スポニチ大会で光った個性派たち〜野手編 2024年のドラフト戦線は大学生が中心になると見られている。侍ジャパントップチームにも招集された宗山塁(明治大)、金丸夢斗(関西大)、西川史礁(青山学院大)らドラフト1位候補がひしめいている。 他方で…

スポニチ大会で光った個性派たち〜野手編

 2024年のドラフト戦線は大学生が中心になると見られている。侍ジャパントップチームにも招集された宗山塁(明治大)、金丸夢斗(関西大)、西川史礁(青山学院大)らドラフト1位候補がひしめいている。

 他方で、これまでプロ即戦力の実力者を輩出してきた社会人は、今のところ目玉格になる選手が見当たらない状況だ。それでも、アマチュア最高峰のカテゴリーだけに、ハイレベルな選手は変わらず存在する。

 そこで、3月に行なわれたJABA東京スポニチ大会で際立った個性を見せたドラフト候補を野手編・投手編に分けて紹介していこう。


左の強打者から走攻守三拍子揃ったマルチプレーヤーへと変貌を遂げた東海理化の福本綺羅

 photo by Kikuchi Takahiro

【来田涼斗に憧れた高校時代】

 まだ肌寒い神宮球場で、春一番のように駆け抜けたのは福本綺羅(東海理化)だった。入社3年目、今年で21歳になる若手外野手だ。

 スポニチ大会の予選リーグ初戦・セガサミー戦では走攻守でインパクトを残した。一時同点へとつながる盗塁を決め、反撃の狼煙(のろし)となるセンターオーバーの三塁打を放ち、中堅守備では大飛球の好捕を連発した。

「体は動いていたと思いますが、バッティングはヒットが1本しか打てなくて、しかも打つまでに3打席かかってしまったので。まだまだだなと感じました」

「綺羅」と書いて、「ひかる」と読む。福本は「1回目から『ひかる』と読めた人はいません」と笑う。話を聞いた翌日には4打数4安打の大暴れを見せている。

 明石商に在学した高校時代から、左投左打の強打者として注目される存在だった。東海理化に入社後も順調にステップを踏み、昨夏の都市対抗では14打数7安打の活躍ぶりで若獅子賞(新人賞に該当)を受賞している。

 春になって、あらためて福本を見て驚いた。明らかに動きのキレがよくなり、足が速くなっていたからだ。そんな印象を伝えると、福本はこう解説した。

「もともと足がないわけではなかったんですけど、長打をめっちゃ打てるわけでもないし、走攻守で輝くことを目標にしたんです。去年の日本選手権では体重が94〜96キロあったんですけど、今は87〜88キロに落としました。動きやすい体になって、今年はオープン戦から塁に出たらすぐ走ることを課題にしてきました」

 高校時代は1学年上の来田涼斗(現・オリックス)に憧れ、メディアから比較もされてきた。だが、打撃優位型の来田に対して、今の福本は走攻守の総合力で勝負するスタイル。ここにきて、ふたりのプレースタイルは明確に分かれてきた。

「来田さんと同じスタイルにしようとは思っていません。自分なりに光れるポイントはあると思うので」

 課題は打撃面だととらえている。「簡単にアウトにならないバッティング」を目指して、福本綺羅はこれからも突き進むつもりだ。


かつては最速145キロを投げるプロ注目の投手だったJR東日本の篠田怜汰

 photo by Kikuchi Takahiro

【かつては最速145キロのプロ注目投手】

 福本と同じく足で目立ったのは、JR東日本の1番打者・篠田怜汰だ。予選リーグ第2戦のENEOS戦では死球で出塁すると、すかさず盗塁に成功。左投手の阿部雄大からマークされ、ベテラン捕手・柏木秀文の完璧な二塁送球をかいくぐって二塁を陥れた。タイブレークまでもつれた延長11回表には、詰まりながらも決勝打となる適時打を放っている。

 試合後、篠田は「あれ(足)しか武器がないので、よかったです」と相好を崩した。

 羽黒高から入社して5年目、3月26日に22歳になった若手外野手だが、野手に転向してまだ3年目と日が浅い。それまでは投手としてプロ注目の存在で、高校2年夏の山形大会で最速145キロをマークするなど、甲子園に出場。高校3年春には高校日本代表候補合宿に招集されている。

 ところが、合宿での篠田の様子は明らかにおかしかった。球速は130キロ程度で、ボールの勢いもなかった。当時、篠田は右肩に不安を覚えていたという。

「高校2年が終わって肩を痛めて、そこからバランスが取れなくなっていました」

 合宿時、同じ東北地方の高校ということもあって、大船渡高の佐々木朗希(現・ロッテ)と行動をともにすることが多かった。そして、篠田は「伝説」を目撃する。

「紅白戦で佐々木が163キロのボールを投げたのは、めちゃくちゃ印象的でした。同じ高校生なのにやばいな、自分も頑張らないとダメだな......と余計に焦ったところもありました」

 だが、JR東日本に入社後も篠田の状況は好転しなかった。ほとんど実績をつくれないまま、2年目を終えた段階で野手に転向した。濵岡武明監督から俊足を評価されていたからだ。

「もともと自分が野手をやるイメージもなかったですし、最初はピッチャーの球筋の見極めや、守備にも全然慣れなくて大変でした。でも、ピッチャーと違って、打って、走って、守ってとやることが多いので面白いです」

 もともとは盗塁も苦手だったが、「とにかく勇気が大事」と積極的にスタートをきるようにした。そして、篠田は自分にしかない武器に気づかされた。

「ピッチャーのクセや動作がよく見えるようになりました。自分もやっていたので、ピッチャーの心理がわかるのは武器だなと思いました」

 佐々木だけでなく、宮城大弥、紅林弘太郎(ともにオリックス)など、5年前の高校日本代表候補合宿でプレーした同期生は早くもプロで鮮烈な輝きを放っている。篠田も「プロを目指してやっていきたい」と、再び同じフィールドに立つことを目指している。

「バッティングも守備もまだまだです。でも、ひとつレベルアップすれば、どんどん上がっていく感覚があるので。まずは出塁率を上げられるように、取り組んでいきます」

 アマ最高峰の社会人野球で頭ひとつ抜けたその時、きっと次の扉が開くはずだ。

投手編に続く>>