気温11度。18時の試合開始時からコートを着ても寒いほど冷え込んだ4月3日のベルーナドームで、高卒4年目右腕・山下舜平大(オリックス)が西武戦で今季初登板を迎えた。 約1年前の3月31日、同じ場所で山下はスポットライトを浴びた。一軍初登板…

 気温11度。18時の試合開始時からコートを着ても寒いほど冷え込んだ4月3日のベルーナドームで、高卒4年目右腕・山下舜平大(オリックス)が西武戦で今季初登板を迎えた。

 約1年前の3月31日、同じ場所で山下はスポットライトを浴びた。一軍初登板で開幕投手を務めるのは、オリックスでは1954年の梶本隆夫(阪急)以来69年ぶりの大役だったからだ。

 結局、昨シーズンの山下は16試合に登板して、9勝3敗、防御率1.61という抜群の成績を挙げ、新人王に輝いた。そして今季、山下は前年とは違った意味で注目を集めた。

 オリックスではロサンゼルス・ドジャースに移籍した山本由伸からエースの座を受け継ぐ大器と期待されることに加え、メジャーリーグから「次の逸材」と熱視線を送られているからだ。実際、この日もMLB球団のスカウトが視察に訪れていた。


4月3日の西武戦で今季初登板を果たした山下舜平大だったが、5回2失点で負け投手となった

 photo by Sankei Visual

【山下舜平大から初勝利】

「日本で1、2を争うピッチャーです。球種は少ないですけど、どれも一級品ですからね」

 試合前、西武の嶋重宣打撃コーチは警戒心を示した。昨季は4度対戦して0勝3敗、防御率0.69と完璧に抑えられた。そんな苦手投手相手に、今季はどう挑むのか。

「真っすぐかカーブか、何を狙うのか。しかも真っすぐは嫌な高さに投げてきます。各バッターには真っすぐに得意・不得意があるなか、どの方向に打ちにいくか。そう簡単に前にはじき飛ばせる球じゃないんですよね。そこがやっぱり一番のポイントかな」

 昨今、投手たちにとって真ん中高めの真っすぐは「空振りがとれる球」と認識が広まりつつある。先日、『Web Sportiva』で平良海馬(西武)にインタビューした時もそう話していた。

 嶋コーチも言うように、最速160キロのストレートを誇る山下は高めをうまく使ってくる。しかも、190センチの長身からだ。

「何も考えずに打ちにいったら、(真ん中高めの真っすぐは)手が出ちゃいます」

 外崎修汰も試合前にそう話した。昨季、山下に対して11打数5安打と好相性だった外崎は、打席での心構えをこう明かした。

「高めの真っすぐを打ちにいくとファウルになっちゃうと思います。目線を下げて、振らされないようにしたい。カーブも無視くらいでいいんじゃないですか。来たら、『しゃあない』と割りきったほうがいい」

 昨季の山下の投球割合を見ると、平均球速154.3キロのストレートが58.6%で、同124.2キロのカーブが30.9%。同135.1キロのフォークは10.5%。力強いストレート中心に押してくるというスタイルだ。

 加えて、山下には独自の武器もある。嶋コーチが話す。

「どちらかと言うとショートアームですしね。途中でクイックも入れてきたり、いろんなことをやってくる。あれだけのすごい球を投げながら、すごく工夫してくるのでそんなに簡単に打てるとは思っていないですけど......何とかね。うちも今年はパワーヒッターもいますし、そういうのを期待したいです」

 結果から言えば、山下の今季初登板は6回途中までに99球を投げて被安打2とほぼ打たれなかったものの、与四死球8と制球を乱し、2失点で負け投手になった。

 自滅、あるいはひとり相撲----。

 この日の山下を表せば、そうした言葉になるだろう。だが、その裏では西武が狙いを持った攻撃を仕掛けていた。

【四球を選んだ外崎修汰の狙い】

 立ち上がりの山下は、決して悪くなかった。先頭打者の1番・金子侑司は高めのストレートと低めのカーブで追い込むと、ファウルをはさみ、真ん中低めのボールゾーンに落ちる140キロのフォークで空振り三振に打ちとった。

 つづく2番フランチー・コルデロには2ボール2ストライクから5球目、外角低めに156キロのストレートを投じて見逃し三振。251試合のメジャー経験を誇る左打者は反応できず、「山下はすばらしい球を持っている」と評した。

 試合の分岐点になったのが、次の3番・外崎だった。今季は「左足をそっと着く」というイメージでうまくタイミングをとり、打率.400(4月3日終了時点)と好スタートを切っている。

