この選手はバネが違う......。今坂幸暉(いまさか・ともき)のウォーミングアップの動きを見ただけで、惚れ惚れとしてしまった。 身長178センチの今坂は大阪学院大高に在籍する、右投左打の遊撃手。全国的な知名度は高くないものの、すでにプロ1…
この選手はバネが違う......。今坂幸暉(いまさか・ともき)のウォーミングアップの動きを見ただけで、惚れ惚れとしてしまった。
身長178センチの今坂は大阪学院大高に在籍する、右投左打の遊撃手。全国的な知名度は高くないものの、すでにプロ12球団のスカウトが注目するドラフト候補である。取材日は練習試合が雨で中止になったものの、複数人体制で視察に訪れていた某球団スカウトもいた。
強肩強打の遊撃手・大阪学院大高の今坂幸暉
photo by Kikuchi Takahiro
【日本人離れした運動能力】
今坂が片足で「ぴょんっ」と弾んでからダッシュする、そのアクションの一つひとつに躍動感がある。まだボールを握る前から、この選手が日本人離れした身体能力を持っていることは十分に伝わってきた。
50メートル走のタイムは手動ストップウォッチでの計測ながら、5秒9。野球以外のスポーツも「人のプレーを見れば、だいたいその動きができます」と、今坂はこともなげに言いきる。体育の授業でバスケットボールをやっても、バスケットボール部員と渡り合ってしまうという。
遠投115メートルの強肩も武器だが、利き腕ではない左手で投げても85メートルを計測する。練習中に打撃投手を務める際には、左腕で投げるシーンも見られた。今坂は「右でも左でも違和感はまったくありません」と語る。小学生の時には投手を務め、イニングごとに右投げと左投げを使い分けたこともあったそうだ。
中学までは山口県下関市で暮らし、野球チームは関門海峡を渡って福岡県の苅田ボーイズでプレーした。当時は強打の三塁手として活躍し、数々の強豪校からスカウトされた。甲子園常連校ではなく、1996年春を最後に甲子園から遠ざかる大阪学院大高を選んだ理由がふるっている。
「レベルの高い大阪で自分の力がどれだけ通用するか確かめてみたかったんです。あとは実家を出て寮生活をしたかったのと、『ショートで使いたい』と声をかけてもらったのも決め手でした」
ところが今坂の入学後、チームは指導者が交代するなど、落ち着かない時期があった。今坂をスカウトしてくれた関係者も学校を去り、今坂は「気持ちが揺らいで、緩んでいた時期もあった」と振り返る。
そんななか、昨春に大阪市立大(現・大阪公立大)で監督を務めた辻盛英一監督が大阪学院大高の監督に就任する。
ロングセラーの著書もあるビジネスマンとして成功している辻盛監督と接するうちに、今坂は大きな影響を受けていく。今坂は「監督と出会って一番伸びたと思うのは人間性」と語る。
「どういうメンタルを持っておくべきか考えるようになって、今までとは行動が変わりました。人とのかかわり方が変わり、人への感謝の思いを持てるようになりました」
今坂は辻盛監督だけでなく、自身を支えてくれるスタッフへの感謝も口にした。
「ウチはやらされる練習ではなく、選手たちが主体的に動くことを追求しているんですけど、どの部門にも相談できるコーチがいるのはありがたいです。打撃なら監督、守備なら福井(耀介)コーチ、動作のことは平田(達也)コーチ、走塁なら福永(聖)コーチ、投球なら玉井(光)コーチ。サポートいただく岸本(泉陽)コーチや臨時コーチの方を含めて、指導者といい意味で距離が近いので、何でも話せる関係性です」
【同世代の遊撃手には負けたくない】
今年の高校生遊撃手は石塚裕惺(花咲徳栄)や森駿太(桐光学園)などのドラフト候補がいる。だが、今坂は「名前はよく聞くんですけど、誰にも負けたくないです」と強気に口にする。
3月時点で高校通算8本塁打と目立った実績はないものの、運動能力にかけて今坂が高校トップクラスなのは間違いない。素材として評価するスカウトも多いはずだ。
そして、もうひとつ。今坂から滲み出る野球への深い愛情も、今後の野球人生を支える大きな武器になるはずだ。
今秋ドラフトの目玉格である宗山塁(明治大)を話題にすると、今坂は目を輝かせて語り始めた。
「宗山さんのプレーをよく動画サイトで見るんですけど、バッティングも守備も立ち居振る舞いも、どれも好きなんです。プレー中は体に力が入ってなくて、見ていてすごいなと感じます。打球に対して足をしっかり運んで、肩も強い。ああいう選手になりたいですね。自分は土のグラウンドだと力んで上体が高くなるクセがあるので、目線を低くして動けるようにしないといけないな、と。宗山さんの土のグラウンドでのプレー動画も見たんですけど、やっぱりうまかったですね。バウンドが合っていなくても、合っているように見せられるというか。ああいう人のプレーを見ると、自分ももっと上を目指せると思えるんです」
強肩強打の捕手・志水那優とともに、高卒でのプロ入りを目指している。これからどんな選手になっていきたいのか。そう聞くと、今坂は淀みない口調でこう答えた。
「ただプロに行くだけじゃなくて、日本を代表する選手になりたいですし、いろんな人から応援される選手になりたいです」
この選手のバネは、もっと高い世界で跳ねるはず。生き生きと語る今坂を見て、そう思わずにはいられなかった。