高校生の打者がプロ野球に進む際、大きな障壁になるのは使用するバットが金属製から木製に変わることだ。 高校時代に何十本も本塁打を放ったスラッガーが、木製バットに変わったとたん飛距離が落ちるケースも珍しくない。 今春からバットの反発係数と直径…
高校生の打者がプロ野球に進む際、大きな障壁になるのは使用するバットが金属製から木製に変わることだ。
高校時代に何十本も本塁打を放ったスラッガーが、木製バットに変わったとたん飛距離が落ちるケースも珍しくない。
今春からバットの反発係数と直径の長さが制限された新基準バットが導入され、高校生打者にとって技術が問われる時代が到来している。
そんななか、4月4日から3日間にわたり侍ジャパンU−18代表候補の強化合宿が実施された。全国各地から選出された39名の代表候補のうち、33名が参加して己の実力をアピールした。
注目すべきは、強化合宿では木製バットを使用する点だ。選りすぐりの精鋭が集結するとあって、合宿が行なわれたグラウンドのバックネット裏にはプロスカウトがずらりと並んだ。
「木製バットに高い適性を示す打者は誰か?」
今回はその視点で強化合宿を見てみることにした。
合宿中3本のサク越えを放つなど、存在感を示した花咲徳栄・石塚裕惺
photo by Kikuchi Takahiro
【異彩を放った花咲徳栄の石塚裕惺】
合宿初日のフリー打撃では、代表の指揮をとる小倉全由(まさよし)監督が「打球が飛ばなくて心配になった」と明かすほど、木製バットに苦戦する打者が続出した。
そんななか、ひときわ異彩を放ったのが石塚裕惺(ゆうせい/花咲徳栄)だ。本人は「(昨年)12月くらいから木製バットを使い始めました」と言うが、レフト方向へ3本もサク越え弾を放った。
しかも、3本とも打撃投手の投球を放り込んでいるところに価値がある。ピッチングマシンのボールはタイミングやバットを入れる軌道のコツをつかめば、打球が飛びやすい。石塚がいかに技術で打球を飛ばしているかが如実に表れていた。
石塚は身長181センチ、体重83キロと均整のとれた体つきの右打者。強打の高校生遊撃手としてトップクラスの注目度を誇っている。この合宿までに積み上げた高校通算本塁打の数は21本だ。
石塚に打球を飛ばすためのポイントを聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「金属バットの時から、木製でも通用する打ち方を心がけています。意識しているのは、上から叩くこと。バットが下から入ると、速球に詰まってしまうので。バットを内から最短距離で出して、ヘッドを返さずに最後まで残して振るイメージです」
運動能力がずば抜けて高いタイプではない。報道陣からアピールポイントを聞かれると、石塚は「一番はバッティング」と答えている。ただし、この選手の最大の魅力はいつも平常心でプレーできる点にあるのかもしれない。下級生時から名門のレギュラーとして活躍してきたが、攻守に高校生とは思えない落ち着きを感じさせてきた。
今回の合宿も力みを感じさせることなく、平然とプレーしているように見えた。そんな印象を伝えると、石塚はこう答えた。
「チームの方から『学校の代表として、いつも通りやってこい』と言われてきました。変に気負うことなく、有意義な時間を過ごせたと思います」
2日目の紅白戦では5打数0安打1四球と結果こそ残せなかったものの、左翼方向へ大ファウルを放って存在感を見せた。2日目が終わった段階で、目についた選手として小倉監督は真っ先に石塚の名前を挙げている。
「昨日(打撃練習)もインコースのボールをバーンと飛ばしていたし、守備も安定していて、肩も強かったです。体もあるし、楽しみですね」
【順応力の高さをアピールした打者】
左打者では、今春センバツにも出場した石見颯真(愛工大名電)の打球も目を引いた。特筆すべきは左方向への鋭いライナー性の快打。打撃練習での打球スピードは白眉だった。石見は「自分はポイントが体に近いので、引っ張るよりセンターから左方向のほうが強い打球がいきます」と語る。
ただし、打撃練習ではミスショットもあり、紅白戦では5打数0安打と不発。本人も不満顔だった。
「芯に当たった時の打球は速いんですけど、まだ木のバットに慣れていなくてミート率が低いと感じます。バットが折れるかもしれない、というところで少しビビっているところもあります」
同じ遊撃手の石塚を見て、「すごいとは聞いていたけど、生で見るとバッティングも守備もどっちもすごかったです」と刺激を受けたという。こうした選手間の切磋琢磨も、合宿の大きな意義になる。
順応力の高さでアピールに成功したのは、湯浅桜翼(おうすけ/仙台育英)と豊島虎児(創志学園)だった。
湯浅は1年秋から仙台育英の中心選手として活躍してきたが、身長168センチ、体重69キロと体格的に目立つ選手ではない。だが、湯浅がいざ打席に入ると、数字以上に大きく見える。打撃練習では全身を連動させ、バットのしなりを利かせて強い打球を連発していた。
湯浅は自身の打撃について、「自分は体が小さくて筋肉も少ないので、全身を使わないと必然的に強い打球が打てないので」と語った。
2日目の紅白戦では5打数3安打4打点1盗塁の大暴れを見せ、小倉監督も「湯浅くんはしぶとかった」と高評価している。
ただし、湯浅本人は「いただいたバットがよかったのだと思います」と、さほど手応えを感じていない様子だった。今回の合宿では1選手あたり2本の木製バットが支給されており、湯浅はさまざまなバットに触れるなかで「弾きがいいな」と感じたバットを選んでいる。
湯浅の口ぶりから、技術的なこだわりがあるというより感覚肌の打者という雰囲気が伝わってきた。本人に率直に聞いてみると、湯浅は「そうです!」と力強く答えた。木製バットへの順応力は、天性なのかもしれない。
豊島は今春のセンバツで4番・二塁手で出場した左打者。ただし、2試合で8打数2安打と飛び抜けたアピールができたわけではない。身長170センチ、体重75キロと体格的にも目を引くタイプではなかった。
ところが、合宿では打撃練習から高い対応力を見せた。自分の間合いに呼び込み、鋭いターンで弾き返す。時にはサク越えホームランも放ってみせた。ツボにはまった際の打撃は森友哉(オリックス)の高校時代が重なって見えた。
豊島はこともなげに言う。
「普段はずっと金属バットを使っていて、木製バットだからといってとくに変えた部分はありません。常にセンターにライナーを打つイメージで、いつもどおりです」
2日目の紅白戦では6打数4安打3打点と、高山裕次郎(健大高崎)と並んで紅白戦での最多安打数をマークした。注目すべきはレフト線からライト線まで、幅広いヒットゾーンに打球を運んでいたことだ。
「2ストライクに追い込まれてからは簡単に三振しないよう、ポイントを近くして打つことを考えています」
木製バットへの高い順応性を示した打者も、対応に苦慮した打者も、まだ発展途上の選手という点には変わりない。彼らが合宿で得た課題を糧に、さらなるレベルアップを遂げることを祈りたい。