プロ野球では右投左打の外野手が飽和状態にあり、アマチュアの右投左打の外野手は結果を残しても評価が上がりにくい状況が続いている。 それでも、結局は実力がものをいう世界。圧倒的な能力があれば、どちらの腕で投げようとどちらの打席に立とうと関係な…

 プロ野球では右投左打の外野手が飽和状態にあり、アマチュアの右投左打の外野手は結果を残しても評価が上がりにくい状況が続いている。

 それでも、結局は実力がものをいう世界。圧倒的な能力があれば、どちらの腕で投げようとどちらの打席に立とうと関係ない。そして、2024年のドラフト戦線で最注目の右投左打の外野手としてピックアップしたいのが、麦谷祐介(富士大)である。


全国大会で無類の勝負強さを見せる富士大・麦谷祐介

 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【全国大会で実力を発揮】

 身長180センチ、体重83キロのたくましい肉体ながら、50メートル走5秒8台(センサー式計測)の快足。強肩強打を兼ね備え、大学1年時から全国大会で存在感を発揮してきた。

 とくに昨年の活躍は鮮烈だった。6月の大学選手権準決勝では、青山学院大の下村海翔(阪神ドラフト1位)から左中間スタンドへ本塁打を叩き込む。さらに11月の明治神宮大会準決勝で、今度は青山学院大の常廣羽也斗(広島ドラフト1位)からレフトスタンドに放り込んだ。

 本塁打を含む2安打2打点と麦谷に打たれた常廣は、驚きを隠さなかった。

「ホームランを打たれた場面は(リードが)2点差になって少し気が抜けていて、ストレートが高めに抜けたんですけど、それを一発で仕留められるのはすごいなと。それ以上に2本目に打たれたライト前(タイムリー安打)にビックリしました。フォークをあれだけ続けたら、東都(大学リーグ)のバッターなら空振りするんですけど、ヒットにされてしまったので」

 強烈なキャラクターも印象的だった。明治神宮大会の試合後、「全国大会に強いですね」と尋ねると、麦谷は不敵に笑ってこう返してきた。

「僕ら地方のリーグなんで、これだけ人が集まることもあまりないので燃えますね。『球場の全員がオレのことを見てるだろ』と思ってプレーしています」

 能力的にも性格的にも明らかにプロ向き。すでに進路を「プロ一本」に定めている麦谷に、大学最終学年にかける思いを聞いた。その得がたい個性は、いかにして形づくられてきたのだろうか。

【有意義だった高校野球引退後の時間】

── 明治神宮大会での「球場の全員がオレを見ている」発言には胸を打たれました。もともとそんな性格なのですか?

麦谷 小学校の運動会でも毎回リレーのアンカーにしてもらって、抜いていくのが好きでした(笑)。スポーツで人に見られるのが好きなので、観客がいるほうが絶対にいいです。仙台出身なのでよく楽天の試合を見に行っていて、「こんななかで野球をやったら楽しいんだろうな」と思っていました。

── 小学生の時には楽天の野球スクールに通っていたそうですが、12球団ジュニアトーナメント(NPB12球団が小学生を対象に選抜チームを結成し、年末に優勝を争う大会)の楽天ジュニアには入っていなかったのですか?

麦谷 楽天ジュニアは落ちました(笑)。中学は楽天シニアで野球をしています。

── 高校は関東の強豪校に入学していますが、1年で転校しています。言えない部分もあるとは思いますが、何があったのでしょうか?

麦谷 部に合わなくて、1年生の年内で中退して知人の紹介を受けて大崎中央(宮城)に転校しました。1年生の頃は体も小さくて(身長175センチ、体重64キロ)、たいした選手ではなかったですし。でも、当時の「見返してやりたい」という悔しさが、大崎中央で頑張る原動力になりました。

── 大崎中央で俊足外野手として注目され、富士大の安田慎太郎監督は打球を捕る麦谷選手をひと目見て、「こいつはプロだ」と直感したそうです。

麦谷 その頃には体も大きくなっていました(身長178センチ、体重72キロ)。でも、僕にとって大きかったのは「大学で野球をやる」と決めてから入学するまでの時間だったと思います。

── 高校野球を引退してから、何をしていたのですか?

