現在、世界中のトレンドとなっているマルチ・クラブ・オーナーシップ(MCO)。同じオーナーが異なる地域やリーグに所属する…
現在、世界中のトレンドとなっているマルチ・クラブ・オーナーシップ(MCO)。同じオーナーが異なる地域やリーグに所属するクラブを複数所有し、経営することで、さまざまなプラスαの効果を上げるビジネスモデルだが、それをアジア発という新しい取り組みでけん引するのが『ACAフットボール・パートナーズ』だ。
そのCEOを務める小野寛幸氏に直撃インタビューを敢行。#4では、このたび発表された新たな取り組み『ACAFP LAB』の意義と、世界で活躍する日本人選手について経営者の視点から分析してもらった。
当然、サッカー以外の生活も大切だよなと
――このたび発表された『ACAFP LAB』。こちらでは、どのような取り組みをしていくのでしょうか?
チーフ・フットボール・オフィサーのアドリアン・エスパラガは、サッカーだけでなく、事業家としても活動してる人間なので、私に近しい立ち位置でフットボールを見ています。彼は、もともとスペイン語圏でフットボールを学術的に解説するコンテンツを発信していて、それが1年間で2万人ぐらいの受講者を獲得して、そのうちの10㌫が月2~3000円を払っても受講したいという反応もあった。 そういったコンテンツを立ち上げた実績があるので、 これをもっと複数のクラブを保有するプロジェクトの立場としてやっていこうというのが、『ACAFP LAB』になります。
ACミランや、バルサにもすでに同様のラボはありますが、私らだって、データをちゃんと取れれば提供できるものはあると私は信じていて、そういったものを専門的コンテンツとして発信していこうと。具体的に言えば、フットボールのパフォーマンス強化、戦術的な面、そしてケガの未病と予防、リハビリのプロセスなど、こういった専門領域の世界の最新トレンドを伝えて、それを、実証できる場所にしようと。
また、アカデミー世代の選手を対象としたプロジェクト「RISING STAR」などで東南アジアのサッカー協会などと話して気づいたんですが、シンガポールやインドネシアには、お金を持っていて、いくらでも選手を留学に出せる家庭があるんですよ。にもかかわらず、積極的には留学をさせないという答えが返ってくることがある。では、なぜか? サッカー協会の人たちは、「この子には学校があるから、留学先での滞在は1週間から10日で十分だ」、「海外に行く時期は、スクールホリデーに合わせてくれ」と、非常にリアリスティックでやっていたんですね。
なるほど、当然、サッカー以外の生活も大切だよなと。では、もし、サッカー選手として成功するコースに乗れなかった人は、その後どうするんだろう。成功できる選手なんて、ほんの一部ですからね。そこで、サッカー選手を終えた後、その延長線上にもビジネスキャリアを形成できるようになるために必要なものを学ぶ場としても考えています。
先述の通り、ACAFPは選手がステップアップできるように、クラブ間を階段状につなげていますが、そのビジネス版だと考えてもらえれば、わかりやすいですね。現在、各国の大学などと話を進めていますが、ゆくゆくは、大学とも提携して学術を収めた証書を出せるようにして、受講者が就職できるようにしたいという構想も持っています。
久保選手も三笘選手も「なるべくしてなった」
――話は変わりますが、久保建英選手、三笘薫選手という2大スターについてお聞かせください。一方は、幼少期から海外で経験を積んで、もう一方は、日本の大学を出て、成人になってから海外へ挑戦しています。この2つのコースについて、また、次世代スターを生み出すには、どのようなステップアップが適切なのでしょうか、小野さんのご意見は?
大切なのは、ステップアップのコースではなくて、選手自身が、明確にキャリアパス(成功するための道筋)が描けているかという点。とりあえずプロを目指して、とりあえずレギュラーを目指して、試合に出れるようになったから、とりあえず海外移籍をしたいという考え方は、世界トップクラスを目指すには少し遠回りかもしれないと思います。
久保選手は、FCバルセロナのカンテラで結果を残し、帰国後、FC東京で、18歳から海外にステップアップできる契約を勝ち取った。そして、バルセロナ、レアル・マドリードという2つの選択を迫られた際は、人情じゃなくてビジネスでレアルを選び、苦しい時期も、スペインでやり続けるという道を選んだ。三笘選手は、高校生で、このまま川崎フロンターレに上がっても通用しないと大学進学を選んだのは有名な話ですし、海外移籍のときも、プレミアリーグという世界最高峰の舞台へ行くためには、ヨーロッパの1部リーグ、または5大リーグの2部で試合経験がある、そして、ある程度の活躍をする必要があるという仮説を立てて、ベルギー1部のユニオンSGを経て、プレミアリーグのブライトンに辿りついた。つまり、2人ともなるべくしてなった。今の2人の活躍は決して偶然じゃなくて、遅かれ早かれ届くステージだったと、私には見えます。
久保選手や三笘選手のような選手は、サポートがなくても自己プロデュース力で世界のトップになっていくでしょう。でも、そもそも活躍の場が提供されていない、経済的に貧しいからサッカーに専念できない、または、海外への挑戦の意欲はあるけど努力の方向が間違っている、そういったアジアの選手たちのステップアップのお手伝いをするのが、私らの仕事だと思っています。
小野寛幸(おの・ひろゆき)ACAフットボール・パートナーズ CEO。慶應義塾大学卒業後に、大和証券エスエムビーシー株式会社(現:大和証券株式会社)に入社し、M&Aや資本調達アドバイザリー業務に従事。米系投資銀行を経て2011年ACA株式会社入社。
現在はマルチ・クラブ・オーナーシップを核としたフットボールビジネスを新設、資金調達や事業構築を担当する。