【連載】『令和５年度卒業記念特集』第43回　村上楓／女子ハンドボール

大切なもの

　これまで何度も全国優勝を経験し、輝かしいハンドボール人生を歩んできた村上楓（スポ４＝福岡・明光学園）。苦悩の時期を乗り越え、成長を遂げた大学４年間に迫る。

　ハンドボールをする兄弟の姿を小さい頃から見てきた村上が、小学４年生の時に競技を始めたのは自然なことだった。小学校では全国優勝を経験。「恩師」と出会った中学校時代は、ハンドボール激戦区の熊本県で全国に出ることの厳しさにも直面した。その悔しさから進学した強豪・明光学園では、自身が主将の時に三冠という偉業を成し遂げた。

　練習中、笑顔の村上

　そんな村上が早大への進学を決めたのは、学年の壁がなく、楽しむハンドボールに惹かれたからだ。しかし、１年目は新型コロナウイルスによるリーグ戦の中止に加え、膝のケガの影響で思うようにハンドボールをすることができなかった。ハンドボールができない悲しみで、先輩に泣きながら相談することも。「自分にとってハンドボールはすごく大事だったんだな」。このケガの経験がきっかけで、村上は大学卒業後も競技を続けることを決断した。

　最後の早慶戦でパスを出す村上

　ケガ復帰後は、司令塔としてチームを引っ張ってきた村上。キレのあるフェイントとスピードを武器とする突破力で相手ディフェンスを翻弄（ほんろう）。運動量豊富なディフェンスで、下級生の頃から攻守共に欠かせない選手だ。「２年生までは好きなようにやらせてもらってた」と、自分らしいプレーを伸び伸びとやっていたという。意識が変わったのは、先輩に頼っていた環境から変化した３年生の時。早大ハンドボール部は例年人数が少なく、平日は学生主体で練習をしている。チームがどうしたら強くなるのか、自分のことよりも全体のバランスを考えてメニューを組み、行動する必要が出てきた。自分が何をしたいのか、見失ってしまうこともあった。そんな村上の焦りに拍車をかけたのは、これまで頼りにしていた同期・川村夏希（スポ４＝東京・佼成学園女）のケガによる離脱だった。川村の悔しさを思うと、どんな声を掛けて良いのかわからなかったという。「一番近くで話をたくさんしてきた人がいなくなった時の不安が大きかった」と、村上は当時の心境を振り返る。

　インカレ初戦でシュートを放つ村上

　苦悩の３年時とは打って変わり、ラストイヤーはチームとしても個人としても成長を遂げた１年となった。まず、主将として村上が目指したのは一人一人が考えてプレーするチームだ。全国優勝経験者が多く在籍する中で、大学からハンドボールを始めた部員もいる。多様な環境の中で、声の掛け方や伝え方を工夫することで全体の底上げを図った。キャプテンとして時には厳しい声掛けをし、きついランメニューも積極的に取り入れた。「今までは自分がやるべきことに集中しがちだったのが、相手がどう考えているのかを考えて話せるようになった」と、チームを一番に考え周りを見ることで、村上自身の精神的な成長にもつながった。

　インカレ後、同期との集合写真（中央が村上）

　類を見ないキャプテンシーと人柄でチームを率い、後輩からも慕われた村上を支えたのは４人の同期だ。それぞれが異なる役割を果たし、同期全員でチームを作り上げたという。「自分がチームを引っ張ってきたというより、みんなに支えられて１年間主将をやれた」（村上）と、４年生５人で作り上げたチームは、創部史上２回目となる上位リーグ進出（関東学生春季リーグ）、インカレベスト８という好成績を収めた。村上自身も春季リーグで優秀選手に選出されたが、チームの結果に満足はしていなかった。「これだけ頑張ったけどこの結果で止まってしまった。本当に後悔のない１年間にできるように、後輩には頑張ってほしい」。どんなに苦しい試合展開でも繰り出される冷静なゲームメイクと闘志あふれる村上のプレーは、後輩の目に焼き付いているだろう。そしてこの１年、誰よりもチームのことを考え、ハンドボールに真摯（しんし）に向き合った主将の姿は、次の世代に継承されるはずだ。

　早慶戦後、胴上げをされる村上

　13年間続けてきたハンドボールは、「いろいろな人との出会いをもたらしてくれた存在だった」という。プレーできない時期を大学時代に経験し、ハンドボールが自分にとって大切なものであると気づいた村上。大学卒業後は、苦楽を共にした川村とソニーセミコンダクタマニュファクチャリング ブルーサクヤに所属し、日本ハンドボールリーグでプレーをする。早稲田で得た強みを武器に、村上はこれからもハンドボールと共に歩む。

（記事　渡辺詩乃、取材　大村谷芳、写真　野中美結、権藤彩乃、丸山勝央、渡辺詩乃）