スポニチ大会で光った個性派たち〜投手編野手編はこちら>> 社会人投手がプロに進むのは、なかなかハードルが高い。そもそもドラフト対象となる若い年齢で、強豪企業チームの中心投手になること自体が難しいからだ。一戦必勝のトーナメント戦中心の社会人野…

スポニチ大会で光った個性派たち〜投手編

野手編はこちら>>

 社会人投手がプロに進むのは、なかなかハードルが高い。そもそもドラフト対象となる若い年齢で、強豪企業チームの中心投手になること自体が難しいからだ。一戦必勝のトーナメント戦中心の社会人野球では、実戦に強い「勝てる投手」が求められる。いくら潜在能力が高くても、不安定な投手は公式戦で登板機会すら与えられない。


社会人になり球速が5キロアップした日本製鉄鹿島の金城伶於

 photo by Kikuchi Takahiro

【社会人に入ってから球速5キロアップ】

 そんななか、JABA東京スポニチ大会で光って見えたのは、日本製鉄鹿島のスリークオーター右腕・金城伶於(れお)である。金城は予選リーグ第2戦のセガサミー戦で先発登板。5回に自身のバント処理のミスや不運な当たりもあって、4失点で敗戦投手に。だが、4回までは被安打1、無失点とほぼ完璧な投球を見せた。

「5回は自分がやりたかったピッチングができませんでした。ボールのキレ自体はよかったので、緩急で球速差が生まれて(バッターのタイミングを)差せたと思います」

 金城の言葉どおり、ストレートのキレと緩い変化球を生かした緩急は見事だった。球速は常時140キロ台前半でも、ホームベース付近でボールが失速しない好球質。さらにカーブ、スライダー、カットボール、ツーシームを駆使して、100キロ未満から130キロ台まで幅広い球速帯の変化球を駆使した。

 日本製鉄鹿島の中島彰一監督は「遅いボールも使えて、精神面でも成長を感じるので、今年は先発でも活躍してほしい」と、金城に期待している。

 青山学院大から入社して2年目。大学時代は1学年下に常廣羽也斗(広島ドラフト1位)や下村海翔(阪神ドラフト1位)がおり、金城は「ふたりとも抜けていました」と振り返る。分厚い投手層のなかで特徴を出すため、大学でサイドスローに転向。3年秋には5試合に登板するなど、中継ぎでまずまずの成績を残した。

 日本製鉄鹿島では、球威を出すため腕を振る角度を少し高くした。すると、球速は大学時代の最速142キロから最速147キロまで上昇。昨年の日本選手権ではトヨタ自動車を相手にリリーフで好投するなど、存在感を見せている。

 大卒2年目となる今季は、プロ入りへの思いを秘めてマウンドに上がる。

「プロを目指してはいますが、まだ結果を残せていないので。常廣や下村と同じところで投げるには、もっとレベルアップしなきゃいけないなと思います。少しでも近づけるように、上を目指してやっていきます」


今年25歳を迎えるHonda3年目の岡野佑大

 photo by Kikuchi Takahiro

【課題は立ち上がりのピッチング】

 ドラフト会議で指名される選手は、年齢的に大卒2年目がひとつの区切りになる。だが、実際には毎年大卒3年目以上の実力者もプロへ進むケースがあり、即戦力として活躍する「オールドルーキー」も多い。

 スポニチ大会で優勝したHondaには、昨年から中心投手として活躍してきた岡野佑大という右腕がいる。

 帝京大から入社3年目。今年で25歳になるが、投手として順調に階段を上がっているだけにドラフト指名される可能性は十分にある。

 最大の特徴はストレートの球威だ。捕手のミットを破壊しそうなほど、激しい捕球音が球場に鳴り響く。球速以上に強さを感じる、プロレベルの球威の持ち主だ。岡野本人も「ストレートは1年目から徐々によくなってきています」と手応えを深めている。

 それでも、昨秋はプロ球団からの調査書は届かなかった。昨年までHondaのコーチ、今季から監督を務める多幡雄一監督は言う。

「昨年から大車輪で投げてくれましたが、立ち上がりの投球を課題にしていて。昨年の都市対抗でも立ち上がりにボールが暴れてしまって、四球から崩れてしまいました」

 昨夏の都市対抗初戦は象徴的だった。トヨタ自動車との好カードだったが、岡野は2回1/3を投げ、5三振を奪ったものの4失点で早期降板している。岡野は「2アウトを取ってからの投球」をカギに挙げた。

「2アウトを取ってから、3人目への投球を課題にしています。都市対抗では初回に2アウトからフォアボールを出してしまって、あっぷあっぷになってしまいました。視野が狭くなって、練習でやってきたことが出せませんでした」

 投げ合ったトヨタ自動車のエース・嘉陽宗一郎は9回を1失点で完投する、貫禄の投球だった。結果的に大会のMVP(橋戸賞)を受賞することになる大投手の投球を見て、岡野は強く感じるところがあったという。

「再現力が高いなと感じました。ポンポンとストライクが入って、いいピッチャーの理想像だなと。僕にはない要素だと感じました」

 プロへの思いを聞くと、岡野は「あまり考えていないんです」と答えた。それは、決してプロを目指していないという意味ではない。

「目の前の1試合、1試合で結果を残すだけですから。まずは社会人でバリバリ投げないことには、高いレベルで通用しないと感じています。自分自身、まだ伸びしろはあると思っているので、まずはチーム内で技術を持っている福島(由登)さん、東野(龍二)さんたちから学んで、もっと結果を残せるようにしたいですね」

 予選リーグ3戦目・日立製作所戦に先発した岡野は、課題にしていた立ち上がりで粘りの投球を披露。7回まで8奪三振、無失点と好投を見せた。だが、8回の守備中に一塁ベースカバーに入った際、右足首を強くひねるアクシデントで降板。チームは勝利したものの、岡野は試合後に松葉杖姿の痛々しい姿で現れた。今後に向けて、まずは5月下旬から開かれる都市対抗二次予選までに回復できるかがカギになりそうだ。

 7月に開催される都市対抗本戦に向けて、社会人野球は熱を帯びていく。負けられない戦いのなかで、プロスカウトの熱視線を浴びる猛者がきっと現れるはずだ。