U-23日本代表MF/シント・トロイデン藤田譲瑠チマ・インタビュー後編「日本とベルギーのサッカーの違いとは」 ゲンクがベ…
U-23日本代表MF/シント・トロイデン
藤田譲瑠チマ・インタビュー後編
「日本とベルギーのサッカーの違いとは」
ゲンクがベルギーの強豪クラブのひとつに対し、シント・トロイデンは小クラブ。ただ、両者が激突する「リンブルフ・ダービー」は、クラブの規模とは関係なく、常に際どく白熱したゲームになる。
藤田譲瑠チマが先発した1月28日のダービーもそう。ゲンクが1点リードした後半アディショナルタイム。伊藤涼太郎の美しいFKがゴールネットを揺らして1-1に追いついた。その直後、ゲンクのサポーター席から発煙筒が何本も投げ込まれて試合は中断。再開後、勝ち越しゴールを狙ってシント・トロイデンは攻め込んだが、両者勝ち点1を分け合って終了した。この一戦を、U-23日本代表の大岩剛監督が視察していた。
そのダービーの結果や、五輪代表について、シント・トロイデンのクラブハウスで藤田に聞いた。
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藤田譲瑠チマは大岩ジャパンの中盤に欠かせない存在
photo by AFLO
── リンブルフ・ダービー、すごかったですね。
「そうですね。試合中も発煙筒が投げ込まれたり、(前半2分に失点して)自分たちのサポーターからブーイングを浴びたり......。そんなこと、日本ではあり得ない。観客数(10,437人)はそんなに多くないと思いますが、日本では味わえない雰囲気でした。とてもいい経験になりました」
── たしかに試合開始早々にブーイングがありましたが、それでも最後、伊藤涼太郎選手がすごいFKを決めて盛り上がりました。
「このチームはすごい距離感が近いというか。まあ、地域が狭いっていうのもあると思いますけど、街中を歩いてたらファン、サポーターの人に声をかけられたりするのが当たり前の土地柄です。クラブ愛がすごく伝わってきます」
── 先日、オランダリーグを取材していたら、たまたま大岩剛監督の姿を見かけました。シント・トロイデンにも視察に来ましたか?
「はい、少しだけ話をしました。大岩監督が来たのはゲンク戦でした。0-1で負けていた時に自分がベンチに下がったので、監督から『難しい状況だね』という話がありました。あとはポジションの話。『ふだんとは違うポジションかもしれないけれど、その状況でも自分のよさを出せるように今はがんばって』ということ。
U-23日本代表のことで言うと、『アジアカップのA代表を見ればわかるとおり、簡単な試合はひとつもない。相手チームの流れが今まで以上に多くなるから、そういったなかで日本は耐える時間が長くなる。今のうちに、そのことに慣れておいてほしい』という話がありました」
── 大岩監督の「ふだんのポジションとは違うかもしれないけど」という話ですが、藤田選手はU-23日本代表でもシント・トロイデンでもボランチを務めていますよね?
「シント・トロイデンではダブルボランチの一枚をやっていますが、トップ下のようにプレーする時間帯もある。僕はこれまで、そんなにトップ下をやってきたことがないので......」
── 4月から5月にかけてカタール・ドーハでパリ五輪アジア最終予選があります。グループステージでは、韓国、アラブ首長国連邦、中国と同じ組になりました。激戦が予想されます。
「アジアカップのA代表を見ていて『どこの国が一緒になっても簡単じゃない』という思いはあったので、強いと言われている国を早めに倒せたらいいなと思います」
── 東京五輪ではトレーニングパートナーとして合宿に帯同しました。あの時の経験は今に生きていますか?
「これまで経験したことのない雰囲気だったので、すごくよかったと思います。あそこで経験したことを自分も発信していきたい。
でも『あの時は、ああいった感じだった』ということは言いません。自分のなかに一度、あの経験を取り込んで自分の言葉として発信しています。U-23日本代表では、自分が味方に要求していく回数が増えたと思うので、トレーニングパートナーの経験は今に生きていると感じます」
── まずはアジア予選を突破しないことには始まりませんが、その先を見越してパリでの目標は?
「いや、自分はまだ考えられないですね。言われたとおり、アジア予選を突破したわけじゃないですし、自分もまだメンバーに選ばれたわけではないので。それよりも、今の自分はシント・トロイデンのことで精一杯。それは代表に選ばれた時に考えればいい、と自分は思っています」
── 大岩ジャパンの一員として、イタリア(1-1)、スペイン(0-2)、ドイツ(1-1)、ベルギー(2-3)など強豪国と試合をしてきました。負けた試合もあれば、アルゼンチン戦(5-2)のように快勝した試合もありました。
「いい経験をさせてもらっています。自分としては、10回試合したら7回ぐらい勝てるような試合をしたい。5分5分だったらこの先は難しいと思うので、もうちょっと内容も向上していきたいという気持ちです。個人的には、1対1の個の強さで負けないことにこだわりたいと思います」
── ちなみにシント・トロイデンでの普段の生活は?
