ダブル世界タイトルマッチが3月31日、名古屋国際会議場イベントホールの「3150FIGHT vol.8」で行われ、IBFミニマム級王者の重岡銀次朗(ワタナベ)が2回KO勝ちで2度目の防衛に成功、WBC同級チャンピオンの重岡優大(ワタナベ)…

 ダブル世界タイトルマッチが3月31日、名古屋国際会議場イベントホールの「3150FIGHT vol.8」で行われ、IBFミニマム級王者の重岡銀次朗(ワタナベ)が2回KO勝ちで2度目の防衛に成功、WBC同級チャンピオンの重岡優大(ワタナベ)が王座陥落と、兄弟世界チャンピオンの明暗は分かれた。“最強兄弟”はなぜ真逆の現実を突きつけられたのか。そして今後、2人はどのような道を歩んでいくのだろうか――。

【映像】無敗の弟・銀次朗は2ラウンド衝撃KO勝利

 昨年4月、兄弟で同じ日に世界暫定王座獲得という偉業を成し遂げ、歓喜にひたった“最強兄弟”が1年後、このような日を迎えると、だれが予想できただろうか。しかし、熊本出身の2人に縁のない名古屋の地で起きた出来事は、たとえ目にしたくなくとも、動かしようのない現実だった。

 試合後、薄暗い通路に設けられた取材スペースに現われた優大は「あんなに試合で(パンチをもらって)効いたのは初めて。気を切らさず、あきらめず……」と話し始めると、先に防衛をはたした銀次朗に肩を叩かれて号泣。大勢に取材陣が固唾をのんで見守る中、「クソッ! もっと強くなる。ダセー、ダサすぎる」と感情をあらわにした。

 初回の攻防がこの日の試合を象徴していた。優大は慎重に立ち上がったかに見えた。挑戦者のメルビン・ジェルサエムは昨年1月、重岡兄弟のジムの先輩である谷口将隆から王座を奪った元チャンピオンだ。優大は谷口を倒したジェルサエムの右ストレートを何より警戒していた。

ところが優大はジェルサエムの伸びのある右ストレートをボディに浴びる。大勢に影響はないようにも見えた一撃だったが、これが思いのほか効いてしまい、優大はたちまち後退。畳みかけられて防戦一方というピンチをいきなり迎えてしまった。「相手を勢いづかせてしまった。あれが敗因」と優大が振り返る痛恨のシーンだ。

 その後も優大はジェルサエムの右に手を焼き、3回、6回には右カウンターを顔面に食らってダウンを喫する苦しい展開だ。後半は持ち味の荒っぽさ、パワーパンチでジェルサエムに迫り、追い上げを見せたが、わずかに及ばず2-1判定負け。スコアは114-112、114-112でジェルサエム、114-113で優大だった。

終盤はジェルサエムにも疲れが見え、ジャッジの判断によってはドロー防衛という結果もあり得た。ただ、優大はそういった見方を一切拒み、「はっきりオレの負け。完全にオレが支配されていた。(仮に判定で勝ったとしても)オレは勝ったとは思わない」と自らの完敗を主張した。

 先に登場した銀次朗はパーフェクトと呼べる試合内容を披露し、結果的に優大敗北のショックを際立たせたのは皮肉だった。

 銀次朗は当初、ランキング9位のアルアル・アンダレス(フィリピン)と防衛戦を行う予定だった。ところがアンダレスが体調不良により1週間前に試合をキャンセル。新たに抜擢されたジェイク・アンパロ(フィリピン)はピンチヒッターとはいえ、ランキングはアンダレスを上回る6位。決して侮ることのできない相手であり、急な対戦相手変更で銀次朗の準備不足も心配された。

 実際のところ、試合が始まると銀次朗は即座に「右ジャブにいきなり右を合わせてきた。リターンが早かった。思った以上にパンチもあった」とアンパロの実力を感じ取った。だからこそ雑になることなく、冷静さをキープすることができた。その結果が2回のフィニッシュだ。ジャブで目先をずらし、鋭い踏み込みからウエートの乗った左ボディブローを突き上げると、これがアンパロのレバーを無慈悲にえぐった。ワンテンポ遅れてうずくまったフィリピン人は立ち上がれずに10カウントを聞いた。KOタイムは2回1分15秒だった。

 先にリングに上がる銀次朗が勝利し、後に登場する優大にバトンをつなぐ。これが重岡兄弟の勝利の方程式だ。「勝って兄ちゃんのセコンドにつく」は弟のモチベーションにもなっていた。この日もバトンをつなぐまではいつも通りだったが、兄の結果が伴わなかった。優大は「銀に申し訳ない……」と言葉を絞り出した。

 重岡兄弟は幼少のころから父親の厳しい指導を受け、トレーニングに明け暮れる毎日を送った。その甲斐あってともにアマチュアで結果を出し、プロに入っても無敗街道を歩んで来た。苦しいときも、うれしいときも、いつも一緒だった兄が味わう久々の敗北。優大のうなだれる姿を目にした銀次朗はしみじみと語った。

「プロの怖さを今日の自分の試合でも感じたし、兄ちゃんの試合でも感じた。自分だって本当にいつ負けてもおかしくないと思う。ジェルサエムとやっていたらオレも倒される可能性がある。たまたま今日は(負けたのが)兄ちゃんだったと思う」

 銀次朗はアマチュアで56勝1敗、プロで11勝1無効試合。アマチュアでの1敗は高校時代に優大と対戦したときのもので、試合開始と同時に棄権の意思表示をしたもの。つまり実質はアマ、プロを通じて無敗だ。その「負け知らずの男」銀次朗が勝利と敗北は紙一重であると身をもって感じたのが、今回のダブル防衛戦だったのである。

 失意の優大は今後を問われ、「考えられない。まだ分からないです」と首を振った。プロ初黒星のショックを考えれば当然だろう。優大が引き上げたあと、一人で報道陣の前に現われた銀次朗が代わってこう話した。

「今日、オレは全然喜べない。兄ちゃんと一緒にはい上がりたい。オレも兄ちゃんもまだまだ課題だらけなんで」

 26歳の優大、24歳の銀次朗。弟の言葉通り、2人はまだ完成されたボクサーではないし、成長の伸びしろはいくらでもあるはずだ。挫折を乗り越え、さらにたくましくなっていく“最強兄弟”の新たなストーリーに期待したい。