3月19日から第96回選抜高校野球大会(センバツ)が始まる。2024年は甲子園球場が開場して100年となる記念の年。以前よりも飛ばないと言われる「新基準バット」の導入、1イニング1回のタイム制限、投手の二段モーション解禁など変更点が多く、…

 3月19日から第96回選抜高校野球大会(センバツ)が始まる。2024年は甲子園球場が開場して100年となる記念の年。以前よりも飛ばないと言われる「新基準バット」の導入、1イニング1回のタイム制限、投手の二段モーション解禁など変更点が多く、見どころの多い大会となりそうだ。

 都道府県大会を勝ち上がって代表が決まる夏とは異なり、センバツに出場するチームは、秋の地区大会、明治神宮大会とほかの都道府県のチームと対戦するうえ、試合数も多い。豊富なデータが集まるため、数字から有力校をあぶり出すことができる。


出塁率の高い関東一のリードオフマン・飛田優悟

 photo by Ohtomo Yoshiyuki

【唯一3項目すべてでトップ10入りは?】

 そのなかで、筆者が注目するのはBB/K(四球/三振)、OPS(出塁率+長打率)、K/BB(奪三振/与四球)の3項目だ(※公表されているデータの都合上、BBに死球も含める)。

 19年の大会では3項目すべてでトップ10入りした3校のうち、東邦が優勝、明豊がベスト4。昨年は唯一、3項目すべてトップ10入りした広陵がベスト4入り。2項目でトップ10入りした5校のうち大阪桐蔭、報徳学園(準優勝)の2校がベスト4以上と上位進出する可能性が高く、優勝を予想するうえで見逃せないデータになっている。

 あらためて3項目を説明すると、BB/Kは打者のアプローチを評価する指標。四球が選べて三振が少なく、選球眼とミート力を兼ね備えていることを示す。OPSは出塁率と長打率を足した数字。打率や打点よりも打者の攻撃力を表わしており、チーム得点との相関性が高い。K/BBは投手の指標。数値が高い投手は奪三振が多く、四球が少ないため、投手としての完成度が高いといえる。

 昨年同様、3項目すべてでトップ10入りしたのは1校のみ。そのチームは関東一だ。BB/Kが2位、OPSが4位、K/BBが5位をマークしている。

 左腕エース・畠中鉄心はK/BBが10.5、1試合平均与四死球0.77個を記録。チェンジアップを巧みに使いタイミングを外す。二本柱の右腕・坂井遼は最速145キロの直球が武器。一本調子になる傾向があるため、どれだけ冷静に投げられるか。

 打線は中軸に座る高橋徹平、熊谷俊乃介と一発のあるふたりが注目されるが、キーになるのは1番の俊足・飛田優悟。11試合で10四死球を選び、打率は.500。飛田の出塁がチームに流れを呼び込む。関東一は以前から足を使った野球を展開しており、新基準バットの影響を受けにくいのも好材料だ。

 秋の神宮大会では大阪桐蔭を破ったが、米澤貴光監督は「うちが神宮に慣れていただけ。甲子園でやったらどうなるかわからない」と自信を持つどころか、チームを引き締めていた。スキを突く走塁、進塁打の徹底などこれまでも武器にしてきた部分が新規格バット元年に強みになるか。

【関東一を追うのはこの5校】

 2項目でトップ10入りしたのは報徳学園、広陵、神村学園、健大高崎、豊川の5校。このうち、神村学園、健大高崎、豊川は攻撃部門のみでトップ10入り。投打の2項目でトップ10に入った報徳学園(BB/Kが4位、K/BBが2位)、広陵(OPSが9位、K/BBが6位)の2校が関東一に続く。

 報徳学園は昨年の準優勝に貢献した間木歩、今朝丸裕喜のふたりが健在。間木はK/BBが7.17。41回3分の1を投げ、自責点はわずか1(防御率0.22)と安定感抜群だ。188センチの大型右腕・今朝丸は安定感こそ間木に劣るが、最速が150キロに伸びた直球とフォークは簡単には攻略できない。

