(25日、第96回選抜高校野球大会1回戦 常総学院1-0日本航空石川) 日本航空石川との1回戦を1―0で制し、27日の2回戦(対報徳学園=兵庫)に挑む常総学院(茨城)。1回戦の九回に奪った遊ゴロ併殺は、監督の予想をも超えたワンプレーだった。…

(25日、第96回選抜高校野球大会1回戦 常総学院1-0日本航空石川)

 日本航空石川との1回戦を1―0で制し、27日の2回戦(対報徳学園=兵庫)に挑む常総学院(茨城)。1回戦の九回に奪った遊ゴロ併殺は、監督の予想をも超えたワンプレーだった。

 1―0でリードして迎えた、常総学院の九回裏の守備。1死一、三塁の同点のピンチが訪れた。

 内野手は塁間を結んだ線の少し手前に位置し、弱い打球なら本塁でアウトを、強い打球なら併殺を狙う「中間守備」のシフトを敷いていた。

 日本航空石川の右打者、河田拓斗が初球のスライダーを引っかけた打球は遊撃手への弱いゴロとなった。

 常総学院の遊撃手、若林佑真は前に突っ込んできた。シフトの想定通りなら、本塁でのアウトを狙う打球だ。

 だが、ゴロを捕った若林は、体の向きを素早く切り返して二塁に送球。カバーに入った二塁手から一塁への送球が、頭から滑り込んだ河田よりわずかに早く到達し、「6―4―3」の併殺が完成した。

 ゲームセット。試合後、若林はこのプレーを冷静に振り返った。

 「あの守備位置で打球が弱かったら、バックホームの指示だったんですけど。(右側の)視界で三塁走者のスタートが早くて『やばい』と思って、自分の判断で」

 「1点も取られないようにするにはゲッツーしかなかったので、一か八かを狙いました」

 仮に本塁に送球してセーフになっていれば、同点となり、さらにサヨナラ負けのピンチを迎えてしまうところだった。

 試合後、島田直也監督からは「本塁(に投げる)かと思った。よく(二塁に)いったな」と声を掛けられたという。

 日々、走者をつけてのノックで判断力を磨いているという若林は「いつも通りの良いプレーができた」と胸を張った。

 このプレーの背景にあるのは、普段の練習だけではない。昨夏の悔しい思い出だ。

 茨城大会4回戦。春の関東大会で4強入りし、夏の甲子園出場の有力候補に挙げられていた常総学院は、県内有数の進学校・茨城に3―5で敗れた。

 この試合でも遊撃手として先発していた若林は、失策を犯した。「相手の応援がすごくて……。1本ヒットが出ただけで(球場が)沸くので、のみ込まれてしまった」

 常総学院は茨城勢最多、春夏通じて甲子園出場27回を誇る、いわば県内の「横綱」だ。劣勢になると球場のボルテージが上がるというのも、強豪校ゆえの宿命なのだろう。

 苦い記憶を刻んだ若林は、新チームで主将となり、チームに「平常心」の大切さを説いてきた。

 1回戦の相手、日本航空石川は元日の能登半島地震で大きな被害を受けた。被災地からの出場ということもあり、九回のピンチでは相手への声援で甲子園がこの日一番の熱気を帯びていた。

 「もう二度とあんなことにはなりたくないので。甲子園の応援はある程度承知しながら戦っていた」と若林。相手の押せ押せムードに浮足立つことなく、冷静に最善手を選択した。

 今大会から低反発バットが導入され、ロースコアの接戦が多くなっている。

 紙一重の状況で、正しい判断ができるかどうか。報徳学園との2回戦も、1点を争う好ゲームが予想される。(安藤仙一朗)