『ツーオンアイス』逸茂エルク×高橋成美 対談 後編(全2回)いよいよフィギュアスケートの世界選手権が始まる。そこで、「週刊少年ジャンプ」連載中のフィギュアスケート漫画『ツーオンアイス』作者・逸茂エルクさんと監修を務める高橋成美さんが対談。後…

『ツーオンアイス』逸茂エルク×高橋成美 対談 後編(全2回)

いよいよフィギュアスケートの世界選手権が始まる。そこで、「週刊少年ジャンプ」連載中のフィギュアスケート漫画『ツーオンアイス』作者・逸茂エルクさんと監修を務める高橋成美さんが対談。後編では、ペア競技の魅力や世界選手権の見どころを中心に語り合ってもらった。



逸茂エルクさん作の『ツーオンアイス』は高橋成美さんが監修を担当している

【りくりゅうの優しい世界観が素敵】

ーー現在、日本には3組のペアがいます。それぞれの魅力について聞かせてください。

逸茂エルク(以下、逸茂) レジェンドの高橋さんの前で感想を言っていいものかという気持ちはあるんですけど(笑)。今季は、「ゆなすみ」(長岡柚奈&森口澄士)と、「さえルカ」(清水咲衣&本田ルーカス剛史)がデビューシーズンで、短い期間でちょっとずつ成長していますよね。

「ゆなすみ」は、森口選手がペア経験者なので、頼れるパートナーというか。長岡選手が「絶対に受け止めてくれるから怖くない」というようなことを話していて。頼もしい選手にみるみるなっているなと感じながら見ています。

「さえルカ」について、本田選手はシングルラストの試合として挑んだ今季の全日本選手権は本当にすばらしい演技だったなと思っています。ふたりともシングルとしての地のうまさというか、「サイドバイサイド」(※ふたりが隣り合った位置で同じ技を行なうこと)の滑りの無理のなさみたいなものは素人ながらにすごく感じました。(『ツーオンアイス』主人公の)「きさはゆ」(早乙女綺更&峰越隼馬)の現在地に比較的近いところがあるので、「こういうふうに成長していくんだな」というのを実感させてもらっています。

「りくりゅう」(三浦璃来&木原龍一)は、今季は王者として迎えるシーズン。ケガもあって試合に出られない時期もありましたが、自分たちのペースでしっかりと世界選手権に向けてピークを持っていけるようにしているんだなと、四大陸選手権の記事を見て感じました。あと、初めて生で見た時にすごく思ったのが、他のペアに比べて笑顔が多いんですよね。試合だけでなく練習を見ていても笑顔で、見ているこっちまで幸せな気持ちになるんです。本当に応援したくなるというか、ふたりの優しい世界がいつも広がっているので、素敵なペアだなと思っています。

高橋成美(以下、高橋) 私もほとんど一緒の印象です(笑)。「りくりゅう」ペアに関しては、今季前半をしっかり休むという決断をするあたり、先を見据えているんだなと感じました。次の五輪で絶対優勝するんだという強い気持ちが感じられますし、ブルーノ(・マルコット)コーチとのいいチームワークだったり、信頼関係があってこその決断だったんだろうなというのもあって、より頼もしく感じました。

「ゆなすみ」も、先生がおっしゃったように信じられないほど成長が著しくて! けれども、やっぱりまだまだ実力不足なところもあって世界選手権に出場するためのミニマムポイントがとれていないんですが、本当にあと少しだったので焦らずに頑張ってほしいと思います。「さえルカ」は、唯一のジュニアチームですが、すごくのびのびとやっていると感じています。ゴールもまだまだ先にあるし、咲衣ちゃんはシングルとの二刀流でやっていたり、余裕を持ちながら楽しくペアに向き合えているな、と。応援しています。

【日本の武器はサイドバイサイド】

ーー日本ペアの強みは?

高橋 技術的にはやっぱり「サイドバイサイド」のジャンプが日本ペアの武器になるんじゃないかなって。これから日本ペアのカラーになってくると思います。「りくりゅう」ペアから始まり、「ゆなすみ」も「さえルカ」もジャンプが強くて。ペア技って時間をかければかけるほど確実に上達していくんですけど、「サイドバイサイド」はそういうわけにはいかない。だから、今の日本のペアはポテンシャルが高いんです。これからどんどん確実に順位を上げてくる。

「さえルカ」はジャンプが圧倒的に強くて、ルーカスが意外とペアボーイとして魅せるスケートができている。すごく表現力が豊かな若いペアだなって思います。「ゆなすみ」はやっぱり澄士くんの安定感。それを信頼しているから柚奈ちゃんも思いきっていける。「りくりゅう」がペアを組み始めた頃を彷彿とさせるような勢いを持っているし、インタビューでもお互い似たようなコメントをしていてコミュニケーションもとれているのかなって見ています。

「りくりゅう」ペアは他の世界のペアと比べても一体感のレベルが違う! 圧倒的にふたりでひとつというか、バラバラなところを見つけるのが難しいくらい。あと、スピードがすごく速い! スピードがあるなかでの技はすごく難しいし危険も伴うんですけど、それを安全にやってのけるのは普段からしっかり練習できているから。もちろん笑顔は、私も感じています。



ペア競技の魅力を語った高橋さん 写真/事務所提供

ーー海外の選手で注目しているペアはいますか?

