されることが増えると思います。

 また、シーズン後半においてもうひとつ大事なポイントは、ブルージェイズがプレーオフ進出をあきらめた場合です。首脳陣がそういう決断を下したときには、現レギュラー選手を放出する可能性が高いと言われています。もっとも可能性が高いのは、ライトを守るバティスタではないでしょうか。

 トレード期限は終わりましたが、ウェーバーにかけてのトレードはまだ可能です。バティスタがトレードで放出されることになれば、青木選手の出番はさらに増えることでしょう。メジャーはちょっとしたことがキッカケでチャンスが巡ってきます。スピードとコンタクトヒットを武器に、青木選手の新天地での活躍に期待します。