 打線はチーム打率.297と物足りないが、伝統的にバントやエンドラン、スクイズなどで得点を取るスタイル。新規格バットでロースコアの展開になれば、むしろ自分たちのペースで試合ができるだろう。

 広陵は1年春からエースナンバーを背負う高尾響、1年秋から正捕手の只石貫太のバッテリーの評判が高い。高尾はMAX148キロの速球に加え、スライダー、カーブ、スプリット、カットボールと球種も多彩。球速、球威、キレはいずれも充分だが、課題は球数が多いこと。1試合で150球前後になることがたびたびある。「抑えてやろう」というより「打ってもらおう」という意識で投げ、球数を減らすことができるか。

 二番手の堀田昂佑も最速140キロ台後半を投げる力があり、中井哲之監督の投手起用もポイントになる。

 3校を追うのが、ともに甲子園経験者が残る健大高崎と神村学園。プロ注目の強肩捕手・箱山遥人が攻守に引っ張る健大高崎は全出場校中トップのチーム打率.397、OPS3位の強打が自慢。機動破壊といわれたかつてのような攻撃はないだけに、新基準バットになってどれだけ秋と変わらない打撃ができるか。

 投手陣は2年生の二枚看板。U−15日本代表経験を持つ左腕・佐藤龍月、最速148キロを誇る石垣元気はともに球威があり、三振も取れるが、粗削り(K/BBは22位)。箱山のリードがカギを握る。

 昨夏の甲子園4強の神村学園はBB/K、OPSともに1位と強打を誇る。夏もクリーンアップを打った正林輝大、岩下吏玖、甲子園で打率.500を記録した上川床勇希ら経験豊富な打者が残っているのは強みだ。問題はK/BBが24位の投手陣。エース・今村拓未は昨夏の甲子園・市和歌山戦で先発も3四死球を与え、3分の2イニング、20球で降板。四球から崩れるパターンから脱却できるか。

【制球力に不安を残す大阪桐蔭投手陣】

 これらの5校と同様に力を持つのが明治神宮大会優勝の星稜、準優勝の作新学院、近畿大会王者の大阪桐蔭だろう。

 星稜は21年に全国二冠に輝いた星稜中出身の選手が多く、勝ち方を知っているのが強み。エースの左腕・佐宗翼はK/BB5.44を記録。右腕の道本想もK/BB3.91をマークし、チームK/BBは4位。強力投手陣で秋春連覇を狙う。

 作新学院は大会屈指の右腕・小川哲平を擁する。中学時代に144キロをマークした速球は最速147キロ。昨春のセンバツはヒジ痛の影響で3分の1回、10球しか投げられなかった。大会ナンバーワン投手として臨む今大会で雪辱を誓う。

 大阪桐蔭はBB/K10位、OPS13位と打線は例年のような迫力はないが、昨年から3番に座る徳丸快晴、昨秋12試合で5本塁打のラマル・ギービン・ラタナヤケら能力のある選手が並ぶ。

 投手陣もK/BB19位と制球力に不安が残るが、平嶋桂知、南陽人、中野大虎、森陽樹ら140キロ台中盤以上を投げる投手がズラリ。注目は2年生の森。189センチ、83キロと体はできていないが、すでに最速151キロを記録。投手陣のなかではもっとも制球力があるだけに、どれだけのイニングを投げられるか。

 選手では1年夏から甲子園のマウンドを踏む八戸学院光星の左腕・洗平比呂、豊川のロシア出身のスラッガー、モイセエフ・ニキータに注目。

 秋から春、年度の途中でバットが変更された異例の年。勝ち上がった秋と同様の戦い方を貫くのか。はたまた、違う野球に変えるのか。各監督の考え方や采配も見ものになるセンバツ。甲子園球場100周年にふさわしい熱戦を期待したい。