「特に日本にいる時と変わりません。チームの練習を午前にして、午後は自分のトレーニングなどをする感じですね」
── 息抜きはあるんですか?
「たまにザイオン(鈴木彩艶)や(山本)理仁と旅行に行くぐらいですね。デュッセルドルフ(ドイツ)、ミラノ(イタリア)、パリ(フランス)に行きました。日本だったら東京に行っちゃえば済むんですが、ヨーロッパは国によって特色や風景が違う。そういうことを楽しんでます」
── 山本選手とは8歳の頃から知っていて、東京ヴェルディのジュニアユース、ユースで一緒プレーしていた間柄。まさか再びチームメイトになるとは?
「思っていなかったです。小2の時に少し話をして、時が経って小6でトレセンに一緒になって、東京ヴェルディでチームメイトになりました」
── 藤田選手について当時の関係者に聞くと、「みんなジョエルのことを知っていた」と言われたくらい地域・世代のヒーローでした。ただ、U-17日本代表に選ばれるまでは時間がかかりました。
「そうですね。小学校の時はフィジカルだけで戦えていましたが、ジュニアユースに入ってからは周りの選手がどんどん大きくなり、自分の戦っているレベルもどんどん上がったりしていたので。
ジュニアユースの時は試合にこそ出ていましたけど、秀でているもの、長けているものがなかった。ユースでは試合に出てなかった時期もありましたし。それこそ代表なんて、まったくノーチャンスでした」
── 幼少期にフィジカルの強い子は、その後に周りの子が成長すると抜かれることが多々ありますが、それをまた抜き返すのはあまり見たことがありません。
「そうですね。なんだろう......成長期が早かったわけじゃなくて......。素が強かっただけで、僕の成長期は遅いほうだったんです。たぶん、高2くらいから伸び始めたんじゃないかな。今、言われてみると、そう思います」
── U-17日本代表は森山佳郎監督でした。通称ゴリ・ジャパン。
「U-17ワールドカップ(2019年)直近の遠征で呼ばれました」
── 大抜擢でした。
「そうですね。自由にやらせてもらっていました。ハーフタイムに自分たちだけでいろいろ話し合ったあと、ゴリさんが話すこともありました。『こうしよう』『ああしよう』と話し合い、お互いに要求し合うチームでした」
── 代表初招集でも自分の意見を言えるキャラクターやパーソナリティを、森山監督は見ていたのではないですか?
「その時は乗っていたので。ヴェルディユースでセンターバック、サイドバック、そしてボランチに戻ってからいいプレーをしている自信もありました。
自意識過剰かもしれませんが、代表でも自分がゲームを作っていた感じがしていました。いろんな人に指示を出して、その思いどおりになった時にはいいプレーができていた。『そういうプレーを増やしたい』という思いで、いろんな人に話していた記憶があります」
── ピッチ上でのコーチングは持って生まれたものですか? それとも、成功体験を繰り返していくうちに世界観を作ったのでしょうか。
「小学生(町田大蔵FC)の時にコーチが『話すことは誰でもできる』と言っていたので、僕のチームはみんなよくしゃべっていました。その延長だと思います」
── ベルギーの地元紙を読むと、「藤田はもう通訳抜きでインタビューができるようになった」と書いてありました。
「いや、必要ですよ。たまに言葉がわからなくなりますから」
── 英語でのコーチングはシント・トロイデンのボランチとして生命線ですよね?
「自分の英語力で日常生活は難しいと思います。ただ、サッカーのプレーであればそんなに英語力は問題ない。『ライト、レフト』だけでも基本的には通じるし、(味方を鼓舞したりする時は)表情とかでもわかりますし」
── 最近、出場時間が伸びています。疲労は?
「90分間、試合に出ると次の日に体の張りを感じたりしますが、60分、70分だけならまったく疲労が残りません。僕はプロ1年目、J2の過密日程のなかで41試合に出場して、中2日、中3日でずっと90分間、出ていましたからね。どんどん、もっと試合に出たいです」
<了>
【profile】
藤田譲瑠チマ(ふじた・じょえる・ちま)
2002年2月16日生まれ、東京都町田市出身。ナイジェリア人の父と日本人の母との間に生まれ、小学生時代は町田大蔵FCでプレー。東京ヴェルディの下部組織で能力を伸ばし、2019年9月にトップチームデビューを果たす。その後、徳島ヴォルティス→横浜F・マリノスを経て、2023年7月にシント・トロイデンへ完全移籍。日本代表デビューは2022年7月の香港戦。2024年はパリ五輪出場も目指す。ポジション=MF。身長175cm、体重76kg。