 初球の外角低めのカーブはボール、2、3球目は155キロ、156キロのストレートが内角高めに続けて外れた。4球目は156キロの内角ストレートを見送った後、5球目は内角高めに156キロのストレートが外れる。

 一度もバットを振らずに一塁へ。山下が無駄な四球を与えた格好だが、外崎は対策を忠実に実行した。

「(ボールをしっかり見ていきたい気持ちは)多少ありましたね。ただ、目つけをしっかりしていたので、手を出しそうなところを我慢できたのがよかったと思います」

 カーブは無視、目つけを下げるという狙いがあったから、内角高めのボール球に手を出さずに済んだ。

 外崎は二死から出塁すると、4番ヘスス・アギラーの2球目で盗塁を成功させる。昨季リーグ3位の26盗塁を記録した外崎は見事なスタートで二塁を陥れたが、チームとしてたしかな狙いがあった。

「いいピッチャーなので、打つだけじゃなくて違うこともいろいろ仕掛けようという話がありました」

 直後、1ボール1ストライクで迎えた3球目、打席のアギラーは真ん中高めの155キロのストレートをライトにはじき返した。

「山下は初対戦だったけど、とてもいい投手だね。逆方向を意識して打ったことで得点することができてよかったよ」

 メジャー10年間で795試合に出場という実績を残る強打者は、来日以来、センターから逆方向中心の柔軟な打撃で評価を高めている。本人の言葉どおり、この打席でも「逆方向を意識」して貴重な先制点をもたらせた。

 その狙いがはまったことに加え、"勝負のあや"がもうひとつあった。メジャーに比べ、日本のストライクゾーンは両サイドと低めを広くとる一方、高めには厳しい傾向があるのだ。昨季西武に在籍したデビッド・マキノン(現在は韓国のサムスンに所属)もそう話していた。

 加えて、アギラーは190センチの長身だ。真ん中高めと言っても、山下の投じた結果球は高さ的にやや甘かった。さらに言えば、"フライボール革命"への対策としてメジャーでは真ん中高めを効果的に使う配球が増え、アギラーにとって"慣れた球"だった。

【やっぱりカーブはすごい】

 以上の伏線や個々の技能が先制点につながり、リズムを崩した山下は2回以降も立て直すことができなかった。ヒットはわずか2本に抑えた一方、ストライクゾーンへ思うように投げられずに与四死球8。試合序盤からフォークはたたきつけることが多く、使えなくなってストレートとカーブの2球種で組み立てた。

 結果、ひとり相撲となって西武戦で初黒星。昨季の開幕戦や以降のシーズンで残した鮮烈な内容とはほど遠かったが、それでも5回2失点、被安打2に西武打線を抑えたのは、あらためて高いポテンシャルを示したとも言える。

 実際、西武の打者もそうした印象を話した。5回、先頭打者でチーム2本目のヒットをレフト前に放ったのが9番・源田壮亮だ。外角への154キロのストレートが2球続いて追い込まれたあと、3球目は153キロのストレートが真ん中低めに来たところを対応した。

「やっぱりカーブはすごい。フォークもすごく落ちますし。追い込まれていたので変化球を頭に入れながら、真っすぐに遅れて勝手にあっち(レフト)にいった感じです」

 一方、山下に対して2打数無安打1四球に終わった外崎はこう振り返った。

「今日は調子が悪そうだなという感じでした。フォークを叩きつけていたし。でも真っすぐとカーブは、いい球種を持っているなと。あれだけ悪くても、(6回途中で)三振を5個もとれるのはいいピッチャー。(コースや高さが)いいところでバットに当てさせない投球をできるのは、ピッチャーとして強いなというイメージは感じましたね。2打席目のライトフライはしょうがない。インハイ、山下舜平大の強いボールにもしっかり(バットを出すタイミングが)間に合ったと、いいほうにとらえています」

 山下の今季初登板は期待に反する投球内容となったが、その裏には昨季完璧にやられた西武の対策もあった。外崎がフライアウトを「いいほうにとらえている」と言ったほど、山下はリーグ最上級の投手とインプットされている。

 同時に、投げるたびにデータも集まっているのは事実だ。今後も相手が高い警戒心で臨んでくるのは間違いない。

 対して、山下はどう向かっていくのだろうか。まだ始まったばかりの2024年シーズン。次こそ、本領発揮の山下と相手打線の真っ向勝負を楽しみにしたい。