2028年五輪開催には28歳の最適期を迎える近江佑璃夏 photo by Murakami Shogo近江佑璃夏インタビュー(後編)インタビュー前編「競技の魅力は『戦略があれば男子チームにも勝てる』」はこちら>> 2028年ロサンゼルス五輪…
2028年五輪開催には28歳の最適期を迎える近江佑璃夏 photo by Murakami Shogo
近江佑璃夏インタビュー(後編)
インタビュー前編「競技の魅力は『戦略があれば男子チームにも勝てる』」はこちら>>
2028年ロサンゼルス五輪の追加種目に決まったことは、日本の女子フラッグフットボールの「顔」として活動する近江佑璃夏を含め関係者たちにとって大きな報となった。一方、全国の多くの小学校の授業でフラッグフットボールが採用されていながら、その後に競技を継続する人たちの受け皿の少なさなど課題は少なくない。
近江選手はオリンピック競技となることで競技が発展し、そうした課題などが解消されていくことを期待している。
【フラッグフットボールとは?】
非接触型のアメリカンフットボール(アメフト)といわれ、第2次世界大戦中に米軍で生まれたとされている。アメフトで相手を止めるために行なうタックルの代わりに、選手が腰につけたフラッグを取ることで相手の攻撃を止める。国際ルールでは1チーム5人で対戦し、試合時間は40分(前後半20分)。70×25ヤード(約64m×22.8m)のピッチで行なわれ、両サイドにある幅10ヤード(9.1m)のエンドゾーンにボールを運ぶとタッチダウン(6点)となる。4回の攻撃権が終わると攻守が入れ替わるのはアメフトと同じ。
【選手として一番良い時期に迎える五輪】
――フラッグフットボールがロサンゼルスオリンピックの追加競技として採用された時の気持ちはいかがでしたか?
「もちろん、うれしいという感情はありましたが、決まった時は安堵感のほうが大きかったです。というのも、私が本格的に競技で代表を目指し始めた時にオリンピック種目になるかもしれないと聞いていましたが、正式に決まっていない、フワフワした状態が続いていたからです」
――近江選手にとって、オリンピックはどういった存在ですか?
「そうですね、やっぱり小さい頃からスポーツがすごく好きだったのでオリンピックも見ていましたし、世界各国のアスリートたちが集まって競い合うスポーツのトップの大会で、私にとっては夢の舞台です」
――ロサンゼルス五輪の年には28歳と、アスリートとしては一番良い時期を迎えている頃かと思います。幸運だというふうに感じられていますか?
「はい、それは本当に感じています。幼い頃から触れてきたフラッグフットボールがオリンピックに決まって、かつ自分が女子代表として狙えるというのは、運がいいと言っては何ですが、そういう運命だったのかなとも思います」
――近江選手は2022年のワールドゲームズ(オリンピックに参加していない競技・種目の総合競技大会)や昨年のアジア・オセアニア選手権にも出場しています。そういった国際舞台で戦うことの楽しさなどはどのように感じてこられましたか?
「国内だと女子のチーム数は結構少ないですし、みんなが顔見知りみたいな状態なので、そこで競争力を上げていくには限りがあると思っています。ですが、海外に行くとうまい人がそこら中にいるので、チームにはもっと上を目指そうという闘争心が煽られます。その中で日本が勝てる部分も十分にあるので、自信にもつながっています」
――そういった国際舞台を経験され、2028年のロサンゼルス五輪にもし出場した場合、どれほどの盛り上がりになると思っていますか?
「まだ全然、想像はついていないのですが、アメリカではフラッグがめっちゃ盛り上がってきています。今年は男子のプロリーグができ、来年は女子のプロリーグができるらしく、オリンピックに向けてNFL(アメリカンフットボールのプロリーグ)にも協力してもらいながら盛り上げています」
【全国6700の小学校に普及した理由】
――フラッグフットボールは現在、学習指導要領に含まれ、日本全国の小学校の3分の1にあたる約6700校で体育の授業に採用されているそうですが、この競技の魅力や長所が子どもたちの教育に向いている理由になっているのでしょうか?
「はい。すごいですよね。フラッグフットボールは作戦を考えてそれを試して、さらにもう1回、考え直してトライをしてということを繰り返していきます。あとは楕円形のボールを触ったことのある子は多くはないと思うので、平等性も高いのかなというのもあります。ちっちゃい子も大きい子も、男の子も女の子も、全員が活躍できるっていうところで小学校のスポーツに向いていると思います」
――近江選手も子どもたちに教えるためのイベントなどに呼ばれたりするのですか?
「ご依頼をいただいた時には小学生に教えに行ったり、小学生のチームを教えたり一緒にプレーしたりします」
――社会人としてフラッグフットボールをプレーすることから得られるものはありますか?
