日本のフラッグフットボール界に吉報が舞い込んだ。2024年2月2日から2日間にかけて行われたインターナショナルNFLフラッグ・チャンピオンシップにて、日本代表として出場したノジマ相模原ライズJrが世界一に輝いた。同大会はNFLのスーパース…
日本のフラッグフットボール界に吉報が舞い込んだ。2024年2月2日から2日間にかけて行われたインターナショナルNFLフラッグ・チャンピオンシップにて、日本代表として出場したノジマ相模原ライズJrが世界一に輝いた。同大会はNFLのスーパースターが集うプロボウルゲームズの一環として開催。12歳以下の子供たちにより頂点が争われ、今大会は過去最大規模の国々が参加する中、日本勢で初優勝を飾った。
本記事では、同チームを率いるヘッドコーチの吉田英将(よしだひでまさ)氏に、チームの発足から世界一までの道のりを伺った。
地域と共に歩むべく、始まったノジマ相模原ライズJr
ノジマ相模原ライズJrの始まりは2009年に遡る。同年3月に前身チームの解散を経て相模原ライズが結成されたことを機にジュニアチームを発足。ノジマ相模原ライズは結成当初より、「社会情勢に左右されない、地域とファンと共に歩むプロフェッショナルクラブ」という理念を掲げている。スポーツを通じた青少年の育成、そして、地域と共に歩むクラブを目指すべく、ノジマ相模原ライズJr活動が始まった。
ノジマ相模原ライズJrのフラッグフットボールチームは現在、未就学児(4歳以上)から小学校6年生までの男女が在籍し、週に1回相模原市内のグラウンドで活動している。フラッグフットボールは、アメリカンフットボールのタックルの代わりにプレイヤーの腰にフラッグを取ることで、アメフトの戦略性を活かしつつ、小学生でも安全にプレーができる。現在、アメリカンフットボールのトップリーグで活躍する選手の中には、幼少期にフラッグフットボールを経験したプレイヤーも多いという。
ノジマ相模原ライズではアメフトの普及促進と地域と共に歩むという理念を叶えるため、相模原市内で小学生向けにフラッグフットボール教室を開催している。その他、体験会イベントを積極的に行い、フラッグフットボールに興味を持った子供たちがジュニアチームに入会。相模原というやや都会から離れた地域かつ、少子化が進む中でも、入会希望者が集まり、安定したチーム運営に成功している。
1プレーの成功を全員で喜べるのが醍醐味
2011年からノジマ相模原ライズJrの指導にあたっている吉田氏は、元々相模原ライズのプレイヤーとして活躍したトップアスリートだ。トップリーグでのプレー経験を持つ吉田氏が中心となって、フットボールの基礎作り、そしてスポーツを通じた人間育成に取り組んでいる。
チームでは多くの指導方針を掲げているが、中でも“諦めない心”の醸成を大切にしている。「最近の子供たちは、すぐに『無理だー』など諦めてしまう傾向がある」と吉田氏は話す。フラッグフットボールは連携が勝敗の鍵を握るチームスポーツとなるため、1人でも途中で投げ出してしまう選手がいると、チームは機能しなくなる。なによりフラッグフットボールは戦略・戦術が重要であり、ワンマンでは上手くいかず、一人ひとり明確な役割があるスポーツだ。途中で投げ出してしまう言動が見られた場合には、吉田氏自身が子供たちと真剣に向き合い、しっかり指導することを心掛けている。
「1つのプレーの成功にフィールドにいる全選手が関わり、全員で成功を喜びあえる。これこそが(フラッグフットボールの)醍醐味だ」と吉田氏は語るように、一人ひとりが最後までプレーを続けることで、全員で成功を喜び合うチーム作りを行った。
こうした指導の下、チームは次第に力を付け、2021年にはNFLフラッグフットボール日本選手権でチャンピオンに輝いた。また、ジュニアチームの発足当時に在籍した選手が社会人となり、ノジマ相模原ライズに入団するという嬉しい出来事もあった。
2022年度の日本選手権は4位に終わったが、多くの下級生が試合に出場していたことから、2023年度は優勝候補にも名前を挙げられていた。しかし、春は関東大会のベスト8で涙を飲んだ。レシーバー(パスを受ける前線の選手)にやや依存してしまったという反省が出たことを踏まえ、チーム全体でのレベルアップを図り、秋の日本選手権では前年の雪辱を果たし優勝。日本代表としてインターナショナルNFLフラッグ・チャンピオンシップへの出場を決めた。
徹底した準備で世界一の栄光を掴む
日本の代表として臨むことになった今大会だが、「大会前は優勝というより、まずは1勝という気持ちが強かった」と吉田氏は語る。
今大会はフランスやドイツなどの欧州をはじめ、南米やアジアなど世界各国が参加。ガーナ代表選手には12歳ながら身長180センチを超える選手が複数人いたり、ドイツ代表にはサッカー強豪クラブの下部組織に所属する選手がいたりとスピードなど身体能力は日本の選手より遥かに上回っていた。
前回大会の日本代表は、この身体能力の差に苦戦した。前回大会はブロック禁止のルールが採用されるなど、日本代表にとって不利な条件となったこともあり、日本代表は1勝もできず、予選敗退となってしまった。
今大会は、身体差に負けないためにも、徹底した準備で試合に臨んだ。試合前には対戦相手のパスコースや弱点をビデオで研究し、対戦相手によって守備位置を変更するなど徹底的にプレーに落とし込んだ。その結果、予選ラウンドでは3試合を無失点に抑え、決勝ラウンドに進出。大会が進むにつれて、吉田氏自身も「もしかしたら優勝が狙えるのではないか」と手応えを掴んでいった。
その後も順調に勝ち進み、決勝戦ではメキシコ代表を相手に18対6と差をつけ、見事優勝に輝いた。身体能力では及ばないものの、作戦面や強固なディフェンスなどプレーの質では群を抜いており、勝ち進む度に日本代表への注目度が増していったという。フィジカル面で劣っていても、徹底した準備でプレーの質を高めれば、世界の強豪国にも勝てることを証明して見せた。
ノジマ相模原ライズJrの新たな挑戦
フラッグフットボールは2028年に行われるロサンゼルス五輪の正式種目に決まり、世界的にホットなスポーツになっている。日本でも2020年度から小学校の学習指導要領に盛り込まれるなど、注目を集めつつある。
しかし、体育の指導要領に入ったが、課題も多く、まだまだ認知度が低いのが現状だ。小学生はフラッグフットボールのクラブチームが盛んだが、中学生に進むと、部活動でフラッグフットボールを採用している学校は少ない。そのため、多くのプレイヤーが中学に進むと、一旦フラッグフットボールから離れてしまうという課題があった。
さらには今年度世界一になった小学生の多くがフラッグフットボールの継続を希望していた。そこで、ノジマ相模原ライズは2024年4月から新たに中学生部門のフラッグフットボールチームを創設することを決定。正式にグラウンドを確保し、中学生部門も吉田氏がコーチを務める予定となっている。
フラッグフットボールの普及発展、そして2028年ロサンゼルス五輪に向けて、ノジマ相模原ライズJrの挑戦は今後も続いていく。
(取材協力・写真提供:ノジマ相模原ライズ)