麦谷 大崎中央に鈴木光星という親友がいまして、みんなが遊びにいくなか毎回練習を手伝ってもらったんです。ハウスの練習場所でトレーニングしたり、ティーバッティングをしたり。富士大の安田さんにはトレーニング環境の画像を送って、プロテインの指定まで受けて準備していました。1年春から試合に出られたのも、この時間があったからだと思います。

── 鈴木さんに感謝ですね。

麦谷 本当にいいヤツで、今も何かあれば連絡しています。


ドラフト上位指名を目指す富士大・麦谷祐介

 photo by Kikuchi Takahiro

【大学入学後に打撃開眼】

── 今日はインタビュー前に富士大の練習を見ていましたが、厳しいトレーニング中にBGMに合わせて大合唱が始まるなど、明るい雰囲気にびっくりしました。

麦谷 いつもあんな感じです(笑)。僕が富士大に入った頃も先輩がやさしく接してくれて、壁がない環境でありがたかったです。

── 昨秋の段階で、「課題は打撃」と語っていました。それでも、高校時代と比べれば劇的に進化しているのでは?

麦谷 高校では何も考えず、ただバットをぶん回していただけですから。大学に入ってすぐ、先輩の山城響さん(現・JFE東日本)のボールに対してバットを縦に入れるスイングを見て刺激を受けました。安田さんからも「やってみろ」と言われて取り組むようになりました。

── 富士大はボールの軌道に乗せるようにバットを出して、手首を返さずに打ち返す打者が多いですよね。打ち方を変えることへの抵抗はなかったですか?

麦谷 僕はエリートではないし、自分の技術に関して芯のようなものもありませんでした。だから安田さんの教えを素直に聞いて、継続して取り組めたと思います。

── それまでは手首を返して、こねるような打撃が多かったのでしょうか。

麦谷 今もそのクセが出ることがあって、セカンドゴロを打つ時とかよくないですね。いろんな練習用バットを用いながら、自分のスイングを修正しています。

── ティーバッティングや素振りでも、いろんなバットでスイングしていましたね。

麦谷 バレルバット、スピンバット、シークエンスバット、プロベロシティバット......と、いろんなアプローチからスイングを矯正しています。プロベロシティバットは約10万円もするのを安田さんにお願いして買ってもらいました。プロ選手の間でも「10万バット」と呼ばれているらしいです。このバットで練習するようになって、懐が深くなる感覚を覚えています。

── 冬場の取り組みを経て、打撃への手応えはありますか?

麦谷 思い描いている形にはなってきていますが、上には上がいるので。西川史礁(青山学院大)、渡部聖弥(大阪商業大)のようなドラフト上位指名候補と比べるとまだまだだと感じます。もっと上に行きたいですね。

── あのふたりは、やはり違いますか?

麦谷 映像を見ていても、違うなと感じます。そこまで意識はしないですけどね。彼らが上にいすぎて、僕は比べるような選手ではないので。

【日本一にならないといけない】

── 今年はドラフトイヤーでもありますが、自分自身をどのように評価していますか?

麦谷 えぇ、本当に(プロに)行けるんかな? というくらいで(笑)。この3年間で「この人でプロに行けないのか」という現実を見てきていますし、まだまだ力が足りないと感じます。行くからには、ドラフト上位で行きたいです。

── 走塁と守備には自信があるのでは?

麦谷 ある程度はあります。でも、一度レベルの高い選手と一緒にやってみて、確かめたいんですよね。まだ大学日本代表候補合宿に呼ばれたことがないので。

── まずは6月の大学日本代表候補合宿に招集されるところからですね。

麦谷 地方大学リーグにいると、よほど飛び抜けた結果を残さない限り注目されないとわかってきました。でも、自分たちも1年生の頃から練習施設が閉まるギリギリまで練習してきたので。休みの日でも坂本(達也/捕手)と必ず練習場に来て、一緒に練習しています。プロで活躍している同世代の選手を見て、自分もプロに行けたら野球がどれくらい楽しくなるか知りたいと思うんです。厳しい世界とはわかっていますが、今はそれが練習を頑張るモチベーションになっています。

── 今年の富士大は大学日本一を狙える戦力も揃っていますね。

麦谷 個々の能力が高いだけでなく、自分で考えて取り組める本当にいい代なんです。これまで全国大会で涙を流す先輩を見てきて、先輩の分まで日本一にならないといけないという思いも強いです。

── 最後にプロにかける思いをお聞かせください。

麦谷 プロ野球という世界に入ることは小さい頃からの夢でした。今年に入って、「プロに入りたい」という思いがより強くなりました。遊ぶ気にもならないので、今年は野球に執着してやっていきます。

── 野球以外で好きなことはあるのですか?

麦谷 海釣りが好きですね。あとはNetflix (ネットフリックス)で映画を見たり。でも、ドラフトまであと7カ月しかないですし、人生で考えたら短いので。強烈に野球に執着していきたいです。