「アメフトも同じだと思いますが、フラッグは準備のスポーツでプレーを合わせるのにめちゃめちゃ時間をかけます。練習で合わせたプレーを持ち帰ってオンラインでみんなで『ここのタイミングはこうだよね』という具合に、選手同士でコミュニケーションを取って次の練習に向けて調整していく準備は、今の仕事に役立っていると思っています。私は営業職で、お客さんの情報を集めてどれを役立てようかというようなところを結構、準備していくタイプなので、仕事でもスポーツを生かせていると感じます」
――アメフトからプレーのインスピレーションを得たりはするものなのですか?
「アメフトのプレーも見たりはするんですけど、とはいえ結構、違う部分が多いので、(フラッグフットボールの)海外のプレーを真似するほうが多いです。身体的な力の差を補うべく日本独自で考案したプレーも、みんなで話し合いながら『面白そうだね』みたいな感じでつくったりしています」
――ブルーローゼスでのプレーの数はどれくらいあるのですか?
「詳細には触れられませんが、全部で50以上です」
――それだけの数のプレーを覚えるのは大変ですよね。
「そうですね。シンプルに暗記をするところもありますが、プレーの名前に意味をつけて暗記法みたいな感じにして覚えるものもあります」
【オリンピック後の青写真】
2023年のアジア・オセアニア大会で優勝するなど、同地域では日本がトップに立つ
写真/本人提供
――今回はまず2028年ロサンゼルス五輪の競技に採用されましたが、それ以降のオリンピックではまだどうなるかわかりません。そこについてはどうお考えですか?
「(ロサンゼルスでの)結果次第で日本のフラッグフットボール界全体が発展するかどうかが決まる大会になると思っています。メダルを獲ることでメディアにも取り上げていただけるだろうし、そこから発展していくだろうと考えているので、私はフラッグフットボール界にとっては最重要の大会ではないかと思います。
フラッグはオリンピックまでも発展していくでしょうが、とはいえ結果が出なかったら発展しようにもできないというか、オリンピックで結果を出したら全国で部活も出てくるんじゃないかと思うので、私はそこが楽しみです」
――小学校の授業では採り入れているところが増えていて、オリンピック次第ではそこから先、中学高校で部活動としてやっていく可能性も出てきますね。
「今は中高の受け皿がほとんどありません。私のチームにも高校生がいるんですけど、中学にはチームがあったのに高校に上がるとなくなっちゃうという子が結構いて、うちで受け入れている状況です」
――近江選手としても競技の普及に一役買いたいというところでしょうか?
「そうですね。貢献できたらいいなと思いますし、それが自分のレベルアップにもつながるかなと思っているからです。とはいえ、どうやったら普及できるんだろうという難しい部分はありますが、今は結構、SNSの発信は頑張ろうと思ってやっています」
――ロサンゼルス五輪の出場権をかけた予選方式などはもう公表されているのでしょうか?
「まだ何も知らされていないのですが、噂では地域ごとに2カ国ずつが選ばれるんじゃないかと聞いています。計6カ国がオリンピックに出場するのですが、それは大会前年の2027年には決まっていると思います」
――アジア地域だとどこが日本のライバルになりそうですか?
「この前(2023年)、アジア・オセアニア大会というのがあって、そこでは日本が圧倒的ではあったので今の段階ではライバルと言える強豪はいません。だた、ニュージーランドやオーストラリアはラグビーが盛んな地域ですし、今後そこからの流入があるようなら、日本にとっての強豪になってくると考えられます。あとは中国も動向次第ではライバルになるかと」
――近江選手としては今後、フラッグフットボールの選手、またひとりの人間としてどのようなところを目標として活動していきたいとお考えですか?
「世界一のレシーバーになりたいという思いもありますが、次に行なわれる中国でのワールドゲームズから1チームの人数が10人(現状は12人)になるので、(オフェンスとディフェンスの)両方ができる人が選ばれることになります。ですから世界一のレシーバーだけを目指していても選ばれない可能性もあるので、フットボーラーとして世界一を目指していきたいと思います。
また、私はフラッグ歴が長いほうなので、新しく入ってくるメンバーなどの支えにもなっていきたいし、キャプテンのような立ち位置でオリンピックには臨みたいと思っています」
――フラッグフットボールの選手としては、永遠にプレーできるものではないと思います。人生設計のようなものは描いているのでしょうか?
「今は本当にオリンピックが目標で、その後はまだ考えていません。ただ人生を通して、選手という形ではないにしてもフットボールの発展には携わっていきたいなとは思っています」
【Profile】近江佑璃夏(おうみ・ゆりか)/1999年、大阪府大阪市生まれ。元社会人チームでプレーした父や、社会人Xリーグ・IBMビッグブルーに所属するプロ選手の兄・近江克仁を持つ「アメリカンフットボール一家」に育ち、さまざまなスポーツを経験しながら立命館大学では応援団チアリーディング部に所属していたが、カナダ留学中に本格的にフラッグフットボールを開始。現在、自身が代表を務めるチーム「Blue Roses(ブルーローゼス)」や日本代表で活動。2023年のアジア・オセアニア選手権に出場し優勝メンバーとなった。一般企業の営業職社員としてフルタイムで勤務に当たっている。