無敗で皐月賞を制した馬は、昨年のソールオリエンスでちょうど20頭となった。それぞれの馬にドラマがあるが、そのなかでもトップクラスの期待を背負い、その期待以上に安定した走りで「まずは一冠」を達成したのはアグネスタキオンだろう。  デビュー…

 無敗で皐月賞を制した馬は、昨年のソールオリエンスでちょうど20頭となった。それぞれの馬にドラマがあるが、そのなかでもトップクラスの期待を背負い、その期待以上に安定した走りで「まずは一冠」を達成したのはアグネスタキオンだろう。

 デビュー戦からラストランまで僅かに4カ月余り。そんな短い現役生活を、「超高速の粒子=タキオン」の名の通り猛スピードで駆け抜けた。4戦すべてが強敵に勝ってのものだったが、彼にとって結果的に最後のレース、そして唯一のGI制覇となったのが01年の皐月賞である

 完璧といえるキャリアを引っ提げ、不動の主役として挑む一戦だった。前年12月の新馬(阪神芝2000m)を3馬身半差で圧勝。続くラジオたんぱ杯3歳Sでは、後にGI馬となるジャングルポケット、クロフネを完封して重賞初制覇を果たした。そして年明け初戦の弥生賞は稀に見る不良馬場も何のその、3番手から楽々と抜け出し、2着のボーンキングに5馬身差の大楽勝。この時点で既に1歳上の全兄アグネスフライトを超える器との評価は揺るぎないものとなっていた。

 迎えた皐月賞では単勝1.3倍の圧倒的1番人気に推された。支持率は59.4%。これは51年のトキノミノルの73.3%に次ぐ、歴代2位の数字だった。レースでは馬なりで先団へ。不利さえ受けなければ…という自信があったのか、鞍上の河内洋騎手は早めに馬群の外へ誘導した。そして迎えた直線、しっかりと脚を伸ばし、残り200mで先頭へ。必死に食らいつこうとするダンツフレームとジャングルポケットを寄せ付けることなく、悠々とフィニッシュ。まさに横綱相撲といえる競馬で、史上15頭目の無敗の皐月賞馬となった。

 この勝利で2冠はもちろん、早くも3冠への機運まで高まったが…。5月2日に左前浅屈腱炎を発症して、日本ダービー出走を断念。その後は社台ファームに放牧に出され、復帰を目指したものの、8月29日に引退することが決まった。アグネスタキオンが子供扱いしたジャングルポケットやダンツフレーム、クロフネの後の活躍はご存知の通り。

 そして種牡馬入りしてからは37年ぶりに牝馬として有馬記念を制したダイワスカーレットやダービー馬・ディープスカイといった多くの活躍馬を輩出したことからもアグネスタキオンの能力の高さをうかがわせる。競馬にタラレバは禁物と言われるが、もし無事ならどれだけ走ったのか。そう考えるファンは少なくないはずだ。