逸茂 イタリアのサラ・コンティ&ニッコロ・マチーが印象に残っています。すごく優しくソフトなイメージで。また生で見たいなと思っています。

高橋 イタリアは彼らの他にも1組強いペアがいて、切磋琢磨してうまくなっていますよね。私はやっぱり四大陸選手権で優勝した、カナダのディアナ・ステラート・デュデク&マキシム・デシャンですね。彼らは今季、「りくりゅう」が休養前に出場したオータムクラシックや今年2月の四大陸選手権でも優勝していています。世界選手権では一番のライバルになるんじゃないかなと思っています。あと、今季世界ジュニアで優勝したジョージアのアナスタシア・メテルキナ&ルカ・ベルラワはシニアの世界選手権にも出るんですけど、勢いに乗っていい成績が出るんじゃないかなと注目しています。

【6分間練習とキス&クライも必見】

ーーペア観戦の楽しみ方として、どういうところに注目していますか?

逸茂 現地で実際に見ている時は、直前の6分間練習から注目しています。ふたりでコミュニケーションをとりながら練習しているペアもいれば、ずっとひとりで滑っているペアもいて。関係性みたいなところがなんとなく読めるというか。そこで抱いた印象と演技がどうなってくるのかなというのはけっこう気になります。漫画家なので(笑)。あとはシンプルに、点数よりも技のすごさを純粋に楽しませてもらっています。

高橋 私は現役時代、6分間練習の時はひとりでガーッとちょこまかやるタイプで、パートナーが話しかけようとしても逃げたりしていたので、一度後ろから捕まえられたことがあります。そのままコーチのところに連れて行かれて「落ち着け」と言われて。だから6分間練習は本当に見ていて楽しいと思います。あとは、演技冒頭に組み込まれることが多いツイストリフト(※女性が空中で横回転する技)。この高さで順位が決まってくるくらいペアの実力がわかる技なので、詳しいことはわからなくてもツイストの高さを基準に実力を予想するのも楽しいと思います。演技が終わったあとに点数を待つキス&クライでのリアクションもチームの雰囲気がわかって楽しいですね。

逸茂 私も演技後の距離感はすごく面白いなと思っていました。ペアごとに全然違うので、キスクラでの構図を全部メモしていたりしていましたね。

ーーペアのキス&クライのリアクションで忘れられないのは、やっぱり高橋さんがマーヴィン・トランさんと2012年世界選手権で銅メダル(日本ペア史上初の世界選手権メダル)を決めた時です。

高橋 私も忘れられないです。あの時はショートプログラムが3位だったんですけど、コーチから「すぐに調子に乗るから3位は今日でおしまい。明日(のフリー)は絶対無理だから3位を目指すのはやめなさい」と言われて。コーチの意図としては守りに入らないように、ということでした。それもあって、フリーの演技後は絶対に3位じゃないと思っていたのに3位に入っていたから、すごくうれしい感情と、コーチに対して言葉は悪いですけど「それ見たことか! なるたちをわかってないね!」みたいな(笑)。いろんな言葉や感情が一気に噴き出していました。

ーー日本ペアの歴史的快挙の瞬間でした。では最後に、ペア競技の魅力をお願いします。

逸茂 (漫画の取材で)これまでお話を聞かせていただいた高橋さんや(元ペア選手の)柴田嶺さんのように、ペアの選手ってすごく相手の立場を考えて行動されているんですね。日常でそこまで相手を思って何かできることってあまりないですし、相手のことを考えることが(危険を伴う競技でもあるので)大事になってくる競技なんだな、と。私がペアで魅力だなと思うのはそういう人間的な部分、人柄につながってくるような思いやりのような部分が演技でも見られるといいなと思いながら観戦しています。

高橋 ペアはアクロバティックでサーカスティックな「3Dでスケートをしている!」というような演技が私はすごく好きなんです。全身を使って横にも縦にもダイナミックに跳んだり、デススパイラルという技では氷スレスレを回ったり。そういうところがやっていても、見ていてもすごく好きなところ。ぜひ見てほしいです!

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