「長年スカウトをやっているけど、ワクワク感がなかった。対象選手が少ないというのが一番だけど、選手個々の迫力が足りなかった」 あるスカウトがそう嘆いたが、話を聞いたスカウト全員が同じような感想を漏らした。低反発の新基準バットとなり、打球は飛ば…

「長年スカウトをやっているけど、ワクワク感がなかった。対象選手が少ないというのが一番だけど、選手個々の迫力が足りなかった」

 あるスカウトがそう嘆いたが、話を聞いたスカウト全員が同じような感想を漏らした。低反発の新基準バットとなり、打球は飛ばない。おまけに3月21日には雪が降るなど、例年以上に冷え込みが厳しく、投手はポケットに入れたカイロで指先を温めながら投球するという力が出しづらい状況......。選手たちには気の毒な条件が揃ってしまった。


決勝で健大高崎に敗れたが、149キロをマークするなど存在を示した報徳学園の今朝丸裕喜

 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【高評価だった近畿勢の投手ふたり】

 そんななか、一定の評価を得たのは近畿勢の投手ふたり。大阪桐蔭の平嶋桂知(かいち)と報徳学園の今朝丸裕喜(けさまる・ゆうき)だ。

 平嶋は初戦の北海戦で149キロをマーク。スライダー、ツーシームに加え、130キロ台中盤のフォークを交えて7回を4安打、1失点(自責点0)、7奪三振、無四球の好投を見せた。

「上背があるし(186センチ)、角度があって腕が振れる。変化球の精度もよく、空振りが取れていた。もう少し体がゴツくなったら面白いんじゃないかな」(パ・リーグスカウトA氏)

「真っすぐが150キロ近く出て、135キロのフォークがあれば、高校生はそう打てない。あれだけ投げられるなら、指名があるのでは」(セ・リーグスカウトB氏)

「秋の神宮大会で打たれたイメージがあったので、よくなっているなという印象ですね。力が入ると(ボールに)ばらつきが出ますけど、対角線のボールがいい。フォークも投げられますし、球自体はいいですね」(パ・リーグスカウトC氏)

「球速だけで上位候補と言う人もいますが、それは疑問です。フォームは悪くないし、アベレージで145キロ出ている。スライダーもフォークもいい。それだけ揃っているのに、打者が嫌がっていないのが気になりました。あれだけの球があれば真っすぐ3球で三振をとってほしい。スライダーやフォークに頼らないといけないのが現状ですからね」(セ・リーグスカウトD氏)

 その平嶋と投げ合い、5安打1失点で完投勝利をマークしたのが今朝丸。初戦の愛工大名電戦では148キロを記録した。

「素材としてはナンバーワンでしょう。体重はまだ74キロと細いけど、身長は188センチあるので体ができれば面白い。今年のセンバツに出た投手のなかでは、将来的に一番お金を稼げる投手かもしれません」(パ・リーグスカウトA氏)

「手足は長いけど、コンパクトに使えるところがいい。フォームにクセがないし、制球力もある。球速もアベレージで142キロ出ていますし、将来的に大化けする可能性があります」(パ・リーグスカウトC氏)

「上背があるし、腕の振りが柔らかい。体が強くなれば、球質はもっとよくなるでしょう。夏までに伸びれば上位候補になります」(セ・リーグスカウトD氏)

【評価が分かれた広陵・髙尾響】

 大会前はナンバーワン投手と言われていた作新学院・小川哲平は、最速145キロをマークするなど片鱗は見せたものの、神村学園に5回5安打、6四死球、4失点で初戦敗退に終わった。

「この試合しか見ていない人の評価は低いと思いますが、担当スカウトの評価は落ちていません。こんなものじゃないのはみんなわかっていますから。まぁ、大舞台でどうかという話にはなりますけど......」(セ・リーグスカウトB氏)

「高校1年生の時にブルペンで見た時はえげつなかった。あれを見ればほしくなりますよ。今回のセンバツはよくなかったですけど、『悪い時はこうだよね』という感じです」(パ・リーグスカウトC氏)

「彼のよさは内外を間違えない制球力と、決め球の変化球が浮かないこと。184センチ、96キロと大型投手ですが、きっちり投げ分けができてまとまっています」(セ・リーグスカウトD氏)

 1年春から広陵の背番号1を背負う髙尾響は、昨年春のセンバツで4強。実戦派として前評判が高かった。今大会は初戦の高知戦で11三振を奪って1失点完投勝利を挙げたが、2回戦の青森山田戦で7回まで無安打に抑えながら8回以降に6失点してサヨナラ負け。評価も分かれた。

「これぞピッチャー。個人的には大会ナンバーワンですね。リリースの強さがあるし、ベース上の強さがある球を投げる。内外の出し入れもできる。指先の感覚もよさそうだし、楽しみですね」(パ・リーグスカウトA氏)

「身長が低く(172センチ)、球速が出ても角度がない。このタイプの投手は高卒即プロというより、大学や社会人を経由してからのほうがいいかなと思います」(セ・リーグスカウトD氏)

 左腕では、1年夏から甲子園のマウンドを経験している八戸学院光星の洗平比呂が注目されていたが、初戦の関東一戦、星稜戦ともにインパクトを残せなかった。

「テイクバックにクセがあるのでどうかなと思っていましたが、想像よりよかった。(スカウト計測のスピードガンで)最速146キロ、アベレージで140キロ出ていました。ただ、変化球の時に腕が緩むのが課題。変化球でカウントを取れれば高校生なら抑えられるでしょうが、プロとなるとどうか」(セ・リーグスカウトB氏)

「変化球はこれといっていいボールはなかったですが、対角線のストレートはすばらしい。腕の振りがやわらかく、球速表示以上にピュッと来る感じはあります。いい時と悪い時の差が激しいとか立ち上がりが悪いとか課題は多いですが、今年は左腕のドラフト候補が少ないですし、球団によっては高く評価するところもあると思います」(パ・リーグスカウトC氏)

 同じく八戸学院光星の左腕・岡本琉奨(るい)も140キロを超すストレートでリストに挙がるが、「決め球がなく、ただ腕を振っておりゃーという感じ。焦らず大学経由で」(セ・リーグスカウトD氏)という声が多かった。

 前評判の高かった投手が今ひとつだった一方、甲子園で評価を上げたのが阿南光の吉岡暖。最速143キロをマークした速球にフォークと縦のスライダーを織り交ぜ、初戦の豊川戦で11個、2回戦の熊本国府戦で14個と2試合連続2ケタ奪三振をマークした。

「変なクセもないですし、変化球、とくに縦のスライダーがいい。球がもう少し速く、強くなったら面白い。出てくるまでに時間はかかるかもしれませんが、4、5年後が楽しみな投手ですね」(パ・リーグスカウトA氏)

「個人的には富島高校時代の日髙暖己(現・広島)を思い出しました。トップをつくるのがうまく、フォームがまとまっているのでコントロールで苦しむようなことはないでしょう。身長も182センチあるし、フォークと縦のスライダーもいい」(セ・リーグスカウトB氏)

 このほかには「球質がいい。低めに角度のある球がいっている」(セ・リーグスカウトB氏)と愛工大名電の伊東尚輝、「低めのまっすぐの質がいい。股関節の使い方がよく伸びる可能性がある」(パ・リーグスカウトA氏)と関東一の坂井遼、「真上から投げ下ろせるし、ポテンシャルはある。体のキレが出れば」(パ・リーグスカウトC氏)と高知・平悠真の名前が挙がった。


阿南光戦で本塁打を放った豊川のモイセエフ・ニキータ

 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【打者で高評価だった選手は?】

「いない、いない」と言いながらも、スカウト陣からはそれなりに投手の名前は出た。ところが、打者に目を向けると途端にスカウトたちの口が重くなった。そんななかで、真っ先に名前が挙がったのが、新基準バット初本塁打を記録した豊川のモイセエフ・ニキータだ。

「バットは振れる。パンチ力もある。速い球に対応できている。変化球の待ち方もよく、タイミングの取り方もうまい。甲子園では3三振しましたけど、普段はほとんど三振を見ることがない。うしろが小さく前が大きいスイングなので、木製バットにも対応できるでしょう」(パ・リーグスカウトA氏)

「自分から仕掛けていけるのがいい。背筋が強いから打球が飛ぶし、ツボを持っている。木製バットでも打てるスイングをしています。左打者なら高校生上位5人に入るでしょう」(セ・リーグスカウトB氏)

 一方で、「左投げ左打ちの外野手。足と肩は普通なので、相当打たないと......」(セ・リーグスカウトD氏)という声も聞かれた。

 同じ外野手で高評価だったのが、神村学園戦でランニングホームランを放った大阪桐蔭の境亮陽(りょうや)。中学3年時に100メートル11秒06をマークし、陸上のジュニアオリンピックに出場した俊足、投手としても最速146キロを投げる強肩を持っている。

「足と肩があるのが魅力。多少打てなくても、足と肩があれば守備固めや代走で出場機会を得られますから。打撃では上からきれいにバットを出して引っ張った場面があった。『そんなこともできるの』と驚きました」(パ・リーグスカウトC氏)

 このふたり以外に指名濃厚と言われているのが、センバツ優勝を飾った健大高崎の捕手・箱山遥人。4番として準々決勝の山梨学院戦ではレフトフェンス直撃の二塁打を放ったが、打撃よりも守備の評価が高い。

「去年見た時の印象がすごかった。セカンドスローでワンバウンドと思った球がノーバウンドで届いたんですよ。私以外のスカウトもそう思ったみたいで、スカウト席に『お〜っ』というどよめきが起きました」(セ・リーグスカウトB氏)

「ヘッドが効いて、いいバッティングをします。成長が楽しみですね」(パ・リーグスカウトC氏)

 このほかには、大阪桐蔭のラマル・ギービン・ラタナヤケに「守備が課題だけど、振る力は高校生とは思えないものを持っている」(セ・リーグスカウトD氏)、愛工大名電の石見颯真に「内野手としては厳しいけど、打撃はスイングスピードがあって、ボールを長く見ることができる。打率は残せる角中勝也(ロッテ)タイプ」(パ・リーグスカウトA氏)、中央学院・颯佐心汰(さっさ・ここた)に「身体能力はすごい。遠投120メートル投げるんじゃないかというぐらい肩が強い」(パ・リーグスカウトC氏)、阿南光・福田修盛に「足と肩がある。スイングもできている」(セ・リーグスカウトB氏)という声が挙がった。

 この春のセンバツは厳しい評価となったが、暖かくなり、新基準バットにも慣れてきた夏には、一段上のパフォーマンスが出るはず。夏の大会ではスカウト陣を驚かせる選手が出てくることを期待したい。